乃木坂46 理想の「選抜」を考える 30thシングル版

ブログ, 乃木坂46

賀喜遥香(C)音楽ナタリー/菊地泰久

「現状考え得るもっとも理想の『選抜』」

春風が吹き、桜が散りはじめた。29thシングル『Actually…』のプロモーション活動も一段落したようで、5期生登場に向けたファンの動揺、狼狽も徐々に鎮まりつつある。
29枚目シングルの表題作・センターに立ったのは5期生の中西アルノだから、前回の選抜発表前に記した私の理想は打ち砕かれてしまった、ということになる。生駒里奈西野七瀬以降、センターに連続で選ばれるメンバー=圧倒的主人公が一人も現れないという現状にあって、賀喜遥香にその希望を見出したのだが、叶わなかった。だが、現実に並べられたその歌唱メンバー、選抜構成を眺めるに、そこまで悪くもないな、とおもった。役名:平手友梨奈 主演:中西アルノ、というその構成をして、作り手の私情の暴走であるところに、尽きない興趣があった。なによりも、18人、という点に好感を誘われる。アイドルの価値=グループの価値を上げたいと考えるならば、当然、それは「選抜」の価値を上げなければならない。「選抜」の価値を上げようと企むならば、これもまた当然、至極単純だが、そのイスは少なくあるべきだろう。
人は、価値があるからこそ、それを欲しいと渇望するのであって、価値のないものは、与えられてもそれほど嬉しくはない。その際には、やはり「数」というのは重要な要素になるだろう。新人の抜擢によって「選抜」の価値、「センター」の価値が損なわれることはほとんどないが、その抜擢の際に、ファンやアイドルに配慮して枠を増やすような安易な行為は価値を著しく損なう。

ファンの各々が「選抜」を編む。これはグループアイドルを応援するファンが抱きしめる理想、それがもっとも純粋に現れる瞬間と言うべきだろうか。現実から遠く離れた妄想であればあるほど、その理想の純度は高くなる。商売である以上は銭金の勘定をしなくてはならない作り手連中とは異なり、ファンは各々の理想を自由にいつでも堂々と掲げることができるし、それはおそらく作り手が断念したであろうアーティスティックな志向に応答する可能性をも持つのではないか。
とはいえ、『Actually…』において、理想が邪魔をして真実を見失う、とうたわれてしまったのだが……、枯渇せずに、今回も、前回同様に現在私が考え導き出した乃木坂46の「選抜」=理想を記そうとおもう。
前回は駆け足になってしまったが、今回は各メンバーへの短い批評、選考理由も付した。「アイドルの値打ち」にアップする批評、アイドル個人のページに記した批評はひとつの作品=フィクションであるから、加筆する場面こそあれど、基本的には、文章を作ったその時点から評価は動かない。よって、ここに記す評価が、筆者から眺めた各メンバーの、最新の評価、となる。


秋元真夏
1期であり、かつ、キャプテンだが、歌や踊り、ではなく、アイドルとしてのパフォーマンスそのものがすでに「選抜」の水準からすべり落ちてしまったように見える。なによりも、デビュー当時に見せた行動力、富んだ機智が失われてしまった。

伊藤理々杏
「選抜」の基準に満たない。

岩本蓮加
考慮に値しない。

梅澤美波
副キャプテンだが、存在感イマイチ。

遠藤さくら
自己の作る演技に刺激され自己の魅力を知っていくという、自由度、柔軟性の高さが徐々に失われつつあるようだが、そうであったとしてもなお、演技、ライブパフォーマンス、共に現在のシーンにあってトップクラス。

賀喜遥香
乃木坂46の、というよりも、現在のアイドルシーンにおける、もっとも強い主人公。

掛橋沙耶香
意図的に抑えられたテンションが見せつけるアイドルの素顔には、計り知れない魅力が宿っている。

金川紗耶
アイドルとしての野蛮さが萎え、ダンスのひと、になりつつある。

北川悠理
デビュー以来、常に、奇抜なひと、といったイメージを打ち出すものの、換言すれば、デビューから今日まで、同じ色の空の下をぐるぐると旋回しているだけ、とも捉えられる。ただ最近は、夢を具体的に語る勇敢さを発揮しつつあるようで、抜け目ない、隙きのないひとに見える。

