乃木坂46 ミュージックビデオ ランキング

乃木坂46, 特集

(C)乃木坂46 公式サイト

「フィクションと現実の偶会」

まえがき、
今回は、「過去と未来を照らし合わせる」という試みのもと、乃木坂46の歴代表題作におけるミュージックビデオを、あらためてデビュー作から読み批評していく。映像そのものの魅力を問うのはもちろん、その「映像」が後の乃木坂46の物語に、アイドルを演じる少女自身にどのような影響をあたえたのか、たとえば、フィクションと現実が偶会するような瞬間、映像=過去の中にアイドルの未来=現実がどのように映し出されていたのか、重点を置く。アイドルの値打ち、と名乗る以上、当然、点数も付す。点数は、乃木坂46の枠に限定せず、アイドルシーン全体においてその作品がどのような水準にあるのかという視点をもつ。
点数の基準は以下のようにした。

90以上 アイドルシーンに銘記されるべき作品
80以上 アイドルをもって現代を語り得る作品
70以上 アイドルの群像を描き出した作品
60以上 繰り返し視聴の可能な作品
50以上 観る価値がある作品
40以上 何とかMVになっている作品
39以下 ファンに見せる水準に達していない作品
29以下 人前で再生すると恥ずかしい作品

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1st.ぐるぐるカーテン  63

(C)ぐるぐるカーテン ミュージックビデオ

「名匠が手掛けた最初で最後の作品」

映像の色使いに監督の写真家としての特徴がよくあらわれている。真っ白なカーテンに包まれた少女を蝶のサナギに喩え見立て、「アイドル」を表現したのだという。そのとおりに、センターで踊る生駒里奈だけでなく、その両燐で踊る生田絵梨花、星野みなみ、また後にグループのエースとなる西野七瀬、白石麻衣、齋藤飛鳥などをはじめとする、乃木坂の地に集まった多くの少女が成長への膨大な可能性を指し示している。
一方で、カーテンに包まる、きわめて私的な空間、ポップな衣装をまとい、スカートを捲りあげる、いたずらにあざやかなデリケート・スペースのなかでアイドルが育まれていく光景は、教室の端にひとり立ち校庭を眺める主人公、大衆と対峙するアイドルを一貫して描いた欅坂46を想起させなくもない。乃木坂46、欅坂46、どちらもまったく同じ場所からアイドルの物語を書き出しているという感慨は、なかなかの情動を誘う。
今作品をてがけた操上和美は、おそらく乃木坂46のミュージックビデオをてがける数多の作家のなかで唯一「名匠」の称号を付される人物だが、残念ながら今作品以後、乃木坂46の映像作品には一度も関わっていない。『ぐるぐるカーテン』から8年後、本業である「写真」での再会ならば果たしている。

・映像作家:操上和美
・選抜メンバー:生駒里奈(センター)、生田絵梨花星野みなみ川村真洋能條愛未西野七瀬齋藤飛鳥斉藤優里桜井玲香井上小百合中田花奈市來玲奈橋本奈々未松村沙友理白石麻衣高山一実


2nd.おいでシャンプー  59

(C)おいでシャンプー ミュージックビデオ

「校則制定」

表題作では初のドラマ。「中田花奈」が”不純異性交遊”によって菖蒲色のエンブレム=校章を、つまりアイドルの資格を剥奪されるという、いまにして思えば微苦笑を禁じえない青春学園ドラマを描いている。
映像作品の内に記されたストーリーが、その後、現実世界のアイドルの物語の暗示として機能する、あるいは機能させられてしまう、という視点、意味性においては、やや安直であるが、今作はその典型と呼べるだろう。今作でのピックアップを最後に中田花奈はグループの表舞台から徐々に退くことになる。とくにグループ初のダンスナンバーであり当作にもなった『制服のマネキン』において選抜メンバーから漏れてしまった経験は、デビューから一貫してダンスに拘ってきた彼女にとって強烈なオブセッションとなったようである。彼女の言う「全盛期」とは、この『おいでシャンプー』を頂点に画したものなのだろうか。記憶が定かでないが、定番コール「ナカダカナシカ」がファンの口から発声され始めたのも、おそらくこの時期からだろう。
仲間のために大衆と闘う、という点においては前作のテーマを踏襲している。スカートをひらひらとさせる、この点も変わらない。また、HKT48の指原莉乃が「恋愛」の換喩として出演している。

・映像作家:高橋栄樹
・選抜メンバー:生駒里奈(センター)、桜井玲香、中田花奈、岩瀬佑美子、市來玲奈、斉藤優里、生田絵梨花、橋本奈々未、松村沙友理、白石麻衣、高山一実、井上小百合、星野みなみ、西野七瀬、畠中清羅、宮澤成良


3rd.走れ!Bicycle  48

(C)走れ!Bicycle ミュージックビデオ

「バイプレーヤー星野みなみ」

スカートへの偏執を一貫して引き継ぎつつ、アイドルを人形劇として語るという、教科書的な映像を構成している。妖精を吸収しその力を得るというシーンもまた、シンプルで、教科書的に感じる。このグループには主役である生駒里奈に取って代わるメンバーが何人もいるのだということを、星野みなみへの具体的な期待感と、星野みなみ個人の魅力をもとに強く印象づけている。けれど、結論を言えば、星野みなみがその後グループの主役になることはなかった。あくまでも「名脇役」にその存在感をとどめている。その点では、作品に現実を支えるだけの力がなかった、と読むべきかもしれない。今作から、若月佑美、深川麻衣、伊藤万理華といった個性的なメンバーがグループの表舞台に登場し、グループの序列闘争をより熾烈なものへと押し上げている。
また、アイドルシーン全体を眺めれば、今シングルの発売とほぼ同時期にAKB48の絶対的な主人公であり、平成を代表するアイドルでもある前田敦子がアイドルの物語に幕を閉じ、大きな話題を提供している。

・映像作家:中島哲也
・選抜メンバー:生駒里奈(センター)、生田絵梨花、星野みなみ、桜井玲香、斉藤優里、若月佑美、井上小百合、市來玲奈、伊藤万理華深川麻衣、中田花奈、橋本奈々未、白石麻衣、松村沙友理、西野七瀬、高山一実


4th.制服のマネキン  55

(C)制服のマネキン ミュージックビデオ

「大人への反抗」

真打ち登場と云うべきだろうか。後に欅坂46の『サイレントマジョリティー』を撮り、名声を博した池田一真の乃木坂46の表題作におけるデビューがこの『制服のマネキン』である。ファンから次回作を待ち望まれる数少ない映像作家であると、極褒めすべきかもしれない。事実、今作品において乃木坂46は見事にグループの岐路を払拭し、アイドルとして両足で立ち上がっている。作風としては、これまでのシングル表題作のMV、その世界観と地続きにされた、とりわけ『おいでシャンプー』の外伝と言い切っても良いシチュエーションを組んでいる。「恋愛」を下敷きにしたドラマツルギーをテーマにしつつ、社会にあらかじめ作られた枠組みとの衝突・反抗を描くことで、アイドルのそれぞれが、音楽、特に踊りのちからをもって能動的な意志を得ている。
作家の、今作品での経験、アイドルを踊りをもって語るという経験が、乃木坂ではなく欅坂において結晶した点は、ファンにとって評価を大きくわけるポイントになるかもしれない。黎明期とは、往々にして成長期と重なる場合が多い。黎明期からの脱出を担ったのが今作『制服マネキン』ならば、乃木坂の成長期を支えたのが次作『君の名は希望』である。『君の名は希望』のヒットによって乃木坂のアイデンティティが決まったことは、言うまでもない。
後に2代目キャプテンに就任する秋元真夏が今作からグループの物語に本格的に加わっている。

