AKB48 渡邊志穂 評判記

「永遠の味方さ」
渡邊志穂、昭和62年生、AKB48の第一期生。
18歳で「アイドル」の扉をひらく。ナイーブな少女の面影がまだ残っていて、モデルのような印象をあたえるシルエットにその童顔が重なると、鑑賞者の興味を引くアンバランスが作られる。ビジュアルを構成する要素の多くが、平成が終わり、令和が始まった現在のアイドルシーンの最前線で闘うアイドルのビジュアルと同等の輝きを放っており、AKB48の通史、始まりの物語を改めてひもとく過程で「渡邊志穂」の名にぶつかると、”最新”のアイドルを眺めるのと変わらない憧憬を抱く。例えば、乃木坂46の中村麗乃を鑑賞する際に生まれる憧憬を。
しかし、この連なりを”先駆け”と呼ぶことはむずかしいかもしれない。渡邊志穂はその圧倒的なビジュアルをして、しかし多くのメディアから、ファンから、同業者から、過褒を貰っていない。無条件の称賛を受けていない。それはおそらく、彼女がアイドルを演じていた頃と、令和がはじまった現在の美に対するトレンドの差異、つまりステージの上で踊る彼女を直接眺めたファンと、記録として彼女を眺めるファンとでは、評価に際し埋めることのできない隔たりが作られてしまう所為である。
ビジュアルという分野において何ものかを先駆ける存在とは古典でなくてはならない。古典とは、本質を貫くものであり、トレンドに左右されることはない。現代において古典と響き合うアイドルとは、当然、どの時代に眺めてもまったくおなじ評価を貰う。つまり、グループアイドルにおいて、ある閾を超えた人気を獲得するアイドルとは、結局のところ、どの時代に生まれても、どのような境遇に置かれても、たとえフリーマケットの売れ残りに見えようとも、そのビジュアルによって獲得する名声の”質と量”はほとんど変わらないのだ。
これが、ミス・エアー・ジャパンを受賞するほどの資質をそなえていた「渡邊志穂」のビジュアルに満点を付け冠絶と評価できない動機である。彼女は、乃木坂46という存在を透過した際には、トップクラスのビジュアルを備えたアイドルに見える。しかし、彼女が現役時代には、彼女よりも、美しいと称賛を浴びるアイドルが少なくはない数存在したのだ。
むしろ、渡邊志穂が現代アイドルとして、AKB48の第一期生としてその存在理由を満たすように先駆けていたものは、アイドルとファンの成長共有である。
現実と架空の世界を行き交いするアイドル、自己の可能性を探り成長を記すアイドルを前にして、その物語を共有しようとのぞむ、アイドルの夢に乗ろうとする、つまりアイドルを推すことではじめてファンの内に無償の愛が宿る。激しい孤独感と無力感をかみしめながらアイドルに無償の愛を贈るファン。”愛より大切な夢”を握りしめた彼女を賛美するファン。彼女の永遠の味方になるファン。この耽溺は今日なお絶えず力強く呼吸しており、アイドルシーンのイコンと呼べると同時に、衰退・索漠の色の濃いシーンにあって、しかしシーンの消滅を防ぐ唯一の希望と扱えるだろう。しかし、アイドルに没入するファンがアイドルグループの通史のなかに、その物語のなかに登場人物として明確に描かれることはけしてない。だから、儚いのだ。アイドルがファンを映す鏡であるならば、当然、アイドルが儚いのであれば、そのファンも儚いのである。
渡邊志穂は、この敬意を払わざるをえない献身とメモリを目に見えるかたちで背負った”はじめて”のアイドルであり、AKB48において成長共有というコンテンツを言葉の真の意味ではじめて成立させたアイドルである。
総合評価 62点
アイドルとして活力を与える人物
(評価内訳)
ビジュアル 13点 ライブ表現 12点
演劇表現 10点 バラエティ 12点
情動感染 15点
AKB48 活動期間 2005年~2007年
引用:見出し 秋元康/ライダー