乃木坂46 佐藤楓 評価

乃木坂46

佐藤楓(C)TOKYO POP LINE

「サトウカエデ」

佐藤楓、平成10年生、乃木坂46の第三期生。
アイドルになる前、夢を抱かずにはいられなかった少女、ではなく、夢を持てなかった少女の物語。表情の強張りが目立つ場面も多いが、同世代のアイドルと比較すれば、ファンとの成長共有にケレン味があり、遮られた過去=日常の回想、叶えた夢のカウントなど、まだ雨が届かない曇り空の下で傘を広げるような叙述に溢れたアイドルを書いている。一段と綺麗になった、垢抜けた、など美に対する話題性も高いようで、グループのイロに則している、と云えるかもしれない。
この人は、シックな気性の持ち主で、能弁ではないが、少しずつ、ゆっくりと本音が出てくる。たとえば、深夜にパジャマ姿で行われたパーティーゲーム。狼を探す、騙し合い。筋書き通りに進行するゲームの軌道を逸らそうとする、どうにかして見せ場を作ろうとする、度胸ある立ち居振る舞いを描けたのも、与えられた役割を果たそうとする意識の強さ、その本音のあらわれだろう。『自分じゃない感じ』でのボーカル演技や駅伝競走にかかわるメディア展開をみてわかるとおり、与えられた役割への徹底に関しては文句なしにみえる。ある種のタフさがある。情も厚い。しかし、それだけにもみえる。これまでに彼女が描いた物語には、みずからが自らの可能性を切り拓く、という意味における能動性に致命的な瑕疵があり、アイドルのモチーフが弱いように感じる。

「~Do my best~じゃ意味はない 編」

おれに関するかぎり、時にどう感じまた他人が何と言って聞かせようが、この孤独感こそ世の中で唯一の誠実さであり現実であり、けっして変ることがない…。おれのうしろの走者はうんと遅れているに違いない。あまりにも静かだし、霜のおりた冬の朝五時よりもまだひっそりと、物音も物の動く気配もない。…ともかくわかっていたのは、なぜ走っているのかなど考えず、ただせっせと駆けなきゃならないことだった。とにかく野を抜け、不気味な森へはいり、上り下りも知らぬうち丘を越え、落ちたが最後心臓がおだぶつになってしまう小川を飛び越えて、どんどん走らなきゃならないんだ。観衆はやんやの喝采で迎え入れてくれるだろうが…おまえは息をつく暇もなく、まだまだ先へ走らなきゃならない…。そしてほんとうに立ち止まるのは、木の幹につまずいて首の骨をへし折るか、それとも古井戸に落っこちて、永遠に暗闇の中に沈んでしまうかのときなんだ。そこでおれは考えた-たかがこんな競争なんてお笑いに、おれが縛られてたまるもんか、ただ勝ちたい一心に走るだけじゃないか、ちっちゃな青いリボンをもらうためにトコトコ駆けるだけじゃないか、奴らが何と言おうと、そんな人生ってあるものか。

アラン・シリトー / 長距離走者の孤独 (訳 河野一郎)

この「長距離走者」のモノローグがおもしろいのは、モノローグの転向を描いている点だろう。歩くことがモノローグの発見と転換ならば、走ることは、おそらく、モノローグの錯綜と転向なのだ。このモノローグの転向、つまり自己否定と自己肯定の錯綜によって走る目的そのものがめまぐるしく変化して行く光景は、アイドルを演じる少女の横顔、アイドルシーンへと引用できる。たとえば、『~Do my best~じゃ意味はない』においては、楽曲の詩情そのものが活力の転向を記している。頑張っても結果を出さなければ意味がない、というメッセージがむしろ活力になりえるのは、ようするにそこに素朴な転向が利用されているからである。頑張れ、と告げられるよりも、頑張っても結果を出さなければ意味がない、と云われたほうが、実は、人は活力を得やすい。ただ、そのような活力の転向が、作詞家・秋元康の倒錯した温情が、それを歌うアンダーメンバーに対するなにがしかの励ましになるのかといえば、それだけで納得するほど少女たちは無垢ではないようで、むしろ楽曲のタイトルから受ける印象、インパクトの前にただひしがれるだけだろう。彼女の眼前に立ち現れるのは、与えられた境遇のなかでベストを尽くしても何ら結果につながらないじゃないか、という徒労感だけである。しかもこのような話題に囚われていることの自覚、屈託が映し出すものこそ自身の作り上げるアイドルの紛れもない凡庸さであるのだから、なおのこと葛藤するわけである。
佐藤楓の場合、
帰り道は遠回りしたくなる』、『Sing Out!』と2作品連続で乃木坂46の表題曲の歌唱メンバーに選抜されるという物語、これは現在のアイドルシーンにあっては文句なしの快挙と云える。云えるが、その記録も、その後の物語の展開を目撃してしまえば、与えられた境遇のなかでただベストを尽くしただけに過ぎないと、捉えざるをえない。結果、順位闘争を前にして、彼女のモノローグは、「どんどん走らなきゃならないんだ」というところから転向を描き、「たかがこんな競争なんてお笑いに」「縛られてたまるもんか」、とややお決まりのところにおさまり、アイドルの物語が平板なものになってしまったようにみえる。

 

総合評価 54点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 12点

演劇表現 10点 バラエティ 11点

情動感染 8点

乃木坂46 活動期間 2016年~

 

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