・映像作家:池田一真
・選抜メンバー:生駒里奈(センター)、生田絵梨花、星野みなみ、能條愛未、齋藤飛鳥、若月佑美、井上小百合、深川麻衣、市來玲奈、西野七瀬、高山一実、桜井玲香、橋本奈々未、白石麻衣、松村沙友理、秋元真夏


5th.君の名は希望  89

(C)君の名は希望 ミュージックビデオ

「乃木坂46=演劇集団の確立」

乃木坂46、イコール、演劇を支えにしたアイドル集団だというイメージを決定的にした点、アイドルとはファンに生きる希望をあたえる存在だとする使命感を、アイドルとファンを現実とも仮想とも捉えることのできるシチュエーションのなかで邂逅させ果たすという詩的ラコントを生み出した点から、まず間違いなく今日のアイドルシーンを代表・象徴する作品だと云えるだろう。当事者であるメンバーの多くが、今楽曲を初めて聴いた際には、高揚し、成功を確信したことを、後にインタビューで語っている。ミュージックビデオの作風は、映画のオーディションという前提と、エチュードという演劇の風に強く吹かれた設定のなかで、アイドルを演じる少女たちの才能のありかを舞台・映像をもってあぶり出すことをそのまま作品化する、作り手の独りよがった、アーティスティックに倒れたものとなっている。――ファンへの配慮か、本編に対する緩衝材としてDANCE & LIPを制作してもいる。
この作品の主人公は、つまり詩にあてがきされたのは生駒里奈ということになるが、この音楽をもって才能を開花させたのは生駒だけではない。生田絵梨花、西野七瀬もまた今作品を機にアイドルを大きく飛翔させている。
歌詞に登場した「僕」だけでなく、「君」つまり主人公を孤独からすくい上げた少女もまた、アイドルの理想像、規範として準備され、そのとおり「君」の面影をもった少女が、たとえば4期生の賀喜遥香のような少女がグループの物語に誕生しているという点においても『君の名は希望』はグループのバイブルへと昇華された作品だと云えるだろう。乃木坂46がNHK紅白歌合戦に初出場した際には、今作品が披露された。名実ともにグループを代表する楽曲、乃木坂の魅力を伝えるマスターピースとなっている。

・映像作家:山下敦弘
・映像作家:丸山健志(DANCE & LIP)
・選抜メンバー:生駒里奈(センター)、伊藤寧々、中田花奈井上小百合西野七瀬若月佑美深川麻衣永島聖羅高山一実桜井玲香橋本奈々未白石麻衣松村沙友理秋元真夏生田絵梨花星野みなみ


6th.ガールズルール  80

(C)ガールズルール ミュージックビデオ

「少女の群像と闘争を描いた傑作」

デビュー以来、常に乃木坂46の先頭に立ち歌い踊り続けてきた生駒里奈に代わり白石麻衣があたらしくセンターに立った。そうしたグループの動向を、少女たちにとってかけがえのないものを「大人たち」から守ろうとする、闘争の決起というシチュエーションをとおして、映像に仕上げている。思い出のプールを守るために大人相手に一人立ちはだかる生駒里奈。それを離れた場所から眺める白石麻衣の横顔はもちろん、孤軍奮闘する生駒里奈のもとにブラシを振り上げ駆け寄る桜井玲香など、アイドルの成長の瞬間を切り取ったシーンはカタルシスに欠かない。夜のプールというシチュエーションもまた、アイドルの幻想的なイメージを増幅させている。
今作品と既存作品の決定的な違いは、映像作品が現実に影響を及ぼすにしても、まず現実がそこにあり、その現実を映像に落とし込みフィクションを作ることで、次に現実に影響がでるという、逆説の試みになるだろう。
つまりこの試みが与えたのは、アイドルのそれぞれが、作品内に描き出された登場人物が架空のものではなく、アイドルを演じる自分自身にほかならないという、強い自覚である。ゆえに、今作品以後、ミュージックビデオで描いた物語の続きを現実世界であらわそうとするような、現実と仮想のひずみに囚われるメンバーが続出した。少女たちが、より「アイドル」に没入することになった、ということである。アイドルが現実感覚を希薄にするのならば、当然、そのアイドルを眺めるファンもまた、現実を見失うにちがいない。

一方で、シーン全体を俯瞰すると、AKB48が『恋するフォーチュンクッキー』を発表し指原莉乃を先頭にして、多くの見物人が集まった表通りを闊歩しているのが見える。向かうところ敵なし、といった様子。

・映像作家:柳沢翔
・選抜メンバー:白石麻衣(センター)、松村沙友理、橋本奈々未、伊藤万理華、井上小百合、中田花奈、若月佑美、星野みなみ、秋元真夏、深川麻衣、斉藤優里、桜井玲香、生田絵梨花、生駒里奈、西野七瀬、高山一実


7th.バレッタ  51

(C)バレッタ ミュージックビデオ

「不遇の2期、そのエースの登場」

前作同様に、今作もまた現実におけるアイドルの物語を映像にかえている。グループに加入したばかりの2期生がセンターに抜擢された現実の出来事を、映像のなかであらためてドラマチックに語り直している。「制服のマネキン」をオマージュした世界観のなかで、前作で主役を務めた白石麻衣があたらしい主人公である堀未央奈に背後から拳銃で撃たれ倒れるというフルーレは、なかなかにファンのこころを刺戟するものであるが、「だって、こうするしかないじゃない」と堀未央奈につぶやかせるシーンなどを見るに、若手の抜擢に向けるファンの批判をミュージックビデオ=フィクションに頼って申し開いているだけにも感じる。
作品の魅力が乏しかったからか、あるいは、ただ単に堀未央奈に才能がなかったのか、今作品以後、堀未央奈がグループの主人公つまりは表題作のセンターポジションに返り咲くことはなかった。また、堀未央奈以外の2期生がセンターに立つこともなかった。この2期をして、メディアからは「不屈の2期」と、ファンからは「不遇の2期」と呼ばれた。その点では、『バレッタ』は2期生の墓碑銘と云えるかもしれない。
デビューから乃木坂の顔として活動してきた星野みなみがはじめて「選抜」から落選し、アンダーに落ちた作品でもある。また一方では衛藤美彩、中元日芽香といった一筋縄ではいかない「個性」が表舞台に登場している。

・映像作家:江湖広二
・選抜メンバー:堀未央奈(センター)、西野七瀬、白石麻衣、橋本奈々未、松村沙友理、伊藤万理華、衛藤美彩、齋藤飛鳥、秋元真夏、深川麻衣、中元日芽香川後陽菜、高山一実、桜井玲香、生田絵梨花、生駒里奈、若月佑美


