乃木坂46 金川紗耶 評判記
「やんちゃなやんちゃん」
金川紗耶、平成13年生、乃木坂46の第四期生。
絢爛をきわめる乃木坂46にあって、若手でありながらグループの歴史・アイデンティティに密着し、かつそれらを破砕するフレネミーを発揮している。同業者からの評価も高い。とくにステージの上で見せる立ち居振る舞いは別格にうつくしく、玄人筋をして、もっともダンスの上手い若手アイドル、と唸らせている。
まず、ビジュアルに心が引かれる。鑑賞者に不意打ちを喰らわす優雅なシルエットの持ち主で、乃木坂46のみならず、アイドルシーンのなかにあって群を抜く華麗さを誇る。卒業メンバー、現役メンバー問わず、いわゆる「額縁衣装」のもっともよく似合うアイドルであり、きらびやかな泡沫を金川はそなえている。
演劇を下敷きにして自我を立ち上がらせるという女優然とした相貌と、ファッションモデルのような佇まい＝ビジュアルのハイブリッドが乃木坂46のアポステリオリならば、そのイメージの一片を引き受けていたのが西野七瀬であり、橋本奈々未であり、またその直系に立つ齋藤飛鳥なのだが、彼女たちが作り上げたイメージに合致する、それを継ぐ存在を探り当てるならば、それは遠藤さくらと、この金川紗耶になるはずだ。
弱さを軸にして闘う遠藤さくらに比して、金川紗耶は、気まぐれで、本能の人、に見える。本能的であるがゆえに、直感的、向こう見ず。だが「夢」に対する注意のうちこみ、熱誠には目を見張るものがある。夢つまり立身出世に対し並ならぬ脚力を有しており、乃木坂46の一員であるという誇らしさ、陳腐なプライドなど歯牙にも掛けない行動力、フレネミーを発揮する。乃木坂らしくあろうとする心がけ、真面目さによって、肝心の「乃木坂らしさ」を見失ってしまう多くのメンバーをよそに、自己の夢を叶えるためにアイドル(乃木坂46)があるのだという姿勢、つまり正真正銘の乃木坂らしさを金川紗耶は示している。
顔も名前も知らない他人の作り上げた過去の物語を前にして、その「過去」を大事に抱える大衆を前にして無関心を装うのではなく、その豪華に装幀された本に何ら価値を見出すことができず、完全に他人化してしまう。何者かが作り上げた物語＝通史の上に立ちながら、しかしその歴史に無自覚にふるまう。自分が今立つ場所、そこが、そこだけが自身の物語の、夢の出発地点であると確信している……。
こうした少女の野蛮な横顔にこそ、グループアイドル＝夢見る少女の「素顔」を見出すべきかもしれない。教養として、あるいは情報としてグループの過去の物語を学び、人気取りのためにその「過去」に媚びを売るとしても、本音を言えばどうやってもそこに価値を見出すことができない、献身できない、という心情こそアイドルグループのあたらしい時代を生きる少女がまず最初に隠蔽する素顔なのではないか。
もはや説明するまでもなく、金川紗耶の素顔とは、過去の遺物、その残映に対する献身を誓い表明する人間の陳腐さつまり虚栄心を打ち倒す生き生きとした野心にあり、自分はあくまでも「夢」をつかむためにアイドルを演じているのであって、グループの立ち上げメンバーである1期生の面々が記した物語の素晴らしさを証すために存在しているわけではないのだ、という反動をこの人は宿している。しかしまた、この野心や反動こそ乃木坂の1期が作り上げたエコール＝乃木坂らしさであることも、もはや説明不要の事実である。
「アイドル」のことはよく知らないけれど、「夢」への架け橋になるなら……、といったポーズをとった少女の集合が乃木坂46・第1期生なのだが、4期生としてデビューした金川もまたこれと同様の構えをとっている。というよりも、おそらくは、アイドルの扉をひらく少女のほとんどが本来この種の「本音」をもっているはずなのだが、しかし少女たちの多くはそうした姿勢をファンの前で描くことをしない。グループの歴史に価値を見出し、やはり同じようにグループの歴史＝1期生の後ろ姿に価値を見出すファンのご機嫌を取ることがアイドル人気を獲得するための秘訣であると、理解しているからだろう。
金川がそうした平凡なアイドルたちと無縁をつらぬく遠く離れた存在だとは思わないが、金川には、グループの過去に対する敬意、自己の意識とは裏腹に、衝動的に、本能的にその「過去」を裏切り毀してしまう大胆さ、野蛮さ、やんちゃな一面があり、凡庸を圧するだけの資質をたしかに有しているかに見える。
たとえば、大衆に傷めつけられた青春、といった個人的な事情・スキャンダルを背景にしつつ、少女の純粋さが徐々に損なわれて行くのと引き換えに純度の高い「夢」が立ち現れるという、グループアイドルとしての正統さを持ち、また、夢という漠然としたもの、その最も危険な香りに誘惑されてしまった少女、という意味では、乃木坂46の伝統を護る登場人物と見なすべきであり、乃木坂らしさ、この茫洋としたアイデンティティへの問いかけに対し多角的に応答できるメンバーとして、指を折るべきだろう。
その存在感、とくにビジュアルと踊りのうつくしさが正当に評価され、高い人気を獲得した今、彼女の野蛮さは鳴りを潜めたが、しかしいつか抑えきれずそれが顔を出すのではないか、予感させもする。ゆえに常にスリリングな展開に満ちたアイドルと呼べる。
総合評価 74点
アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物
（評価内訳）
ビジュアル 15点 ライブ表現 16点
演劇表現 12点 バラエティ 17点
情動感染 14点
乃木坂46 活動期間 2018年～
2023/10/15 演劇表現 8→12
