乃木坂46 川村真洋 評価

川村真洋(C)2019 YOUNG GUITAR

「不条理」

川村真洋は、現代アイドルによって演じられるライブ舞台空間、そこで作られる言葉は「生命を喪失している」という一般化された揶揄に立ち向かったアイドルである。アイドルというジャンルに縛られずに、ポップカルチャーそのものに呼応しようと試みた人物である。
ライブ舞台とは、アイドルの日常風景の延長、あるいはスピンオフであり、非日常と称する場合でも日常の物語との連続性やメタファーはうしなわれない。川村真洋はその空間に漂うことも、通過することもせず、独り異なる場所で闘っていたように映った。独り異なる批評空間に立って、そこで他のアイドルとは別の賛辞や批判を受け付けていた、と感じる。故に、グループに対し、アーティスティックな面での貢献度は計り知れない。しかし、その代償として乃木坂46によって描かれた群像劇に加わることができず、ターミナルキャラクターに終始した。彼女は、グループアイドルの第一期生に備わる独自性のある物語の所持に失敗している。「笑顔を絶やさない」という姿勢をしっかりとファンに伝え、最後までアイドルを演りきった反面、深い意味を”持たない”微笑みを見せることは一度も叶わなかった。

日常の自壊にすら届かない空間で唄い踊るアイドルの表情を評価するのはむずかしい作業だ。彼女のパフォーマンスには、スリルな展開はあるが、物語の転換はない。その楽曲を舞ったことによって少女が新しい場所に流れついて、新しい局面に遭遇し、それまでとはまったく別の、まったく新しい物語を描いた、という出来事は何処にも見当たらない。その歌声で心が揺かされる場面はあったかもしれないが、心が握り潰されるような不安を覚えたことは一度としてない。アイドルとしての物語の欠如が表情の乏しさを招いていたのかもしれない。目を閉じて歌声だけに耳を傾けたほうが良いのではないか、という倒錯が起きていた。つまり、物語の欠如が、新しい物語(アイドルの表情)との遭遇を阻碍していた、と云える。

歌が巧い。ダンステクニックがある。しかし、選抜メンバーに選出されない。この葛藤を抱えるアイドルは珍しくはなくなった。川村真洋もそのような感情に囲繞され、アイドルとしてのアイデンティティにすら成ったが、彼女はその葛藤の壁のおかげで、アイドルが(文芸の世界に身を置く者)最も恐れ絶望する体験=不条理に遭遇していない。例えば、与田祐希や筒井あやめといった逸材がアイドルとしてファンの目前に映し出された瞬間に巻き起こる不条理を。
自身が所属するグループをアイドルシーンの頂きまで牽引し、実力と経験も豊富であり、確かに豊穣な物語を書き残した人物たちが、アイドルという虚構に足を踏み入れたばかりの、書き出しの一行すら終えていない少女に、アイドル「人気」で敗北する、一瞬で置き去りにされる、という不条理を川村真洋は経験していない。天分という到底納得することのできない事実に直面していない。若月佑美、桜井玲香、衛藤美彩、秋元真夏等、群像の象徴的キャラクターが獲得する絶望やペシミズム、辛辣を川村真洋はなめていない。彼女は圧倒的な才能を前にひれ伏す経験をしなかったおかげで、アイドル時代のアイデンティティを延長できたと云える。彼女はアイドルとして、歌、ダンス共に尊敬こそ勝ち獲ったが、本当の意味で、心の内奥に落ちてくるような敗北感を味わった経験はない。だから、アイドルを卒業しても、かわらずに、歌を唄うことができる。

 

総合評価 63点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 11点 ライブ表現 17点

演劇表現 10点 バラエティ 13点

情動感染 12点

乃木坂46 活動期間 2011年~2018年

評価点数の見方

乃木坂46