日向坂46 正源司陽子 評判記

「君はハニーデュー 僕のお気に入り」
「それでね、デイジー、もし今後、僕たちが、別れてしまうなんてことがあったとしてもだよ、どうか、僕のことはね、僕の一ばんよかった点で、憶えておいてくれたまえね。さあ、約束してくれたまえよ、それを!たとえ別れ別れになるようなことがあってもだよ、僕のことは、僕の一ばんいいところで、考えてくれたまえ、ね!」
ディケンズ/デイヴィッド・コパフィールド(中野好夫 訳)
正源司陽子、平成19年生、日向坂46の第四期生であり、7代目センター。
日向坂46の新たな主人公として、グループのみならず、アイドルシーンそのものに風を吹き込んでいる。その「風」を一言で表せば、ノスタルジーのなかに未来を描き出す風、ということになるだろうか。
アイドルになる前も、なった後も、大衆の誰もが見て感じるものの中に、ほかのだれにも共感されないものをそなえ持ち、それを明暗二様に、純銀にきらめかせるその横顔が、この少女のもっとも強い魅力である。家族と接するのとおなじ態度を、部屋に一人でいるのと変わらぬ態度を他人にたいして無意識のうちにとってしまう脇の甘さと、そうやって素顔をさらけ出したことで、自分のまわりから大事なものが遠ざかってしまったのではないか、あわてふためき、悄気かえる、陽が落ちるのにあわせ、意気消沈していく様子は、まるでヒナギクのように純真である。
純真であることが、言語の前にあるはずがない感情をしかし言語の前にあったものとして手にすることを可能にする、またそれを歌や踊り、演技の枠を尽くして表現できる点に、正源司陽子の才能・個性がある。
その個性はたとえば、人生の時々で、出会い、別れてきた少女たち、通りすがり、ほとんどすれ違っただけの少女、打ち明け話を交わすくらい親密になった少女、実際に、恋に落ちた人、好きだけれど好きだと伝えることがどうしてもできなかった人、今ではもう、ぼんやりとしか思い描くことのできない少女たちの横顔が、不意に、「アイドル」の横顔に宿る、歌や踊り、音楽をとおして、その「アイドル」の内に秘められた魅力を発見するたびに、過去に出会った少女たちの魅力、今ではもう、考えることもなくなってしまった少女たちの美点、あるいは、若い頃の自分には気づくことができなかった少女たちの本音を目のあたりにするという、ノスタルジーの価値の逆転をファンのこころの内に引き起こす。私がアイドルに期待していたものが何だったのかを、思い出させてくれる。
総合評価 96点
アイドル史に銘記されるべき人物
(評価内訳)
ビジュアル 20点 ライブ表現 18点
演劇表現 19点 バラエティ 19点
情動感染 20点
日向坂46 活動期間 2022年~