乃木坂46 筒井あやめ 評判記

乃木坂46

筒井あやめ(C)乃木坂46Twitter公式アカウント

「レトロフューチャー・アイドル」

筒井あやめ、平成16年生、乃木坂46の第四期生。
現在のシーンにあって、もっともつれない、ゆえにもっとも神秘的なアイドルである。その神秘性は、常に心の正体を隠しているように見える少女が、スポットライトの下では素顔を鮮明に描き出す、音楽の中では、いろんな顔をもった少女、喜怒哀楽を結構させた多様性に溢れるアイドルに変身する、という、古典的なアイドルの風格のなかにもっとも色濃く現れている。その意味では、乃木坂46の物語を生まれながらに継ぐ希望の担い手であるばかりでなく、アイドルという存在そのものに対するレジティマシーをそなえた希有な登場人物と呼べるかもしれない。
しかしこの人が真に希有であるのは、乃木坂の「希望」を生まれながらに受け継ぐ存在だとする作り手やファンの強い期待感、青写真がレトロフューチャーへと昇華してしまった点にある。
アイドルを眺めることで過去の青春を思い返す、果ては昔好きだった人の面影を少女の横顔に探し求めノスタルジーに浸る……、こうした今日のアイドル観、アイドルの普遍の希求から筒井あやめは決定的に径庭している。筒井があたえるのは、少女を眺めることで、遠い過去に想像した未来像を思い起こす、という意味におけるノスタルジーである。過去の青春、過去の恋愛を懐かしむことと、過去の自分が想像した未来を思い起こす行為とでは、どちらが激しく心を揺さぶるだろうか。前者にあるのは、心地の良い名残、甘美な悔悟、リグレット…。後者にあるのは、失われた「未来」に向けた探究心、なぜその柿色の空をした理想郷にたどり着くことができなかったのか、という疑問、嘆き、怒り、傷みであり、そうした感慨に価値を見出せるかどうかが筒井あやめというアイドルにみずから興味を宿せるかどうかの要(かなめ)、言わば条件になる。
4期生がデビューした頃に思い描いた乃木坂の未来と現在の乃木坂を見比べた際に、水中で広げられた雨傘を眺めるような空虚感を抱いてしまう、シングル表題作に4期がはじめてその姿を現した『夜明けまで強がらなくてもいい』のミュージックビデオにおいて、赤色の傘を差しこちらを見下ろす少女の、その冷めた眼差しが今日に至るまでの筒井あやめのすべてであると確信できるならば、貴方も「筒井あやめ」の虜になるだろう。

 

総合評価 76点

アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物

(評価内訳)

ビジュアル 18点 ライブ表現 16点

演劇表現 15点 バラエティ 18点

情動感染 9点

乃木坂46 活動期間 2018年~