乃木坂46 一ノ瀬美空 評判記

乃木坂46

一ノ瀬美空(C)モデルプレス

「イワン・クパーラ」

一ノ瀬美空、平成15年生、乃木坂46の第五期生。
アイドルになることを、自らの行動で宿命づけた人物だと、極褒めすべきだろうか。「アイドル」が笑顔でいることの価値を、三日月の笑顔をもって体現している。微笑をたえず浮かべる、「アイドル」をソワレにして佇んだその横顔は、アイドルを眺めることで楽観的になれる、こころが軽くなる、といった事由を越え、鑑賞者のふところに活力をたぎらせる。素顔を仮面で覆い、日常の細部まで嘘を作り込み人生を象るという、生きる上での当たり前の営為に向ける私たちの後ろめたさを「アイドルと笑顔」という関係、命題の演技のなかで一ノ瀬美空は晴らしてくれる。彼女が演技をして笑えば笑うほど、その笑顔が魅力的であればあるほど、ファンは、嘘を付いて生きることを肯定された気分になる。その点で、かなり自覚的なアイドルだと言えるだろう。笑顔を演じ生き続ける過程で、それが職業だという自覚のもとにアイドルへと変身したかに見える一ノ瀬は、アイドルになったからには常に笑顔でいなければならないと心に誓う平凡な少女たちと対蹠的(たいせきてき)な立場をとっている。
それはダンスにおいても明らかである。一ノ瀬の踊りの特徴は、アイドルではない自分、という前提を音楽に持ち込まない点にある。それはたとえば、日常の所作のなかにすでに踊りが含まれているイワンクパルの妖精を想起させ、「アイドル」と「アイドルを演じる少女」とのあいだに隙間がないことが、踊りのなめらかさに寄与している。
であれば当然、欠点は、笑顔ではない場面における魅力の乏しさ、ということになる。『熱狂の捌け口』での画一した表情が顕著だが、笑顔を演じることで日常の様々な局面を凌いできたであろう彼女が、アイドルになって、やはり笑顔の魅力を横溢するも、それだけでは通用しない、大衆を虜にすることはできない、という壁にぶつかったことは、今日のアイドルの主流がどのようなものなのか、相対的に映し出している。
その意味では、山下美月とビジュアルが似ていることが、ある種、山下と同様の屈託に帰結させているかに見える。笑顔にこだわり、王道のアイドルを演じているつもりで、王道の一歩も二歩も後ろを歩くことになった山下とおなじ苦悩を、早くも抱え込んでいるように見える。とりわけ、日常と非日常、夢と現、自己とアイドルをつなぐものが「笑顔」であることで帰結するある種の発熱した暗さ、憤り、辟易などが、山下とかさなりあって見える。ほんとうの自分を見失うきっかけに「笑顔」があり、また、ほんとうの自分というものを探そうとする発意のきっかけにも「笑顔」が置かれることで、アイドルそのものがやつされていくストーリーをスターの宿命だとするアナクロに落とし込んで歌い踊った点に山下美月というアイドルの個性があるはずだが、その山下の後ろ姿に学ぶことができるのは一ノ瀬美空だけだろうから、その可能性を適える瞬間に期待したい。

 

総合評価 66点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 14点 ライブ表現 14点

演劇表現 13点 バラエティ 12点

情動感染 13点

乃木坂46 活動期間 2022年~