8th.気づいたら片想い  85

(C)気づいたら片想い ミュージックビデオ

「アイドルの儚さを描いた、西野七瀬の出世作」

西野七瀬の初センター作品。アイドルの儚さを「余命」に表現することで、その限られた時間のなかで果敢に生きる姿勢が、西野七瀬というアイドルの弱さと強さ、双方の魅力を克明に引き出している。
作品の導入部に描かれた、センターに選ばれた少女が仲間たちから間断なく祝詞を述べられるシーンが象徴的だが、西野七瀬という強い主人公の登場を、なによりも作り手たちが歓呼して迎えていることが見て取れる。その興奮は、『気づいたら片想い』とは、西野七瀬その人を音楽に閉じ込めた作品なのではなく、作り手のそれぞれが想う「西野七瀬」を音楽に、また映像に象った作品であることを強く印している。
今作をもって、これまで均衡を保っていた乃木坂のアイドル間でのパワーバランスが一気に崩れ、西野七瀬の一強になった感がある。星野みなみは言うまでもなく、”御三家”と名付けられグループのあたらしい顔となった白石麻衣、橋本奈々未、松村沙友理、そして黎明期・成長期の立役者でもある生駒里奈、生田絵梨花でさえも、西野七瀬の前ではバイプレイヤーにしか見えない、という事態が引き起こされている。この西野の独走は、彼女が卒業するその日までつづくことになるのだから、『気づいたら片想い』はまさしく西野の出世作と云えるだろう。
北野日奈子がグループの表舞台に初参戦した作品でもある。
AKBでは、前田敦子のライバルとして活躍した大島優子が卒業を決めている。

・映像作家:柳沢翔、澤本嘉光
・選抜メンバー:西野七瀬(センター)、橋本奈々未、生駒里奈、川村真洋、北野日奈子樋口日奈、秋元真夏、和田まあや、高山一実、堀未央奈、白石麻衣、桜井玲香、若月佑美、生田絵梨花、松村沙友理、深川麻衣


9th.夏のFree&Easy  30

(C)夏のFree&Easy ミュージックビデオ

「松井玲奈を招くも……」

前作『気づいたら片想い』から引き続き、西野七瀬をセンターに迎え、彼女を中心とした映像作品を編んでいる。しかし前作とは打って変わり、見るべきところ、語るべきところ、共に少なし、といった感を否めない。映像から作家の想像力、私情のようなものを、一つも拾うことができない。
あえて特筆点を探るなら、交換留学生として松井玲奈が選抜メンバーに名を連ね、出演している点になるだろうか。アイドルの礼儀正しさとはどういうものなのか、模範となったのが、この松井であり、その礼儀正しさが今日の乃木坂のスクールカラー、たとえば「清楚」や「処女性」といったイメージに寄与していることはまず間違いないから、その意味では、松井の登場を記録した『夏のFree&Easy』は価値のある一曲と云えるだろう。端役でしかなかった深川麻衣が、その存在感を強めつつあることも映像の内に認めることができる。映像作品全体を通し、当時の渋谷の様子がキレイに記録されているから、郷愁を誘うところもあるにはある。
今作品以後、同一のメンバーが2作品連続で表題作のセンターポジションに選ばれるというストーリーを乃木坂46は作っていない。西野七瀬以降、強い主人公の登場を叶えていないということだが、あるいはそれは、ただ単に今作における失敗、同じ少女を連続で語ることのむずかしさに教訓を得たから、なのかもしれないが。
『ガールズルール』に続き夏を主題にした作品に抜擢されたことで斉藤優里に”夏女”のイメージがついた。

・映像作家:丸山健志
・選抜メンバー:西野七瀬(センター)、若月佑美、秋元真夏、桜井玲香、深川麻衣、生駒里奈、衛藤美彩、井上小百合、斉藤優里、星野みなみ、大和里菜、堀未央奈、高山一実、松井玲奈、白石麻衣、橋本奈々未、松村沙友理


10th.何度目の青空か?  79

(C)何度目の青空か? ミュージックビデオ

「『君の名は希望』、生田絵梨花主演で待望のドラマ化」

アイドルのミュージックビデオにおいて人間喜劇を完成させた唯一の作品だという意味では破格の価値を誇る。
映像作品の作風としては、元女子校に入学した男子生徒「僕」が、一人の少女「君」と出会い、その笑顔に孤独の中からすくい上げられるという、群青色にかがやいた青春の物語だが、説明するまでもなく、これはアイドルとそのファンの邂逅を描いた『君の名は希望』を語り直した、言わば過去作品のドラマ化である。
デビューから一貫して生来の強い主人公感を示すも、乃木坂のこれまでの音楽作品においてはバイプレーヤーに徹してきた生田絵梨花がようやく主役に配され、なおかつ、過去作品において主人公を演じたアイドルたちが脇役を好演するという、豊穣な人間群像を確立した点を、まず称賛すべきだろう。
そのアイドル群像はまた、バルザック的とも云える人間喜劇を作り出してもいる。闖入者の立場をもった男子生徒に対し、悪ふざけすることでしか接することができない白石麻衣や西野七瀬等の表情、キャラクター性は、アイドル当人の打ち出すイメージから大きく外れた、ともすればアイドルのイメージを損なうものであるが、それだけにアイドルを演じる少女の多用な一面をかいま見たような、心地にさせるのだ。少女たちの悪ふざけをネガティブなものに落とし込ませず、物語ごと転換させてしまう生田絵梨花のあふれる正義感、機知、笑顔もまた、フィクションでありながら、しかしファンが心のどこかで期待し想像するアイドルの素顔に肉薄したものに感じる。
『何度目の青空か?』が、グループの作り手の芸術家としての情熱と、エンターテイメントにおける企図の合致した幸福な作品であることは言うまでもない。楽曲の完成度の高さを見るに、ここぞというときのために大事にあたためてきたアイデアだったのではないか。その期待どおり、『君の名は希望』という奇跡的なヒット作の余韻を少しも損なうことなく語り直すことに成功したのだから、その作品のセンターに立った生田絵梨花に向ける称賛、あるいは驚嘆は、これはもう大変な騒ぎであったはずだ。西野七瀬と生田絵梨花、互いに異なる魅力をもったアイドルを前に、これからどのように物語を作るべきか、興奮の悲鳴をあげたに違いない。

・映像作家:内田けんじ
・選抜メンバー:生田絵梨花(センター)、衛藤美彩、若月佑美、堀未央奈、星野みなみ、高山一実、斎藤ちはる、松村沙友理、秋元真夏、生駒里奈、桜井玲香、深川麻衣、松井玲奈、白石麻衣、西野七瀬、橋本奈々未


11th.命は美しい  67

(C)命は美しい ミュージックビデオ

「夢見る多くの少女に影響を与えた」

『制服のマネキン』以来の、本格的ダンスナンバー、と云うべきだろうか。
テーマは、西野七瀬の出世作になった『気づいたら片想い』を反復している。今作では、「命」の美しさを、とりわけ「アイドル」の踊りをもって表現しようと、挑んでいる。スターダムにのし上がった西野七瀬のダンスの魅力、言い換えれば、西野七瀬が”踊れるアイドル”であることを、ただ人気があるアイドルではないということを、知らしめるような作品になっている。ミュージックビデオの制作にあたって準備されたセット、衣装など、いずれも贅沢な、豪華なものであり、乃木坂46というアイドルグループの戦略的な成功を目の当たりにもする。
後日アイドルシーンにデビューした若手アイドルの多くが、『命は美しい』を歌い踊る西野七瀬に強い影響を受けたとインタビューなどで語っている点も、グループの「成功」を裏付けている。
ダンスナンバーということで、踊り子としての才覚を発揮しつつある齋藤飛鳥が選抜メンバーへと復帰を果たしている。2期生では、相楽伊織が選抜に抜擢され注目を浴びた。

