乃木坂46 北野日奈子 評価

北野日奈子 写真集「空気の色」 (C)藤本和典

「被写界深度」

想像力がきわめて豊かであり、モノローグの巧い人物である。北野日奈子の書く文章は、そのまま現代アイドルの「バイブル」として扱うことができるだろう。伊藤万理華が映像という虚構の範囲で現代アイドルのありのままの姿を叙述したのに対し、北野日奈子は文章を用いてアイドルの日常を鮮明に描写する。「なんでもできるけど、なにもできない」という、現代アイドルが抱える浮遊感をしっかりと写実している。”空気の色”、つまり”感覚”の写生とは、考える以上にむずかしいものだ。アイドルだけではなく、作家を志す若者にも、彼女の描く「醜態」はバイブルとして機能するのではないか、とおもう。北野日奈子は純文学としての価値を具える人物と云える。

なによりも、北野日奈子は被写界深度の深いアイドルである。
彼女は、現代アイドルを囲繞する「情報」に対するクライシスとの苦闘の様子をあるがままに描写し、身体の一部を千切るようにして、それをファンに投げ捨てた。ある意味では、神門沙樹の物語によって暗示された暗闇を突き抜けた瞬間であり、そのような行為が、現代文学として、文芸の世界に身を置く者として、北野日奈子の存在理由を高い次元に押し上げたと云える。「人間とは噂の奴隷であり、しかもそれを、自分で望ましいと思う色をつけた形で信じてしまう(*1)」。この無自覚でイノセントな攻撃性の的になるアイドルの苦悩は計り知れない。自我同一性を獲得する過程にある少女たちにとって、そのような”噂”は、彼女たちが作り上げる虚構のなかの、もうひとりの自分の人格を変質させてしまうだろう。なぜなら「人は、ほかの人から、あれはこれこれの人だと思われているような人間にならずに終わることはありえない(*2)」のだから。この矛盾、倒錯によって、北野日奈子というアイドルの被写界深度が深められてしまったのである。久しぶりに観た彼女からは、ヴァルネラブルというよりは、妖艶な印象を受けた。それは、乃木坂46の歴史のなかで、前例のない特別な「美」であると覚った。

「この世の中には、代わりの見つからない人というのはまずいません。どれほどの知識や能力があったとしても、そのあとがまはだいたいどこかにいるものです。もし世界が代わりの見つからない人で満ちていたとしたら、私たちはとても困ったことになってしまうでしょう。もちろん、あなたみたいな人の代わりはちょっとみつからないだろうけど」

(村上春樹「1Q84」)

”もちろん”、北野日奈子が身に纏った、あたらしい美=物語も、”代わりはちょっとみつからない”アイドルを作り上げ、我々の手元に舞い降りてくれるだろう。

 

総合評価 72点

アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物

(評価内訳)

ビジュアル 14点 ライブ表現 13点

演劇表現 14点 バラエティ 15点

情動感染 15点

 乃木坂46 活動期間 2013年~

引用:(*1) 塩野七生「ローマ人の物語Ⅴ」
(*2)ガルシア・マルケス「わが悲しき娼婦たちの思い出」

評価更新履歴
2018/10/27 大幅にリライトしました

評価点数の見方