乃木坂46 バレッタ 評判記

「バレッタ」
ミュージックビデオについて、
乃木坂46の7枚目シングル。センターに立ったのは堀未央奈。
グループに加入したばかりの少女を表題曲のセンターポジションに配置したことで何かと話題になったシングル。作り手の、倫理が問われると同時に、あたらしく主役の座に置かれた少女への反動もすさまじく、ファンだけではなく、アイドルを演じる少女自身もまた現実と仮想の境界線を曖昧にし、もだえ苦しみ、シーンに偏在的に没入する羽目となった。
前作の主人公があたらしい主人公から放たれた銃弾によって倒れるといったきわめて安易な明喩を描いたミュージックビデオをみてわかる通り、選抜発表のシーンをそのままひとつのドラマにする、フィクションの再現が試みられている。つまり、作り手による構図の再確認への仕掛けがある。あくまでもフィクションとして提示したバラエティショーが仮想の境界線を踏み越えて現実世界で呼吸をはじめてしまった。その作り物の見世物小屋をふたたび仮想の世界に建築しようと狙った行為が構図の再確認である。突然目の前に現れた「異物」が、満を持して物語の主人公となった少女を主役の座から引きずり下ろしてしまった。この光景がフィクションであることをファンだけでなく、ほかでもないアイドルを演じる少女自身にも説得するために用意したウソの世界が「バレッタ」のミュージックビデオである。カメラの前で芝居を通じて、もう一度選抜発表のシーンを描く。そうすることで悲劇だとおもった出来事が、所詮はフィクションにすぎなかった、という事実に到達させる。このフィクションの再現を試みた結果、しかしアイドルとファン双方により強いオブセッションをあたえた点には興趣をそそられるものの、肝心のミュージックビデオについては、ドラマへの傾倒がすぎるのか、「ガールズルール」でみせた演劇表現には遠く及ばない、滑稽な姿形に終始している。
歌詞について、
クリシェ化への失敗をみれば一目瞭然だが、テーマそのものに欠陥がある。あるいは、あまりにも膨大な暗喩を持つテーマに対する作詞家の力量が不足しているのか、トレーに載せて提出した詩情のどれもが楽曲やアイドルへの引用に到達しておらず、共時を一つも拾わない。あらかじめ作られた映像を描写したような書き出しにはたしかに惹き込まれるものがある(本来こうしたイメージの物語化というのは退屈になるものだ)。だがそれが肝心のアイドルを演じる少女たちの横顔と通い合わないのは、結局その後に記される言葉の数々が新鮮な写実ではなかった、ということなのだろう。
総合評価 45点
何とか歌になっている作品
(評価内訳)
楽曲 4点 歌詞 10点
ボーカル 9点 ライブ・映像 9点
情動感染 13点
歌唱メンバー:西野七瀬、白石麻衣、堀未央奈、橋本奈々未、松村沙友理、伊藤万理華、衛藤美彩、齋藤飛鳥、秋元真夏、深川麻衣、中元日芽香、川後陽菜、高山一実、桜井玲香、生田絵梨花、生駒里奈、若月佑美
作詞:秋元康 作曲:サイトウヨシヒロ 編曲:若田部誠