・映像作家:井上強
・選抜メンバー:西野七瀬(センター)、松村沙友理、相楽伊織、齋藤飛鳥、伊藤万理華、堀未央奈、星野みなみ、衛藤美彩、高山一実、若月佑美、秋元真夏、生駒里奈、桜井玲香、深川麻衣、松井玲奈、白石麻衣、橋本奈々未、生田絵梨花


12th.太陽ノック  72

(C)太陽ノック ミュージックビデオ

「乃木坂46・1期の集大成」

生駒里奈のセンター復帰作であると同時に、そのAKB的な魅力を備え持つ主人公の屈託、弱さを描き出すことで、乃木坂46がAKB48とは異なる魅力を支えにしたアイドルグループであることを相対的に映し出すことに成功した、乃木坂46・1期生の集大成的な作品となっている。乃木坂に帰還した生駒里奈が、かつて自分の後ろで踊っていた少女たちの目覚ましい成長、AKBにはない個性の誕生を目の当たりにし、自己の存在理由を見失っていく姿は、フィクションという事由を越えて、きわめてスリリングな展開を現実にもたらしている。
生駒里奈の屈託は、そのままAKB48の衰退を指し示している。アイドルシーンの主流が、AKBから乃木坂へと覆った瞬間を探り当てることは、実は容易である。それはただ単に、楽曲の質を読めばいいだけだ。AKB48の表題作が良かったのは2015年に発表された『Green Flash』『僕たちは戦わない』まで。同年に開催された選挙イベントにおいて1位となった指原莉乃をセンターに迎えた『ハロウィン・ナイト』の失敗を機に、以降、AKB48の表題作はすべて、再視聴に値しない、ほとんど聞く価値もない作品で溢れかえっている。一方で乃木坂46の表題作を振り返れば、2013年に発表した『君の名は希望』でのヒット以降、2014年の『何度目の青空か?』2015年の『今、話したい誰かがいる』2016年『サヨナラの意味』2017年『逃げ水』2018年『帰り道は遠回りしたくなる』、と間断なく質の高い作品を提示し続けている。であれば、両グループの岐路、これは一目瞭然である。AKB48から帰還した生駒里奈がセンターとして再登場し、図らずもAKBらしさと乃木坂らしさの対峙を描いた『太陽ノック』が発売された2015年を両グループの岐路と読むのが妥当だろう。『太陽ノック』においてセンターに返り咲いた生駒里奈の相対として映し出されたものが、AKB的な主人公の敗北であった、つまりAKB的な主人公感をそなえた生駒里奈が乃木坂らしさに飲み込まれてしまったその瞬間、AKB48の敗北が決定づけられたのである。
この1期の物語、AKBとの最終決戦のなかに2期生である新内眞衣が紛れ込んでいる点もまた、おもしろい。

・映像作家:三石直和
・選抜メンバー:生駒里奈(センター)、松村沙友理、斉藤優里、星野みなみ、齋藤飛鳥、伊藤万理華、井上小百合、新内眞衣、衛藤美彩、高山一実、若月佑美、桜井玲香、秋元真夏、深川麻衣、白石麻衣、西野七瀬、生田絵梨花、橋本奈々未


13th.今、話したい誰かがいる  89

(C)今、話したい誰かがいる ミュージックビデオ

「百花繚乱の印」

西野七瀬と白石麻衣を主役に配した、ダブルセンターという、ある種のディアルキアをグループがはじめて採用した作品である。映像作品では、聴覚障害をもった少女がダンススクールに通う少女たちと出会い、音楽を頼りに絆をむすぶ、シチュエーションの凝ったドラマを編み上げている。西野七瀬のメランコリー、内向さを「手話」に表現した点、ダンススクールという設定を活かし、作品内で少女たちが音楽にあわせ踊り出すことに一切の違和感をつくらない点など、随所に作家のアイデアが込められており、舌を巻く。
1期の人気メンバーが勢揃いした、1期のみで構成された今作『今、話したい誰かがいる』の歌唱メンバーをして、乃木坂46の歴史においてもっとも豊穣な、完成された「選抜」だと呼号するファンも多い。次作『ハルジオンが咲く頃』を機に、グループの物語は、アイドルの卒業と次世代アイドルの誕生という交代劇のめまぐるしさに溺れるようになる。それに鑑みれば、たしかに、今作までの物語を、純粋な希望の書と読み、また『今、話したい誰かがいる』を現実と幻想に向ける理想が完全に一致した最初で最後の作品とみなすべきかもしれない。
今シングル発売の2ヶ月後、NHK紅白歌合戦に初出場したことも、グループが黄金期にあることを教えている。

・映像作家:萩原健太郎、澤本嘉光
・選抜メンバー:西野七瀬(センター)、白石麻衣(センター)、桜井玲香、若月佑美、生駒里奈、松村沙友理、伊藤万理華、井上小百合、齋藤飛鳥、高山一実、橋本奈々未、生田絵梨花、秋元真夏、星野みなみ、衛藤美彩、深川麻衣


14th.ハルジオンが咲く頃  34

(C)ハルジオンが咲く頃 ミュージックビデオ

「パラドクスの再会」

深川麻衣の初センター作品。乃木坂の歴史において初めて卒業センターを輩出した作品でもある。
ミュージックビデオの作風は、たった今アイドルを卒業した彼女とすでに過去において出会っていたのだという、パラドクスの再会を描いている。その筋書きはなかなかに引かれるものだが、映像の端々にファンのご機嫌をうかがうような、ファンの妄想をそのまま具現化したようなシーンがちりばめられ、かなり興を削ぐものになっている。ファンの想像力を頼りにするにしても、そこに作り手の想像力・私情が込められていなければ、アイドルのあらたな一面、アイドルのヴァシレーションなど、現れはしないだろう。
シーン全体に目を向ければ、欅坂46が『サイレントマジョリティー』を発表し、鮮烈なデビューを飾っている。

・映像作家:山戸結希
・選抜メンバー:深川麻衣(センター)、齋藤飛鳥、高山一実、衛藤美彩、秋元真夏、星野みなみ、桜井玲香、若月佑美、松村沙友理、生駒里奈、伊藤万理華、井上小百合、堀未央奈、橋本奈々未、西野七瀬、白石麻衣、生田絵梨花


15th.裸足でSummer  61

(C)裸足でSummer ミュージックビデオ

「チャプター2のイントロダクション」

1期の最年少である齋藤飛鳥の、乃木坂の次世代エースの本格的な始動を高い期待感のもと映像化している。
チャプター2の開始、新章への移行を告げた作品であるが、メンバーを眺めれば、西野七瀬、白石麻衣、生田絵梨花など、シーンを代表するアイドルたちはまだまだグループアイドルとして意欲的な姿勢を取っている。そうした状況にあってもこうしたイントロダクションの際立った作品をつくれてしまう点に、作り手の眼力、齋藤飛鳥というアイドルの才能、可能性の高さが証されている。

・映像作家:丸山健志
・選抜メンバー:齋藤飛鳥(センター)、北野日奈子、星野みなみ、西野七瀬、白石麻衣、生田絵梨花、若月佑美、生駒里奈、堀未央奈、中元日芽香、高山一実、衛藤美彩、松村沙友理、秋元真夏、桜井玲香、橋本奈々未


