乃木坂46 好きというのはロックだぜ! 評判記

のぎざか, 楽曲

(C)好きというのはロックだぜ!ジャケット写真

「好きというのはロックだぜ!」

歌詞について、

乃木坂46の30枚目シングル。センターで踊るのは賀喜遥香。
恋愛、とくに夏の恋における活力を、アイドルとファンの出会いをスケッチした『君の名は希望』をモチーフにして、力強く綴っている。作詞家兼プロデューサーである秋元康自身がこれまでにメディアを通し繰り返し語ってきた『君の名は希望』における達成感・興奮を、その自身の思惟、言葉に衝き動かされたように、あるいは、囚われたかのように、語り直している。
気づいたときから、という書き出し部分には、『君の名は希望』を前にして乃木坂46の方向性、魅力の打ち出し方をようやく発見した際の「興奮」がかかっているのだろうし、「希望」を推進力にして飛翔し続けるグループに対する驚嘆、「アイドル」にはこれだけの力が秘められているのか、という身も蓋もない感興が込められているように見える。アイドルを誰よりも間近で眺めてきた人間が「アイドル」の理解に達する様には、それを眺める者をしても、なかなかの興奮がある。ただ、どうだろう、そうした魅力ある書き出しが、楽曲世界を広げるような力を持たず、むしろ倦怠させているように感じる。
結成10年、記念すべき30作目、ということで、グループをブレイクに導いた『君の名は希望』だけでなく、未来を作る、と作り手自らが呼号した『僕は僕を好きになる』のモノローグを踏襲したりと、グループの歴史に対し、なによりもグループのファンに対し、簡明に、意識的に振る舞っているようにうかがえるが、そうした配慮が作品を退屈なものに引き下げているのかもしれない。イントロから歌い出しまでのあいだで、過去作によった”乃木坂らしさ”を想起させつつ、そうした”らしさ”を打ち消す力強さ、希望の多さを打ち出している点を除けば、今作品には特筆すべき点はなく、抑揚を欠いている。正直、魅力に乏しい。行き詰まり、と表現してしまうとこれはやや真面目すぎるが、既存のアイドルに対するあたらしい興味、関心、発見への意欲に乏しい。新しく作られたフィクションの中でアイドルの新しい魅力、素顔を発見するような、希求力に欠ける。
アイドルソングを作るつもりはない、という志の高さには感心するが、楽曲を演じ歌い踊るのはあくまでもアイドルである、という点を看過していないか。

ミュージックビデオについて、

グループをブレイクに導いた過去作品を踏襲し語り直した楽曲に対し、映像作品もまた、過去のヒット作、センターで踊る賀喜遥香の出世作でもある『I see…』のミュージックビデオを踏襲、自己模倣している。良くも悪くも、アイドルの標準的なミュージックビデオ、といった印象。ただ、『I see…』と比べると、アイドルに瑞々しさがなく、夏の恋愛ソングというイメージに傷を付けているように見える。
『君の名は希望』をミュージックビデオにおいて語り直したのが『何度目の青空か?』なのだが、賀喜遥香主演で『何度目の青空か?』のような青春ドラマをもう一度見たかった、と言ったら、贅沢な要求に聞こえるだろうか。齋藤飛鳥、遠藤さくら、山下美月、久保史緒里、と脇を固める役者は揃っているのだ。


歌唱メンバー:賀喜遥香、山下美月、遠藤さくら金川紗耶与田祐希齋藤飛鳥清宮レイ掛橋沙耶香鈴木絢音田村真佑久保史緒里梅澤美波樋口日奈、柴田柚菜、佐藤楓、弓木奈於、秋元真夏岩本蓮加、筒井あやめ

作詞:秋元康 作曲:野村陽一郎 編曲:野村陽一郎