乃木坂46 岩本蓮加 評判記

乃木坂46

(C)乃木坂46 結成10周年記念ベストアルバム

「ハーベストムーン」

岩本蓮加、平成16年生、乃木坂46の第三期生。
デビューから一貫して文句なしの成長を描いている。いや、成長を示している。このアイドルには、日常を欠落した佇まいがある。シーンの象徴にすらなった菖蒲色のスカート。その筐体の映す季節のもっとも豊穣な夜に収穫された12個の果実。そのなかでも岩本蓮加というアイドルの追熟過程はきわめて不明確である。
アイドルの覚醒を歌った『日常』において、グループアイドルにとっての覚醒に向かう”眠り顔”を見ることはできたけれど、その『日常』を演じて以降は、以前のような、夢の世界の中をフライパンの上を滑るバターみたいに愉快に走り回るアイドル・岩本蓮加の姿は、間断なく発表されるグループの作品において、一度も描かれていない。それはなぜだろうか。このひとはまるで、ファンのまったく知らない場所に暮らし、まったくあたらしい世界を経験しているような、遠い距離感をもっている。私たちファンの憶測の及ばないその見知らぬ世界で課された命題をクリアしたときだけ、こちら側に戻ってくるような、そんな物語を一貫して描いている。だから成長をしたアイドルの姿を眺めることはできるけれど、その過程を読めない。アイドルを演じる少女の密度にふれられない。どこかアイドルが遠くに感じる。
たしかに、ある日唐突に提示される、成長を果たした岩本蓮加には、グループの通史を語るなかで宿命的に損なわれてきたイロが付着していて、何度もおどろかされる。『何度目の青空か?』発表当時の生田絵梨花を彷彿とさせる勇敢で筋の通った、傘を叩く雨音のようにすみずみまではっきりと響く歌声。それはアイドルポップスという枠組みを貫こうとする胎動を伝える。屈託の逆転を描くが、どこか無感動にみえる踊り。それは緑色の「扇風機に向かって、あああ」と言った頃の齋藤飛鳥とかさなり、滑稽で有害な空想力で作られた物語へ没入せざるをえない気配をファンに自覚させる。つまり岩本蓮加の虜になったファンが描く、アイドルへ向けた憧憬とは、表題曲の歌唱メンバーへ選抜されるのかどうか、といった話題におさまらず、乃木坂46のエースとしてセンターポジションに立つ英姿である。*1
しかし、少女が、岩本蓮加が、なぜこうした憧憬をファンに描かせることが可能になったのか、どこでどうやって奇跡と遭遇しそれを手に入れたのか、その物語は一切語られていない。あくまでも、そこに提示されるのは夜に鳴くセミのような不気味な倒錯である。彼女はステージの上でグループアイドルにとってもっとも大事なものを放棄するのと引き換えに、素顔の発見が与える物語性を犠牲に、その瞬間だけ「奇跡をください」と「心の中で呟」くように精神も身体も歪め、成熟を獲得し、豊潤なアイドルを作る。スポットライトを浴びる岩本蓮加というアイドルには、当たり前の日常の欠落や青春の犠牲といった範疇では語れない喪失があり、すでに儚さが全身に降っている。”ピュアな輝きを放つ”少女と謳われながらも、背伸びをした”大人っぽさ”などではない、奇妙な爛熟をその横顔に表出させる。ライブステージの上、スポットライトの下に立つ岩本蓮加は、間違いなく豊穣な表現力を把持したトップアイドルと呼べるだろう。
しかし、その代償か、仮に今後『トキトキメキメキ』や『れんかのおうえんか』のようなフィクションを用意され、それを受け取った彼女から以前とおなじ無邪気な笑顔を提出されても、それはアイドル本人の素顔の再現とは呼べず、あくまでもフィクションのなかに描かれた、岩本蓮加をイメージした登場人物の笑顔にすぎないのではないのか、予感を拭えない。一度でも成長してしまったら、それも驚異的なスピードでアイドルとしての成熟を獲得してしまったら、もう二度と以前の”自分”には戻れない。そこにうら悲しい不安の光りを見いだすものの、だがこの喪失感こそ、おそらく、アイドルが本来魅せるべき生命感のもっとも明確な徴なのだ。今後に注目すべきアイドル、ではなく、常に”現在に”注目すべきアイドルと云える。*2

 

総合評価 55点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 13点

演劇表現 11点 バラエティ 11

情動感染 8点

乃木坂46 活動期間 2016年~

引用:*1  秋元康/扇風機
*2 秋元康/~Do my best~じゃ意味はない

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