16th.サヨナラの意味  85

(C)サヨナラの意味 ミュージックビデオ

「『卒業』の物語の金字塔」

アイドルの卒業ソングとして金字塔を打ち立てた。
『サヨナラの意味』が卒業ソングの名盤であることは以下の2点に証されるだろう。
ひとつは、乃木坂の飛翔を決定的にした『君の名は希望』の続編・結末を描き出した点。次に、アイドルの卒業をほんとうの夢への架け橋だとする、AKBに養われた価値観を覆し、アイドルの卒業とは夢のおわりを意味し、アイドルを神格化する儀式であるという共通認識をファンのあいだに生んだ点である。
ミュージックビデオは、豊穣の一言に尽きる――棘人という、触れること、触れられることに怯える、美しくも悲痛である存在をアイドルに喩えるなど、凡庸な映像作家ではおよそ真似できないアイデアを並べている。豊穣であるだけに、音楽から独立し、ドラマ世界の内にアイドルを閉じ込めてしまったようにも見える。
橋本奈々未とすれ違うようにして、大園桃子、与田祐希を先頭に、3期の12名が乃木坂46の物語に登場している。

・映像作家:柳沢翔
・選抜メンバー:橋本奈々未(センター)、西野七瀬、白石麻衣、生田絵梨花、中元日芽香、井上小百合、新内眞衣、桜井玲香、生駒里奈、星野みなみ、北野日奈子、伊藤万理華、若月佑美、松村沙友理、堀未央奈、齋藤飛鳥、衛藤美彩、秋元真夏、高山一実


17th.インフルエンサー  37

(C)インフルエンサー ミュージックビデオ

「新機軸を打ち出すも、失敗」

『命は美しい』以来のダンスナンバー。日本レコード大賞の大賞受賞曲として、グループの歴代表題作のなかでも突出した話題性をもっている。たしかに意欲作ではあるが、――グループのシックな部分、アイドル的な要素から外れた部分をアイドルのあらたな魅力として打ち出そうとする、アーティスティックな作風を構えているが――いかんせん肝心のダンスの出来栄えが、あまりにも未熟で、作品と呼べる水準に到底達していない。
高難易度の振り付けだと謳いつつ、それを短期間の稽古で習得し撮影に臨むという事態をアイドル当人が嬉々としてメディアに語っている様子を眺めるに、今日のアイドルシーンの問題を浮き彫りにした作品だとも云える。

・映像作家:丸山健志
・選抜メンバー:西野七瀬(センター)、桜井玲香、秋元真夏、堀未央奈、白石麻衣(センター)、齋藤飛鳥、衛藤美彩、新内眞衣、井上小百合、寺田蘭世、北野日奈子、伊藤万理華、星野みなみ、斉藤優里、樋口日奈、中田花奈、若月佑美、高山一実、生駒里奈、生田絵梨花、松村沙友理


18th.逃げ水  74

(C)逃げ水 ミュージックビデオ

「アイドルをひとつの神秘として画面に出力した」

3期生の大園桃子と与田祐希のダブルセンター作品。
次世代の登場と、その少女がアイドルへと変身していく過程を丁寧にドラマ仕立てに物語っている。「屋敷」という舞台設定と、そこに暮らす、時間を持て余した不気味な住人たちとの非日常的な交流を経てアイドルが育まれていくストーリーは、タイトルに込められた作詞家の思料を上手に回収している。
アイドルをとおして希望を語るにしても、近づくと消えてしまう「逃げ水」と書くことで、まず儚さが立ち現れる。手を伸ばし掴もうとした現実が仮想でしかなく、しかしその仮想がかならずいつか現実のものになるのだと、希望を歌っている。アイドルのデビューソングとして文句なしの詩情、映像を完成している。

・映像作家:山岸聖太
・選抜メンバー:大園桃子(センター)、与田祐希(センター)、伊藤万理華、新内眞衣、生駒里奈、桜井玲香、若月佑美、井上小百合、星野みなみ、松村沙友理、生田絵梨花、秋元真夏、衛藤美彩、高山一実、齋藤飛鳥、白石麻衣、西野七瀬、堀未央奈


19th.いつかできるから今日できる  11

(C)いつかできるから今日できる ミュージックビデオ

「自己啓発を『アイドル』の語り口にするも……」

映画『あさひなぐ』の主題歌。ミュージックビデオは、映画の販促のみを目的に作られている。ロケ地に「和敬塾」や「久保講堂」を準備するなど、力は入っているが、販促の域を出ず、語るべき点を一つも持たない。西野七瀬と齋藤飛鳥のダブルセンターというカードをこうしたかたちで切ってしまったのは、ファンとしては悔やまれるところだろう。楽曲と、アイドルのパフォーマンスそのものは、自己啓発をアイドルの語り口にして物語をつくる乃木坂の特徴を明快に打ち出した、聴き減りしないクオリティを実現している。

・映像作家:高橋栄樹
・選抜メンバー:西野七瀬(センター)、齋藤飛鳥(センター)、白石麻衣、新内眞衣、斉藤優里、星野みなみ、生駒里奈、秋元真夏、北野日奈子、中田花奈、高山一実、若月佑美、井上小百合、松村沙友理、生田絵梨花、伊藤万理華、桜井玲香、衛藤美彩、堀未央奈


20th.シンクロニシティ  68

(C)シンクロニシティ ミュージックビデオ

「白石麻衣を主役にした、自我の探求の劇、その第一章」

『君の名は希望』以来の当作と云うべきだろうか。『君の名は希望』以来、と表現したのは、音楽がアイドルの物語に強く作用する、音楽がアイドルを先行して語る光景を叶えている、という意味を今作品がもつからである。
『ガールズルール』を歌い踊り、一般的な女子の価値観、一般生活者の幸福を、アイドルを相対にして映し出してきた白石麻衣の屈託、つまりアイドルを演じることで当たり前のしあわせを見失ってしまうという屈託を、音楽のうちに表現したことで、ただ美しいだけだとする、白石麻衣への評価が大きく転向されたかに見える。
もちろんこうした感慨は、『僕のこと、知ってる?』や『しあわせの保護色』に触れてこそのものではあるのだが、上述した2作品の序章に位置づけられる『シンクロニシティ』が白石麻衣の内奥をくりぬいた佳作であることは、疑いようもない。ミュージックビデオもまた、アイドルの屈託、孤独感と、そこから立ち上がろうとする凛々しさを、乃木坂の穢れないイメージのなかで打ち出した、力作となっている。楽曲の音楽的な魅力と白石麻衣の美貌が最高度に合致した作品だとして、今作品を乃木坂46の最高傑作に挙げるファンも多い。
のちに乃木坂の一時代を代表するメンバーにまで成長する久保史緒里、山下美月の初選抜作品であり、グループの黎明期と成長期を支えた生駒里奈が参加した最後のシングルでもある。

・映像作家:池田一真
・選抜メンバー:白石麻衣(センター)、西野七瀬、齋藤飛鳥、生田絵梨花、与田祐希、井上小百合、新内眞衣、高山一実、星野みなみ、若月佑美、樋口日奈、寺田蘭世、桜井玲香、松村沙友理、久保史緒里、生駒里奈、大園桃子、衛藤美彩、秋元真夏、山下美月、堀未央奈


21st.ジコチューで行こう!  33

(C)ジコチューで行こう! ミュージックビデオ

「まだまだ旅の途中」

新天地を求め走り出した『裸足でSummer』の続編にあたるのだろうか。アイドルにエスニックをかけている。印象としては、ただのバカンスにしか見えない。アイドルのインタビューなどを読むに、撮影自体は過酷を極めたと云うから、乃木坂には日常演劇に卓越したアイドルが揃っている、ということなのだろう。
2期生の鈴木絢音が、加入5年目にして初めて表題作の歌唱メンバーに選抜された。

