乃木坂46 岩瀬佑美子 評判記

乃木坂46

岩瀬佑美子(C)音楽ナタリー

「珠玉の卒業スピーチを残す」

岩瀬佑美子、平成2年生、乃木坂46の第一期生。
21歳でデビューし、22歳でアイドルを卒業する。グループアイドルとしての活動期間、物語は短い。平成の暮れ、現在の乃木坂46において、いや、現在のグループアイドルシーンにあっては、活動歴1年、22歳で卒業を決心するというのは、どちらも早すぎる決断に映るが、岩瀬佑美子がアイドルを卒業をした2012年当時、彼女の卒業に対し、同業者、ファンのいずれも、尽きないなごりこそあれど、卒業という選択、その動機に向け疑問を提示したり、嘆いたり、怒ったりする者はまったくと言ってよい程、いなかったのではないか、と記憶する。たとえば、橋本奈々未の卒業によって打ち出された喪失感や、相楽伊織が卒業発表をした際に渦巻いた動揺、意外性は、岩瀬佑美子の卒業に向けては皆無であった。

僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって
ひとつめはここじゃどうも息も詰まりそうになった
ふたつめは今宵の月が僕を誘っていること
みっつめは車の免許とってもいいかな なんて思っていること

くるり / ハイウェイ

彼女の卒業から時間が経った今、その理由を改めて考察したり、アイドルを演じた少女の内心を無闇に追究する行為に意義などはまったく無いし、そもそも本当の卒業理由を知る術などどこにも残されていない。当たり前だが、我々アイドルファンは、アイドルの持つ感情の数をすべて数えることなど、はじめからできはしないのだ。
ほんとうの夢のためにアイドルがある、という、作詞家・秋元康の啓蒙に衝き動かされたように、岩瀬佑美子もアイドルの扉を閉じたのだが、現実的なことを云えば、アイドルを演じる少女が幻想の世界から脱するとき、その理由が一つだけ、次の夢のためだけ、ということはまずありえないだろう。様々な日常の感情と、様々な些細な事情のもと、それぞれがアイドルを脱するのではないか。バンドマンを志す若者らしさに溢れ、きっと、だいたい「百個くらい」の理由が彼女にもあったのだろう。

とはいえ、このひとの「アイドル」としての「特筆」が「卒業」にあるのは間違いない。
AKB48から連なるグループアイドルシーンにあっては、これまでに数多くの卒業スピーチが編まれてきた。そのなかでも岩瀬佑美子はシーンに銘記されるべき珠玉のスピーチを作り、披露している。彼女のアイドルとしての物語、その名声を考慮したとき、岩瀬佑美子の残した言葉がグループアイドル史のなかでどれだけの読者の目に触れ、どれだけの時間の経過に耐え得るのか、わからない。しかし、乃木坂46の第一期生が、第二期生や第三期生等次世代アイドルでは到底手が届かない魅力を湛え、アイドルシーンの主流であり続ける、燦然たる輝きを放つことを可能とする理由、それは、おそらく、岩瀬佑美子から直接贈られたメッセージを、一期生のそれぞれが胸に仕舞い込み、彼女との約束を、いつまでも、しっかりと守っているからだ。

「これからもっと悔しい事とか辛い事とか納得いかない事がたくさんあると思うけど、でも、それでもみんな今の気持ちのまま、今のピュアな気持ちのまま良い意味で大人にならないで、そのままの純粋なきみたちでいてください」

乃木坂ってどこ「笑顔、そして涙の岩瀬佑美子卒業式」

ファンを魅了するアイドルの有り様を、しっかりと、丁寧に教えている。現役のアイドルであり、かつ、才能豊かな少女たちに直に触れた経験を持つものでなければ、こういう言葉は編めないだろう。
なによりも興味深く、尽きない洞察があるのは、岩瀬佑美子から見て、まだ少女だった「きみたち」が、岩瀬佑美子がアイドルを卒業した22歳という年齡を、アイドルの姿をしたまま次々に超えていくという、ある種のパラドクスとも呼べる現象、ストーリー展開が「きみたち」にどのような影響を与えているのだろうか、という点である。この、現代のアイドルシーンにきわめて緊密に絡みつくテーマを卒業スピーチというかたちで残し、結果的に時代を”来るべきものの側”として撃った岩瀬佑美子には、敬意と称賛を贈りたい。

 

総合評価 57点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 13点

演劇表現 8点 バラエティ 10点

情動感染 14点

乃木坂46 活動期間 2011年~2012年