乃木坂46 川後陽菜 評価

乃木坂46

 

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「足もとに流れる深い川」

 

『目標を立てたところで見た目だよ』、この問いを、結論を、喜劇の一場面だとしても、アイドルが口にしてしまった意味はおおきい。ここまで直線的な言葉は中々に吐けない。まるで、柳家小三治『まくら』の一話面のようである。現代アイドルがたどり着くペシミズムの最終形態なのかもしれない。要は、「自分は、ほかのだれにもなれない」と宣言をしたのだ。しかし、本当にそうだろうか?この問いかけ、結論は、出口が入り口につながっているような迷路を創造し、川後陽菜というアイドルを自縄自縛の隘路に導いてしまったのではないか。『目標を立てたところで見た目だよ』という問いかけ、結論は、どうしようもなく救いがないのである。生まれ落ちたその瞬間にすべてが決まってしまっていると確信する無力感を抱いた、動機が不在した主人公を描くエンターテイメント小説のように救いがない。「アイドルの隘路」という文学的なテーマになり得るかもしれないが、しかし、そこからはどこへも往けないだろう。『目標を立てたところで見た目だよ』。アイドルがこの一般論的な隘路から抜け出すためには、アイドルを志した動機を、それをそのまま、ありのままに描き、それを虚構というもうひとつの別の世界に置いてやれば良い。これは正岡子規の写実文学的な考え方でもあるが、これと同様の哲学を示したのが生田絵梨花である。これは、簡単そうにみえて、実はいちばん難しい。宿命的でありながらも能動性と呼ばれるような資質が必要になる。この企みに成功すれば、それは文学としてアイドル史に銘記されるだろう。

しかしもう一度私が私の人生をやりなおせるとしても、私はやはり同じような人生を辿るだろうという気がした。何故ならそれが(その失いつづける人生が)私自身だからだ。私には私自身になる以外に道はないのだ。どれだけ人々が私を見捨て、どれだけ私が人々を見捨て、様々な美しい感情やすぐれた資質や夢が消滅し制限されていったとしても、私は私自身以外の何ものかになることはできないのだ。かつて、もっと若い頃、私は私自身以外の何ものかになれるかもしれないと考えていた。(略)私自身の自我にふさわしい有益な人生を手に入れることができるかもしれないと考えたことだってあった。そしてそのために私は自己を変革するための訓練さえしたのだ。『緑色革命』だって読んだし、『イージー・ライダー』なんて三回も観た。しかしそれでも私は舵の曲がったボートみたいに必ず同じ場所に戻ってきてしまうのだ。それは私自身だ。私自身はどこにも行かない。私自身はそこにいて、いつも私が戻ってくるのを待っているのだ。人はそれを絶望と呼ばねばならないのだろうか?(略)しかし誰がどんな名前で呼ぼうと、それは私自身なのだ。

(村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」)

この『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の主人公である「私」は、”私は私自身以外の何ものにもなれない”と独白をするが、一方で壁に囲まれた「世界の終わり」というパラレルワールド(彼の意識)のなかで、(現実世界と同時進行で)「僕」として生活をしている。「私」はそれを自覚し、認めざるを得ない状況に追い込まれていく。「私」は現実世界と意識の内にあるもうひとつの世界の交錯が、自身のアイデンティティを確立させると理解している。そして、何よりも、この作品は村上春樹の自伝小説なのである。人は、自分以外の何ものにでもなれるのである。

アイドルを演じるという行為は「こことは別のもうひとつの世界の創造」である。足もとに流れる深い川のさきにある寂寞たる世界。そこで暮らすもうひとりの自分の物語の発見と提供。それはアイデンティティの確立過程でもある。川後陽菜の、一歩引いた姿勢。踏み込むと、サッと退くような客観的な立ち居振る舞いとは、自我が確立していない人間がみせる「戸惑い」であると私は想う。動物との触れ合いで、フェネックギツネが彼女の靴に噛み付く。靴に傷がつく。そこで一瞬間をおいて『ちょうど壊れそう』と、彼女は呟く。このシーンに川後陽菜というアイドルの魅力(素顔)が覗える。別の場面では、『金か愛か』を選べ、という問いに対し、ひとりだけ『愛』とこたえる。その場に居合わせた、ほかのだれよりもアイドルらしい照れ隠し(素顔)。モラトリアム特有の仕草、と云える。おそらく、無意識のうちに、生田絵梨花が提唱した”Let It Go(ありのままに)”を試みている。川後陽菜は、アイドルとしては、アイデンティティの確立が遅いタイプなのかもしれない。虚構の観点では、きわめて未成熟である。しかし、それでも、その不完全さによって、アイドルとしての存在理由を満たしてしまうのだから、独自性のある人物と云える。

 

総合評価 61点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 12点

演劇表現 10点 バラエティ 13点

情動感染 14点

 

乃木坂46 活動期間 2011年~

引用:見出し レイモンド・カーヴァー「足もとに流れる深い川」

評価点数の見方