・映像作家:中村太洸
・選抜メンバー:齋藤飛鳥(センター)、秋元真夏、生田絵梨花、井上小百合、岩本蓮加梅澤美波、衛藤美彩、大園桃子、齋藤飛鳥、斉藤優里、桜井玲香、白石麻衣、新内眞衣、鈴木絢音、高山一実、西野七瀬、星野みなみ、堀未央奈、松村沙友理、山下美月、与田祐希、若月佑美


22nd.帰り道は遠回りしたくなる  98

(C)帰り道は遠回りしたくなる ミュージックビデオ

「ここではないどこかへ」

西野七瀬の卒業作品。日常の些細な出来事をきっかけに運命が大きく分かれた一人の少女の、ふたつの夢、ふたつの人生を並行的に描き出すことで、アイドルを演じる少女の内面を剔抉した。アイドルとしてデビューした西野七瀬と、アイドルにはならなかった西野七瀬が邂逅する場面は、数あるミュージックビデオのなかでも白眉と云えるだろう。自分ではないもうひとりの自分が、自己の夢を支えているという実感は、活力を満たすものだ。
一人の人間の内に秘められた無数の可能性を探り出し、そのフュージョンをもって自己を成長させることは、たとえば『Actually…』における中西アルノと平手友梨奈のフュージョンへの試みといった、「他人」とのむすびつきに個性を見出すしかない現在のアイドルシーンと対比して、それが反時代的であるだけに、すぐれて希望的に感じる。
またこの時期に、西野七瀬を継ぐべく、遠藤さくらを筆頭に、4期生がグループの輪に加わっている。

・映像作家:関和亮、澤本嘉光
・選抜メンバー:西野七瀬(センター)、斉藤優里、井上小百合、佐藤楓、大園桃子、伊藤理々杏、新内眞衣、高山一実、衛藤美彩、秋元真夏、堀未央奈、若月佑美、星野みなみ、桜井玲香、松村沙友理、梅澤美波、山下美月、齋藤飛鳥、白石麻衣、生田絵梨花、与田祐希


23rd.Sing Out!  91

(C)Billboard JAPAN/sing out!ミュージックビデオ

「菖蒲の魅力」

齋藤飛鳥の代表作として、乃木坂46の魅力を普遍のものにしている。
踊りをもって音楽を表現する、という、当たり前の、しかしどこか古典的になってしまったアイドルのスタイル、言わば昔日の輝きのごときを、風致に組まれた舞台の上で菖蒲の少女たちが取り戻していく光景は、言葉に尽くすことのできない感興を降らせる。たしかに、語ることのむずかしさが、この映像作品にはある。踊りを主題に置くことで、長い時間の経過にたえうる音楽作品をつくることに成功しているが、長い時間鑑賞しなければその魅力に至れないような、ハードルが課されているようにも感じる。アイドルの美しさを、踊りと闘争という関係のなかで鮮明に映し出している点もさることながら、過去と未来において変わらぬ音楽を、その時々を生きるアイドルたちが、それぞれに歌い舞い踊るのだという憧憬を約束している点に、なによりも引かれる。

・映像作家:池田一真
・選抜メンバー:齋藤飛鳥(センター)、井上小百合、佐藤楓、鈴木絢音、岩本蓮加、阪口珠美、渡辺みり愛、伊藤理々杏、新内眞衣、梅澤美波、北野日奈子、秋元真夏、久保史緒里、松村沙友理、星野みなみ、桜井玲香、大園桃子、堀未央奈、生田絵梨花、白石麻衣、高山一実、与田祐希


24th.夜明けまで強がらなくてもいい  87

(C)夜明けまで強がらなくてもいい ミュージックビデオ

「『アイドル』を人生の夜明けにする」

遠藤さくら初のセンター作品。遠藤さくらのほかに、賀喜遥香、筒井あやめも選抜に抜擢された。
作風は、新世代アイドルの登場と呼吸をあわせたものになっている。「夜明け」「涙」を主題にして、「アイドル」を人生の夜明けに見立て、人は生まれた瞬間だけではなく、生まれ変わる瞬間にもまた涙を流すのだということを、交差点=大衆の中に佇む少女たちという構図のなかで物語っている。
その点では、これまでにグループが打ち出してきたモチーフ、自己啓発の物語化を凝集した作品と云えるかもしれない。アイドルがファンに活力をあたえることの原動力が、アイドルを演じる少女がほかの誰よりも「アイドル」に救われているという場景にあることを、より克明に映像に記録している。アイドルの魅力をまずアイドル自身が体現することで、その価値を高めている。山下美月や与田祐希など既存のメンバーが、これまでのどの作品にも表現されなかったアイドルの相貌を描き出している点もまた、作品を再読に堪えるものにしている。

・映像作家:丸山健志
・選抜メンバー:遠藤さくら(センター)、生田絵梨花、白石麻衣、松村沙友理、桜井玲香、梅澤美波、山下美月、与田祐希、北野日奈子、秋元真夏、久保史緒里、高山一実、星野みなみ、新内眞衣、筒井あやめ、齋藤飛鳥、堀未央奈、賀喜遥香


25th.しあわせの保護色  73

(C)しあわせの保護色 ミュージックビデオ

「アイドルを、ギニョールにして語る」

白石麻衣の卒業作品。アイドルをギニョールのなかで語るという、白石麻衣が確立したアイドルのあり様、アイドルを演じることの方法意識を集大成的に作品化している。『しあわせの保護色』が、『魚たちのLOVE SONG』『シンクロニシティ』『僕のこと、知ってる? 』と地続きにされた楽曲であることを一つの物語として表現している点に、深く情動をもらう。作風は、作家自身のこれまでの作品と同様の構図――踊りをもってアイドルを語るスタイルを崩すことなく、グループアイドルに見出すドラマ性をギニョールにあわせることで、安易な自己模倣に陥ることなく、構図の練り上げに成功したように思われる。
ダイアナ・ロスの引用に顕著だが、アイドルになったことで、まぶしいスポットライトを浴び続けることで、不意に、生来の自分を見失ってしまったのではないか、不安になる。さらには、アイドルにならなかった人生にこそ、ほんとうの自分があり、本当のしあわせがあるのではないか、屈託する。この点においては先行作品に類似する部分をもつが、今作品ではそうした屈託を、音楽が、映像作品が、先回りしアイドルを抱擁しようとしている。

・映像作家:池田一真
・選抜メンバー:白石麻衣(センター)、生田絵梨花、松村沙友理、星野みなみ、賀喜遥香、新内眞衣、山下美月、久保史緒里、堀未央奈、大園桃子、遠藤さくら、岩本蓮加、与田祐希、北野日奈子、梅澤美波、井上小百合、和田まあや、高山一実、秋元真夏、樋口日奈、中田花奈、齋藤飛鳥


26th.僕は僕を好きになる  66

(C)僕は僕を好きになる ミュージックビデオ

「未来を作る」

山下美月の初センター作品。白石麻衣の卒業をして、未来を作る、と高らかに呼号し制作された楽曲でもある。
作風としては、タイトルに記されたとおりの、自己啓発の物語化という点では従来の作品と変わらないが、主役を山下美月に配した点、また山下自身のアイデアが作品に落とし込まれたことで、これまでにはない角度から「アイドル」を語ることに成功している。たとえば、「アイドルとしての日常風景」をシームレスに「アイドルを演じる少女の日常風景」に切り替える遊び心が、何者かを演じている人間を演じることが「アイドル」を意味するのだという、アイドル当事者にしか表現できない、嘘をつくることの興奮をジャーゴンに呼び覚ましている。
嘘をつくる自分も、嘘をついていない自然体の自分も、どちらもほんとうの自分なのだとする、その励ましは、たしかに、白石麻衣の屈託のさきにあるものを、捕らえているように感じる。

