乃木坂46 吉本彩華 評判記

乃木坂46

吉本彩華 (C) スクランブルエッグウェブ

「幻のセンター」

吉本彩華、平成8年、乃木坂46の第一期生。
現在、乃木坂46を応援する多くのファンが想起する、乃木坂46の「1期」の中で比較的早い段階でグループを去ったメンバー、それはおそらく安藤美雲岩瀬佑美子柏幸奈、宮澤成良になるはずだが、彼女たちよりももっと早く、アイドルの輪郭を描くまえに夢の世界から現実世界へと帰還したメンバーがいる。山本穂乃香、吉本彩華の2名だ(スターティングメンバーで活動を辞退したのは吉本彩華と山本穂乃香の2名のみ、共に2011年9月22日付)。おもしろいのは、グループの立ち上げメンバーとして集合した36人の少女、その書き出しのまさに一行目に大書された一人の少女、それは生駒里奈でも西野七瀬でもなく、この吉本彩華だったという点だろう。後に乃木坂46をブレイクに導き、シーンの主流(AKB48)を覆すことに成功した作り手が、まず最初に選び、メディアにお披露目した「暫定選抜」の16人の少女、その中央に立たされた「暫定センター」が吉本彩華である。
彼女自身のグループアイドルとしてのキャリア、言うならば「物語」は乃木坂46の結成日(2011年8月21日)からわずか1ヶ月で幕を閉じているため、読書体験は得られない。得られないが、それとはまったくの無関係に、乃木坂46というアイドルグループが飛翔すればするほど、吉本彩華の存在感は、幻の初代センターとして、脱退理由が明確に述べられていないその謎めいた登場人物への興味も比例して大きくなるようだ。
AKB48の公式ライバルとして集められ、お披露目されたからだろうか、カメラの前で、ステージの上でマイクを持たされた吉本は「打倒AKB48」を堂々と、高らかに宣誓している。たしかに、その言葉にはなかなかの説得力がある。とりわけビジュアルに非凡なものを感じさせる。たとえば、後に乃木坂の中心メンバーとなる星野みなみを彷彿とさせる、時代の流れ、時間の経過に耐え得るルックスを誇っており、きわめてキュート。それでいて、幻想的な雰囲気、スマートさもある。これは今日の乃木坂46が標榜する、乃木坂らしさ、のひとつに合致しているようにおもう。ゆえに「打倒AKB48」への根拠のようなものを、彼女の横顔は残している。
また、同学年に中元日芽香生田絵梨花斎藤ちはるがおり、もし吉本が早々に活動辞退をしていなかったら「中3トリオ」は誕生しなかったはずだ、ほかに何か別の、たとえば生田絵梨花という「傑物」の同級生として独特な交流を描いたかもしれない、といった妄想へのワクワクさもすくなからずあるようだ。
とはいえ、もしこの「33番」としてカメラに映し出された少女がグループを辞めていなかったら…、もし、彼女が現在の乃木坂46にいたら…、といったアナザーストーリーを描く際に、グループの通史の転換点となり得るような、決定的なモノグラフ、濃密なフィクションを構築させるまでの才能・可能性を宿しているかと言えば、そこまでの人材ではないように想う。たとえば、もし彼女が辞めていなかったら生駒里奈西野七瀬の物語になにがしかの強い作用が及んだのか、正史を覆すような不気味な偽史、つまりフィクティブな批評の構築が可能なのか、といった観点で眺めたとき、想像力を試されるものの、結局、感興は生まれない。わずか1ヶ月でグループの活動を辞退しているわけだから当然と云えば当然なのだが。

 

総合評価 38点

アイドルの水準に達していない人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 6点

演劇表現 6点 バラエティ 6点

情動感染 7点

乃木坂46 活動期間 2011年~2011年