乃木坂46 走れ!Bicycle 評価

乃木坂46, 楽曲

(C) 走れ!Bicycle ジャケット写真

「南風」

歌詞、ミュージックビデオについて、

前作で溢した笑顔の硬直がすでに克服されており、驚かされる。それがふたつの非日常=人形劇を切り替える啓蒙的構成によって達成されたのだとすれば、作り手に並々ならぬ手腕がある、と評価すべきだろう。
今作では、アイドルたちがはじめて「感傷」に踏み込んでいる。だが、もっとも面白いのは、フレンチポップスの仮装をしてコケットリーに踊る星野みなみを眺めていると、そこに居るのは令和を生きる現在(いま)の彼女ではないか、アイドルが過去にタイムスリップしてそのままカラフルに彩られたステージの上に立っているのではないか、と錯覚する点だ。2012年に制作された楽曲でありながら、そこに提示されているアイドルの姿形が未来のアイドルと共時している、この点にアイドル・星野みなみのアイデンティティを触るのではないか。
歌詞、ミュージックビデオの構図をみてわかる通り、「走れ!Bicycle」の詩的世界の根底、そこでつよく存在を意識されているのはセンターポジションに立つ生駒里奈ではなく、その横で踊る星野みなみである。つまり、この楽曲がヒットした際には、「センター」がまぶしいスポットライトを浴びると同時に、もうひとりの主人公として星野みなみが注目される、そんな状況が待っていたのではないか、とおもう。結果的に「走れ!Bicycle」の評判はいまひとつで、作り手が期待する、周到に仕掛けた「絵」をみることは叶わなかったのだが。
表題曲でこのような構図を描く姿勢(正史の裏に、常に正史とすり替えられる偽史を書き続ける姿勢)、つまり「乃木坂らしさ」の欠片は、「走れ!Bicycle」提供以後、多くの表題曲から拾うことになる。とくに、5thシングル「君の名は希望」で一気に壺にはまった感がある。生駒里奈の横に立った生田絵梨花のアイデンティティの確立、背後に隠れていた西野七瀬の発見など、あくまでも生駒里奈を主人公に置いた楽曲でありながら、あたらしい主人公が”偶発的”に生まれる、といった現象を作ることに成功している。
この、生駒里奈の後姿、ある種の孤独感とは、ロードレース(自転車競技)における「アシスト」とよく似ている。列の先頭を走り、吹き付ける風から味方=「エース」を守り、やがて力尽き、後方へ下がっていく、あるいは地面に足を付ける。「アシスト」に守られた「エース」は表彰台に上がり、メディアとファンから称賛を浴びる。そのような光景が乃木坂46の生駒里奈の物語と似ている、と感じる。もちろん、ロードレースにおける「アシスト」はレースを眺めるすべてのファンにその役目を理解され、彼ら彼女らもまた、栄誉を獲得する。だが、グループアイドルとなると話は変わるようだ。残念ながら、生駒里奈の横顔にみる有徳さ、そこに対する評価、批評はほとんど作られていないように映る。
このような観点のもと、もう一度「走れ!Bicycle」を鑑賞してみれば、乃木坂46の成り立ちに思いを馳せると同時に、新鮮な感興が手元に舞い降りてきてくれるかもしれない。

 

総合評価 72点

現在のアイドル楽曲として優れた作品

(評価内訳)

楽曲 15点 歌詞 15点

ボーカル 13点 ライブ・映像 15点

情動感染 14点

歌唱メンバー:生田絵梨花、生駒里奈、星野みなみ、桜井玲香、斉藤優里、若月佑美、井上小百合、市來玲奈、伊藤万理華、深川麻衣、中田花奈、橋本奈々未、白石麻衣、松村沙友理、西野七瀬、高山一実

作詞:秋元康 作曲:Shusui、伊藤涼、木村篤史、ヒロイズム 編曲:湯浅篤

 

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