・映像作家:奥山大史
・選抜メンバー:山下美月(センター)、生田絵梨花、梅澤美波、久保史緒里、齋藤飛鳥、遠藤さくら、大園桃子、堀未央奈、与田祐希、賀喜遥香、秋元真夏、新内眞衣、清宮レイ田村真佑、星野みなみ、筒井あやめ、岩本蓮加、高山一実、松村沙友理


27th.ごめんねFingers crossed  25

(C)ごめんねFingers crossed ミュージックビデオ

「セットは豪華」

グループアイドルの順位闘争をカーレースで喩えた映像作品だが、安易としか言い様のない出来栄えになっている。アイドルの闘争を描き出すことにたいする不満はまったくないが、それをなぜ「車」で表現しようとしたのか、「車」であることの必然性をどこにも拾えない。こういった、予算を費やすだけの作品、毒にも薬にもならない作品が今後二度と提示されないことを、ファンはただ祈るばかりだろう。
一転、アイドルのパフォーマンスは、音楽に広げられた世界観を裏切らない、詩的表現の高い水準にまとめられている。二度と取り戻すことの出来ない、いつのまにか壊れてしまっていた過去への強い希求のなかで未来へのひかりを見出す、「過去」との別れの決意を印した歌詞を、「希望」のひとつとして歌い上げることに成功している。
今作品をもって、大園桃子がアイドルからの卒業を決断した。

・映像作家:東市篤憲
・選抜メンバー:遠藤さくら(センター)、山下美月、与田祐希、齋藤飛鳥、賀喜遥香、樋口日奈、早川聖来、筒井あやめ、大園桃子、岩本蓮加、清宮レイ、田村真佑、新内眞衣、秋元真夏、梅澤美波、星野みなみ、松村沙友理、生田絵梨花、久保史緒里、高山一実


28th.君に叱られた  96

(C)君に叱られた ミュージックビデオ

「現代のシンデレラ」

賀喜遥香の初センター作品。アイドルを、現代のシンデレラとして描き出している。シンデレラストーリーという表現をアイドルに用いることは特段目新しいことではないかもしれないが、シンデレラの物語をそのまま現代風にアレンジしてドラマをつくりあげる発想力の瑞々しさ、賀喜遥香とシンデレラという人物像の一致したアイデアには、思わず脱帽させられる。齋藤飛鳥が賀喜遥香をステージに引き上げるシーンが特に素晴らしい。平凡な少女が、ある日突然、夢の舞台に引き上げられる、人生が一変するその光景の奇蹟は、現代アイドルのレゾン・デートルを撃っていると云えるだろう。むしろ、この現代にシンデレラを探すとなれば、それはグループアイドルにしか見つけられないのではないか。アイドルが幻想的に、きらきらと光って見えるから、少女たちはその世界におびき寄せられ、その身を焦がすのである。その意味で、今作品はアイドルの価値を高め知らしめた、傑作と評価すべきだろう。
デビュー以来、乃木坂の顔として活動してきた生田絵梨花、星野みなみが卒業した。

・映像作家:横堀光範
・選抜メンバー:賀喜遥香(センター)、遠藤さくら、与田祐希、齋藤飛鳥、山下美月、筒井あやめ、梅澤美波、星野みなみ、高山一実、生田絵梨花、久保史緒里、秋元真夏、樋口日奈、早川聖来、清宮レイ、北野日奈子、岩本蓮加、鈴木絢音、田村真佑、新内眞衣、掛橋沙耶


29th.Actually…  測定不能

(C)Actually… ミュージックビデオ

「役名:平手友梨奈、主演:中西アルノ」

中西アルノの初センター作品。――よりにもよって平手友梨奈によく似た少女をセンターに抜擢するという、何ものにも配慮することのない強い私情、固い意志のなかで――欅坂46を想起させる音楽をもって乃木坂46の統一性の破壊を試みた、アーティスティックに倒れ込んだ作品をつくりあげている。
ゆえにファンにあたえた打撃、刺戟はそうとうのものであったようだが、そうした稚気とは別に、特筆すべきは、やはり、今日のアイドルシーンにあっては、もはや天才を演じることでしか「天才」の出現は叶わない、天才とのフュージョンによってのみ天才が出現するのだという、ある種の厭世観が伏在している点である。
いずれにせよ、センターに抜擢された中西を含め、11人の少女、とりわけこれまでのアイドルシーンに鑑みても豊かな才能を秘めた少女たちが新たにグループの歴史に加わった。

・映像作家:黒沢清
・映像作家:東市篤憲(齋藤飛鳥・山下美月 ダブルセンターVer.)

・選抜メンバー:中西アルノ(センター)、遠藤さくら、筒井あやめ、梅澤美波、山下美月、齋藤飛鳥、秋元真夏、田村真佑、掛橋沙耶香、清宮レイ、鈴木絢音、樋口日奈、岩本蓮加、柴田柚菜、早川聖来、久保史緒里、賀喜遥香、与田祐希


30th.好きというのはロックだぜ!  60

(C)好きというのはロックだぜ! ミュージックビデオ

「笑顔の活力を印した」

賀喜遥香がブログに記した言葉を詩の冒頭部分に引用した秋元康の思料にならうように、映像作家もまたアイドルが描く日常の場面をそのままミュージックビデオのシチュエーションに用いている。作詞家、映像作家の両者に共通するのは、アイドルがネガティブに捉えている部分を、その人の魅力・個性として語っている点だろう。たとえば物事を訪ねられた際に、判で押したように言葉に詰まってしまう賀喜遥香という人の性質を、映像作品においては、瞬間的に複数の物事を考え想像できるユニークな少女という設定をもって上手に晴らしている。
こうした活力に生きた姿勢が功を奏したのか、わからないが、前作『Actually…』によるファンへの打撃、クリティカルな問題のほぼすべてを賀喜遥香の笑顔をもって中和している点がなによりも興味深い。

・映像作家:神谷雄貴(maxilla)
・選抜メンバー:賀喜遥香(センター)、山下美月、遠藤さくら金川紗耶与田祐希齋藤飛鳥清宮レイ掛橋沙耶香鈴木絢音田村真佑久保史緒里梅澤美波樋口日奈、柴田柚菜、佐藤楓、弓木奈於、秋元真夏岩本蓮加、筒井あやめ


31st.ここにはないもの  76

(C)ここにはないもの ミュージックビデオ

「サヨナラの歌、第二部」

齋藤飛鳥の卒業作品。作風は、やはり同じく卒業ソングである『サヨナラの意味』を踏襲している。踏襲している、と云うよりも、踏襲したことで包括されてしまっている、と云うべきかもしれないが。
次の、ほんとうの夢のためにアイドルを卒業するという物語は、AKB時代からつづく秋元康の定番の憧憬に則したものであるが、そうしたサクセスは、もはや多くの少女にとって希望になりえない、アナクロになりつつある。つまりアイドルの卒業を夢のおわりだとする生き方が主流となった今日のシーンにあっては、アイドルの卒業をいかなる希望のかたちで語ろうとも、夢のおわりとアイドルの神格化を描き出した『サヨナラの意味』にどうしても包括されてしまうということである。もちろん、それでもなお現実生活の問題の一切を振りきって、都会の街での立身出世を叶えようと足掻く姿は、夢をごまかさない、本物の懸命さ、本物の希望と呼ぶべきだが。

