乃木坂46 命は美しい 評判記

のぎざか, 楽曲

(C) 命は美しい ジャケット写真

「その手 放せば楽なのに」

歌詞について、

乃木坂46の11枚目シングル。センターは西野七瀬。
『ぐるぐるカーテン』から『何度目の青空か?』まで、作詞家・秋元康によって提出された表題曲は、アイドルシーンに没入する人間に対する強い自意識のもとに詩的世界を構築していた。しかし今作では”鉄壁の備え”とも呼べる構図から脱却し、普遍的なテーマに踏み込んでいる。詩を書くにあたり、まずアイドルがあってそれに「社会」の図式をあわせるといった手法ではなく、まず「社会」という普遍があり、そこにやや強引にアイドルを演じる少女をあわせている。その強引さによって生じる”ねじれ”のようなものをダンスシーンでうまく表現できている点には感心するものの、楽曲全体を俯瞰すると、作家の決意や思い入れをあざ笑うかのように、自立した詩情は退屈さを抱え、路上に座り込んでいるようにみえる。

日本の現代文学において、素通りできないテーマに「自殺」がある。今作『命は美しい』も「自殺」に触れており、「覚悟の要求」のようなものを作り手が握りしめている、とたしかに感じる。だが、いや、当然と云えば当然なのだが、テーマのむずかしさゆえ、うまくいっていない。
作詞家・秋元康のウィークポイントとは、俗悪さやイノセンスといった生来の資質を圧しころし「真摯」を振る舞うとき、詩的世界が色あせ、陳腐になってしまう点である。たとえば、後日提供される『シンクロニシティ』の失敗が格好の材料になるだろうか。共時性と呼ばれるきわめて特別な体験を、しかしそれが誰にでも起こり得る、既知の出来事として述べる所業への説得力をまったく提示できなかった所為で、鑑賞者が情動の感染に遭遇しない、それが『シンクロニシティ』である。『命は美しい』にもこれに限りなく近いキズがある、と感じる。要は、作詞家・秋元康とは、アイドルを写実し啓蒙する行為を得意とする一方で、「普遍」を扱う際にもとめられる想像力に関してはひどく痩せている、ということなのだろう。他者に覚悟を要求する図式の上では眼を輝かせるが、自己愛を放棄して、自己に向けて「覚悟の要求」を投げると、げんなりするような作品が上梓される。その根底にはやはり「状況の発展」をどうしても書けない不可能性、つまり、いつまでたっても移動をしない「僕」を描き続けてきた代償があるのだろう。

ライブ表現について、

西野七瀬の真骨頂、強さと儚さの表裏が成立した瞬間であり、それはアイドルの踊りからアイドルの物語を辿ることができるという奇跡を証してくれる。

 

総合評価 56点

聴く価値がある作品

(評価内訳)

楽曲 11点 歌詞 9点

ボーカル 13点 ライブ・映像 14点

情動感染 9点

歌唱メンバー:松村沙友理、相楽伊織、齋藤飛鳥、伊藤万理華、堀未央奈、星野みなみ、衛藤美彩、高山一実、若月佑美、秋元真夏、生駒里奈、桜井玲香、深川麻衣、松井玲奈、白石麻衣、西野七瀬、橋本奈々未、生田絵梨花

作詞: 秋元康 作曲:Hiroki Sagawa 編曲:Hiroki Sagawa

 

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