乃木坂46 君に叱られた 評判記

のぎざか, 楽曲

(C)君に叱られた ジャケット写真

「飛んでみたい?」

楽曲、歌詞、ミュージックビデオについて、

乃木坂46の28枚目シングル。センターに選ばれたのは賀喜遥香。
希望に満ち溢れている。グループアイドルを演じる少女がそのグループのセンターに立つことの価値=奇跡をしっかりと打ち出している。当然それはグループそのものの価値を打ち出す、明確に増幅させるものであり、夢の世界への招待状として文句なしの魅力を湛えている。
楽曲に、歌詞に、ミュージックビデオに、センターで踊るアイドルの無限の魅力が込められており、流れる音楽とアイドルの横顔が強く愛着している。エピローグにカタルシスをしっかりと準備した作曲家、特別なものをとくべつにしたまま非日常から日常へ帰還させようと焦がれる作詞家、凡庸な少女を前にしてシンデレラストーリーを描いた映像作家のそれぞれに、アイドルと「アイドル」を演じる少女に対する理解、真面目さ、真摯さ、つまりアイドルへの写実があり、アイドルの臨在感を高めている。

今、眼の前に立つ恋人の横顔を眺めることで、通り過ぎ失った過去の恋人の優しさ、魅力に気づかされ、今の恋人のことをより愛していくという詩的世界を編み上げた『君に叱られた』に触れ、まず想うのは、西野七瀬卒業以降、強い主人公の「不在」を抱えていたグループに、ようやく、本物の主人公感をそなえ持ったアイドルが誕生・登場したのだな、という感慨である。
ファンや作り手が妄執するアイドルの性格と、楽曲が高水準で合致しナラトロジーを叶えた作品に西野七瀬が主役を演じた『帰り道は遠回りしたくなる』が挙げられるが、賀喜遥香を主人公として描いた今作『君に叱られた』にも『帰り道は遠回りしたくなる』と同等の、アイドルの物語化がある。また、グループの現実としての動向を、ミュージックビデオの中で物語化しようとする作り手の熱誠と、実際に出来上がった作品のクオリティが強く通い合っている点、これは白石麻衣を主役に置いた『ガールズルール』以来の達成におもう。
もちろんこうした感慨とは、グループが元あった場所に回帰した、といった狭い話題に立つことによって獲得した思惟などではなく、アイドル=成長物語という、アイドル本来の魅力を湛えたオーセンティックなアイドルの誕生を目撃した興奮、つまりは賀喜遥香というアイドル、完璧な美少女に見えてどこか隙きがある、なにかあるとすぐにしくじったような顔つきをしてしまうその弱々しい凡庸な少女の横顔によってもたらされた奇跡、映像作家の世界観に従うならば、平凡な少女が夢の世界へと羽ばたいていくシンデレラストーリーへの興奮であり、作品が深い満足を与えてくれるわけである。アイドルとして当たり前のレゾン・デートルを持った少女がすでにグループの物語のなかに生まれていたことを、その奇跡を発見した際の賛美歌が『君に叱られた』なのだろう。
また、西野七瀬の付き人をふるまい、ピエロの役割をデビューから一貫して演じてきた高山一実が、自身のアイドル生活の最後に西野と同等の主人公の誕生を見届け卒業して行った、というストーリー展開にも否定しようのない濃厚さがあるようにおもう。

齋藤飛鳥、与田祐希をはじめ、主役ではないアイドルの存在感、その演劇表現力の高さにも舌を巻くものがある。作家の演技要求にしっかりと応えており、それぞれが名バイプレーヤーに見える。とくに齋藤飛鳥の佇まい、表情は、晴れていて、高貴。


歌唱メンバー:遠藤さくら、与田祐希、賀喜遥香、齋藤飛鳥、山下美月、筒井あやめ、梅澤美波、星野みなみ、高山一実、生田絵梨花、久保史緒里、秋元真夏、樋口日奈、早川聖来、清宮レイ、北野日奈子、岩本蓮加、鈴木絢音、田村真佑、新内眞衣、掛橋沙耶香

作詞: 秋元康 作曲:youth case 編曲:石塚知生