乃木坂46 夜明けまで強がらなくてもいい 評価

乃木坂46, 楽曲

夜明けまで強がらなくてもいい ジャケット写真/乃木坂46公式サイト

「夜明けまで強がらなくてもいい」

ミュージックビデオについて、

24枚目シングル。センターポジションには遠藤さくらが立つ。
グループの物語にあたらしい主人公を迎えたなか、サンプリング的な再登場=過去の再利用に頼った音楽のなか、不安定な秤のような人間喜劇を映像で描くも、構成そのものは作り手の安易な想像力を露呈している。個の拡散、家郷の再構築といった筐体の抱える不安の輪郭は追えているものの、アイドルを演じる少女の写実には関心が持たれておらず、新鮮なアイドルから湧き出ているはずの鮮烈さが降りてこない。結果的に、楽曲に定めたであろう命題を裏切っている。
演劇要求の余白部分に書かれる演者による”語り”は作り手の写実や批評ではない。それはあくまでもアイドル自身の仮装である。作り手自らがアイドルの現在(いま)を写実しないのであれば、完成した作品を、どこにでも転がっているリンゴの絵=模倣品と揶揄されても、それは当然の成り行きとするほかないだろう。あるいは、西野七瀬のように作り手にフィクティブな批評と呼べる水準の行為を強いる原動力=豊穣な物語性を具えるアイドルが現在の乃木坂46に伏在しない事実への皮肉の結晶が”写実の欠如”なのかもしれない。これはまず間違いなく今後のグループの課題になるはずだ。

桜井玲香を端境の登場人物として強く描いている点、グループアイドルの連なりを真剣に扱っている点は良い。この世に生を受けたときに泣くのなら、物語が、アイドルが生まれ変わる瞬間にも、やはり涙は流されるのだろう。だが、その要(かなめ)の”涙”によって感興を殺がれるのだから外連がうまくいっていない。目まぐるしく変わる映像、それが場面展開の豊富さや個性の発揮に映らず、ただの継ぎ接ぎにしかおもえないのは、ほとんどの演者が仮構のなかで呼吸する住人、つまり架空の世界を右へ左へと動く、物語の登場人物としての個人の内面を表出する構図を作れていないからだろう。平易に云えば、アイドルたちのほとんどが楽曲に対し個々にその存在理由を把持していない。だからか、この映像を眺めるファンは、そこで流される涙の理由を探ってしまう。”彼女”は何故そこで泣いているのか、必要のない動機を求めてしまう。
そのような嘆きの裏で、松村沙友理の笑いは、本物の嘲笑いである。間違いなくキャリアハイにあり、いたずらに鮮やかで、いたずらに咲いている。つまりそれは彼女の日常であり、日常を演じる人間の、その「過ぎ去った一日」の再現である。また、与田祐希も俗物として振り切れたのか、翳りを作っており、立ち居振る舞いや仕草ではなく姿形のみで満足されるアイドルを脱し、都会のひかりに囲繞され欲に染まっていく人間の証しを握りしめるように、秘めた憤りによってグループの過去の証しであると同時に未来の希望でもあるという束縛に持ち込まれる苦悩が一気に壺にはまり、濃密な物語性を獲得した感がある。楽曲が抱える瑕疵と彼女の瑕疵が遠く響きあっている点も興味深い。

歌詞について、

君の名は希望』で登場した「希望」はそれを最後に表題曲のなかで使用されることは一度もなかったと記憶するが、『夜明けまで強がらなくてもいい』で再登場を果たす。クリシェをアイデンティティとして成立させてしまった秋元康が「希望」の再利用だけは行わなかったことにどのような意味があったのか、『君の名は希望』の達成の保存を破った点にどれほどの価値が見いだせるのか、検証の余地が尽きない歌詞となっている。もちろん、「太陽」や「命」も看過が許されないメモリーと云えるだろう。
これまでに、とにかく書き尽くした絶対に移動しない”僕”を、次世代アイドルの群像を描くために安直に移動させるのではなく、移動をしない理由、移動できないのは何故か、この自縄自縛を穿っており、作詞家が従来の殻を破ろうとする姿勢がうかがえる。
『夜明けまで強がらなくてもいい』は「君」を喪失したあとの「僕」が、孤独ではなく絶望に戻った物語である。もちろん、この「僕」とは、校庭でボールが転がってくるまで、そこでじっと座っていた、あの「僕」である。「希望」の存在に気づいた「僕」の後日の話が『何度目の青空か?』であるならば、「君」を喪失して校庭に再び座り込み、水道の蛇口から水がこぼれるのを眺める「僕」が、その胎動から移動するための衝動や動機を掴み、『何度目の青空か?』を『君の名は希望』の続編として成立させた理由を、欠落を語ったのが『夜明けまで強がらなくてもいい』だとするストーリー展開を試みるのもフィクション=批評として面白いのではないか。成長を続けるグループを前に作詞家は過去に戻ったのである。そして二つの過去=『君の名は希望』と『何度目の青空か?』の間合いに踏み込み、結末への欠落を埋めたのだ。論を急ぎ、飛躍させるのならば、つまりアイドルの成長共有とは決して不可逆的なものではないということだ。作詞家がアイドルへあてるメッセージが輪廻することは文学の観点で、救済がある、と云えるだろう。

 

 総合評価 73点

現在のアイドル楽曲として優れた作品

(評価内訳)

楽曲 15点 歌詞 15点

ボーカル 16点 ライブ・映像 14点

情動感染 12点

歌唱メンバー:生田絵梨花、白石麻衣、松村沙友理、桜井玲香、梅澤美波、山下美月、与田祐希、北野日奈子、秋元真夏、久保史緒里、高山一実、星野みなみ、新内眞衣、遠藤さくら、筒井あやめ、齋藤飛鳥、堀未央奈、賀喜遥香

作詞:秋元康 作曲:山田裕介 編曲: APAZZI

 

乃木坂46 羽根の記憶 評価

「風が吹き始めたら 生まれ変わる」 歌詞、楽曲について、 12thシングル『太陽 ...

乃木坂46 北川悠理 評価

「趣味は空を見ること」 北川悠理、平成13年生、乃木坂46の第四期生。 ヒステリ ...

AKB48 武藤十夢 評価

「ダークナイト」 武藤十夢、平成6年生、AKB48の第十二期生。 深窓の令嬢的な ...