久保史緒里
「選抜」から外す理由がひとつも見当たらない。大きな期待感と偏愛を寄せられてもなお、道を歪められることなく、成長しつづける稀有なアイドル。

黒見明香
存在感に乏しいものの、個性はしっかりと持っているし、それを自身のファンに噛みしめさせてもいる。「選抜」に遠く及ばない、といったイメージはない。

齋藤飛鳥
踊ることでアイドルの表情に「高貴」が宿る、この一点のみにおいても欠くことの許されない存在。

阪口珠美
流行りの文辞を用いてアイドルを表現するところなどは、若者のうつし鏡としてのアイドル、という存在の理由を満たしているかにおもう。だが、如何せん「選抜」のイスが足りない。

佐藤楓
いまのところ、引きつけられるものがない。

佐藤璃果
理想の一人に数えるべきか、もっとも迷ったメンバー。凛々しさ、瑞々しさ、どちらも持っており、それがダンスに活かされている。今後に注目。

柴田柚菜
アイドル本人の行動力によってファンのこころの深い部分を掴みつつある。とはいえ、それはまだまだコップの中の嵐に感じる。

鈴木絢音
グループの移動力に対し右顧左眄しない強さを有した、独特な存在。

清宮レイ
活力の横溢のあり方が淡泊にすぎるのか、アイドルの物語が退屈になってきた。

田村真佑
ビジュアル、演劇表現力、ライブパフォーマンス、多様性、情動、すべて文句なし。

筒井あやめ
菖蒲色をした「希望」の旗、その旗手。

中村麗乃
齋藤飛鳥、遠藤さくらと並ぶ、アーティスティックな志向に応答し得る数少ないメンバー。

早川聖来
人気、実力、才能、文句の付けどころがないが、アイドルとして売れるためだけに自身の才能を消費しているように見えなくもない。であれば、当然、アイドルを演じる少女自身の成長は期待できない。アイドルとして売れなければ夢は叶わない、というきわめて強い現実認識によって、アイドル本来の魅力が消却されているようにおもう。

林瑠奈
今もっとも旬なアイドル。絶対に語れない本心を抱えつつ、その本心とはべつのところにある本音・素顔をファンに教えようとする、苦闘の様子には興趣をかきたてられる。

樋口日奈
「選抜」の基準に満たない。

松尾美佑
存在感はそれなりにあるのだけれど、どこかグループの動向に対し門外漢を振る舞っているようにうかがえる。

向井葉月
あたらしい自分の魅力をファンに伝えようと、変わろうと決意した、注目に値するメンバーだが、今回は「理想」に洩れた。

矢久保美緒
考慮に値しない。

山崎伶奈
アイドルの周波数がひとり異なってみえる。

山下美月
今になって、アイドルである実感が未だに持てない、とインタビューで語るなど、常に転向への暗示に満ちた、スリリングなメンバー。

弓木奈於
感応力の鋭さ、IQの高さから、その存在感は抜群だが、私の考える理想には一歩届かなかった。

吉田綾乃クリスティー
自身で自身の目的を狩りとっていくような、ヌエ的なイメージを持つにはもつが、それをアイドルとしての魅力と捉え切るにはなかなかの想像力が必要。

与田祐希
最近では、『逃げ水』の詩的世界を下敷きにしてアイドルをスケッチしており、とくに『空気感』の主人公から眺めた「君」と強く響き合っているようにおもう。アイドルに並ではない魅力が出てきた。しかし彼女もまた理想に一歩届かなかった。

和田まあや
「和田まあや」でなければ表現できないもの、がたしかにグループの内に出てきたかにおもわれる。だがそうした憧憬は表題作に限定されるものではないだろう。

5期生
井上和、一ノ瀬美空、菅原咲月、冨里奈央、中西アルノの5名に関しては、可能性の面においてすでに並外れた存在感を示しているようにおもう。外す理由が見当たらなかった。とくに井上和、中西アルノ、菅原咲月の3名はグループの顔にすべき逸材。池田瑛紗、岡本姫奈、川﨑桜の3名については、そもそも語るべき情報を持っていないため、選考から除外した。

よって、私が考える理想の「選抜」は以下のようになった。前回から引き続き、30thシングルのセンターには賀喜遥香を選んだ。

(C)乃木坂46公式サイト

3列目:冨里奈央、林瑠奈、田村真佑、掛橋沙耶香、一ノ瀬美空、鈴木絢音、中村麗乃
2列目:久保史緒里、井上和、齋藤飛鳥、中西アルノ、山下美月、菅原咲月
1列目:筒井あやめ、賀喜遥香、遠藤さくら


2022/04/12  楠木かなえ