「夢」を「アイドル」に限定しない姿勢は、ミュージックビデオの水準そのものを押し上げてもいる。デザイナーになるという主人公の夢と、その夢が仮想的に広がる瞬間を、ドラマの設定、全体の構成に役立てることで、主人公の齋藤飛鳥が華やかな衣装を身にまとい踊りはじめるシーン、つまり登場人物がアイドルへと変身し歌い踊ることに違和感の一切をつくらない、継ぎ目のない映像・ドラマを完成している。

・映像作家:小林啓一
・選抜メンバー:齋藤飛鳥(センター)、山下美月、与田祐希、梅澤美波、秋元真夏、鈴木絢音、金川紗耶、賀喜遥香、遠藤さくら、筒井あやめ、早川聖来、林瑠奈、弓木奈於、柴田柚菜、岩本蓮加、阪口珠美、田村真佑、久保史緒里


32nd.人は夢を二度見る  40

(C)人は夢を二度見る ミュージックビデオ

「夢の輻輳」

タイトルと、それにかかわる思料をつめこめた歌詞は、自己啓発の極地に達したかのような、洗練されたものに感じる。夢が叶おうとも、叶わなくとも、夢は見つづけるものだということを、当たり前の生き方として歌い上げている。人生の夢と、眠りながら見る夢を輻輳させることが現実と仮想の境界線を不分明にする、つまりアイドルとアイドルを演じる少女を同一にすることが夢の帰還を表現するという、言葉のイノセンスの仕掛けも面白い。
映像作品にしても、同様の解釈が持たれているようにうかがえる。たとえば、冒頭で示される、登場人物の分裂は、アイドルと、アイドルを演じる少女の分裂を現実と仮想の関係にかけたものだろう。その点では音楽の魅力を映像に引用した、構成の錬られた作品だと云えるが、肝心のアイドルの表現、パフォーマンスがあまりにも不出来で、見るに堪えない仕上がりとなっている。ダンスの滑稽な部分を、アップの多用だったり、演技シーンへの切り替えだったりで、凌ごうとしているが、うまく誤魔化せていない。中盤以降の場面展開も、冗長・散漫に感じる。
井上和、五百城茉央など、5期生の中心メンバーが今作を機にキャリアを本格的にスタートしている。

・映像作家:丸山健志
・選抜メンバー:久保史緒里(センター)、山下美月(センター)、五百城茉央、一ノ瀬美空、井上和、岩本蓮加、梅澤美波、遠藤さくら、賀喜遥香、金川紗耶、川﨑桜、佐藤璃果、菅原咲月、柴田柚菜、田村真佑、筒井あやめ、早川聖来、松尾美佑、弓木奈於、与田祐希


33rd.おひとりさま天国  81

(C)おひとりさま天国 ミュージックビデオ

「おひとりさま天国を浮かび上がらせる」

井上和の初センター作品。
歌詞は、全体的にエスプリの効いたものではあるが、「おひとりさま」から脱しろ、と安易に励ますのではなく、「おひとりさま」と「アイドル」をあわせることでそこに「おひとりさま天国」を浮かび上がらせる、言葉の意味を前向きなものにかえていく、時代を受容するその姿勢は、言葉の真の意味でアイドル的である。「ほんとうの自分」を「おひとりさま」という現代的タームに引き合わせる発想力には、感服させられる。
映像作品は、タイトルに表明された活力を、アイドルの趣向、個性を個々にしてまとめあげることで表現するという、伊藤衆人の個性が存分に発揮された作風となっている。「おひとりさま」として、またアイドルとして生きることの終着点が寂寥であることを予感するなかで、現実を忘れ音楽に踊るアイドルたちの姿は、頼もしく陽気である。
楽曲全体から受け取るのは、一般的な女子の価値観を、アイドルをとおして表現する、アイドルをもって現代人、とりわけ若者をリードすることでアイドルの立場を強固にする、作り手の志である。こうした志は、たとえば白石麻衣の『ガールズルール』を萌芽とするが、今作品をもって井上和がその使命を継いだことが見て取れる。

・映像作家:伊藤衆人
・選抜メンバー:井上和(センター)、五百城茉央、池田瑛紗、一ノ瀬美空、伊藤理々杏、岩本蓮加、梅澤美波、遠藤さくら、賀喜遥香、金川紗耶、川﨑桜、久保史緒里、柴田柚菜、菅原咲月、田村真佑、筒井あやめ、中村麗乃、山下美月、弓木奈於、与田祐希


あとがき、
この記事は、2021年の夏頃から書きはじめた。書きはじめたものの、『命は美しい』あたりまで書いてみて、これはダメだな、書いていても読んでみてもまったくおもしろくないな、と早くも遊び心が萎え、挫折した。とはいえ、乃木坂46の歴代シングルのミュージックビデオに焦点を絞った、つまりはMVを語ることで乃木坂46のストーリーが立ち現れるような物語性に溢れた評判記を作っておきたい、という企図を捨てきれず、気が向けばメモ帳を開き、文章を書き溜め、また書き直し、今日に至った。途中、ベストアルバム発売の報に触れ、ならばそれにあわせ記事をアップすればいいと考えたが、どうにこうにも、間に合わなかった。
今回、あらためて歴代のミュージックビデオを鑑賞するにあたって新しく発見したもの、あるいは、再発見したもの、そのなかでもっとも印象深いのは、齋藤飛鳥の「踊り」になるだろうか。『命は美しい』で表舞台に再登場してからは、どのような作品においても、どのようなポジションにおいても、常に高い水準のパフォーマンスをみせ、映像作品そのものの水準を押し上げているように感じた。
その「踊り」はまた、別の課題を提示しているかにも見える。
アイドルのミュージックビデオを作ることのむずかしさの一つに、ドラマとダンスシーンの切り替えがあることは、まず間違いないだろう。どれだけ素晴らしい脚本を用意しても、どれだけ豪華なセットを準備しても、どれだけ豊穣なドラマを描こうとも、その直後に映されるダンスシーンが、ドラマとまったく地続きにされていなかったり、ダンスを描くことの強い動機が拾えなければ、鑑賞者は違和感を抑えることができなくなる。
この種の「違和感」を排除することに成功した作品を挙げるならば、『気づいたら片想い』『今、話したい誰かがいる』『帰り道は遠回りしたくなる』『僕は僕を好きになる』の4作品になるだろうか。4作品に共通するのは、ドラマの設定に「アイドル」を上手く落とし込んだ点になるだろう。物語をとおして少女たちがアイドルへとシームレスに変身を遂げる、少女がアイドルになることの意味、必然性が描き出されているならば、当然、そこに描かれるダンスシーンを眺めることにも違和感は生じない。むしろファンは、強いカタルシスに遭遇するのではないか。


2022/03/26  楠木かなえ
2023/05/09  まえがき、あとがきを編集、30thシングルの評価を追記しました
2024/04/29  31stシングルの評価を追記しました
2025/04/17  まえがき、本文の編集、32nd.33rdシングルの評価を追記しました

乃木坂46  歴代シングルジャケット