ダンスが上手い現役アイドル ランキング・ベスト16

特集

齋藤飛鳥 写真中央(C)スポニチアネックス

「ダンスが上手いアイドル 16選」

これまでに、約270人のグループアイドルと約250曲のアイドルソングの批評を編んできた。AKBグループ、坂道シリーズのすべてのアイドルを物語ることが、当サイトの目的である。とはいえ、最近は、過去に作った批評の大幅な見直しをはかり、加筆に力を入れていて、あたらしいアイドルの記事をまったく書いていない。そうした時間のなかで、演技が上手いアイドル、とか、ビジュアルの良いアイドル、とか、ダンスが上手いアイドル、とか、あらためてリストアップしていくなかで、メモ帳を眺めながら、このメモを役立ててそのまま一つの記事にしてしまえばいいのではないか、不意に思いついた。

今回は、タイトル通り、私が考える「ダンスが上手い現役アイドル」をAKBグループ、坂道シリーズの垣根を越え、16人選び出し、順位を付けた。ドラマだったり、映画だったり、舞台だったり、バラエティ番組だったり、グループアイドルに求められる多様性、これは絶対に無視できないけれど、それでもやはり、アイドルがもっとも存在感を放ち強く輝くのは、ステージの上を舞うその瞬間であるのは間違いない。アイドルが見せつける日常の香気、その魅力のすべてが帰結する場所、それがライブステージなのだ。もし貴方がアイドルの物語を読もうと試みるならば、ステージの上で踊る彼女の横顔を眺めればいい。アイドルとしての存在感、魅力、輝き、才能…、ステージの上でこれらを誤魔化せるアイドルなど一人もいないのだから。

「評価基準について」

ある作品に順位を付けたり、点数を付す際には、無私の立場を取るにしても、私情を強く打ち出すにしても、いずれにせよ、基準線を明確に引かなければならない。そこでまず、私がアイドルのダンスを眺め批評を作る際には、必ずしも技巧だけを評価しているわけではない、という点を付言しておきたい。あるいは、この「ダンスが上手い」は、ライブ表現力が高い、に換言すべきかもしれないが、「ライブ表現力」と書いてしまうとそこには当然「歌唱」が含まれてしまうため、ダンスが上手い、とした。
さて、今回、ダンスが上手いアイドルを選出するにあたってもっとも重要視した点だが、それを一言で表せば、作詞家・秋元康が編み上げる詩的世界との通い合い、となるだろうか。作詞家・秋元康の記す詩情を前にして、それになりきってみたり、反抗してみたり、自己をかさね自己を語ろうとしてみたり、歌詞に自分のことが描かれているのではないかと妄想したり、とにかくこれだけは絶対に表現したいと心に誓っているような、絶対に他者には譲れないもの、をステージの上で表現できているかどうか、その踊りを眺め、まず心が動いたのかどうか、この点をもっとも重視した。つまりは、踊りを褒めることが、結果としてそのアイドルの物語を辿ることになる、アイドルの横顔を描写することになる、という点を意識した。
アイドルの踊りを眺め、それがどれだけ素晴らしいものなのか、言葉を駆使し、あと付けすることは容易だけれど、ほんとうに肝要なことは、それを眺め、まず良いと思ったのか、心が揺さぶられたのか、ではないか。理由を作り評価する、ではなく、良いと思ったからその理由を探る、という視点を強く持つ以上、どれだけ高いテクニックを有していてもステージの上では映えないアイドル、つまり存在感の弱いアイドル、これは当然、一顧だを与えず、アイドルの多くの同業者、アイドルの多くのファンの前評判に対し、均整を崩した。


ダンスが上手い現役アイドル 16
地頭江音々

地頭江音々(C)地頭江音々Instagram公式アカウント

地頭江音々、HKT48の第4期生。
芝居を通して音楽をつくろうとするような、身振り手振り、と言うよりも、表情の大げさなダンスを編む。作詞家・秋元康の作る世界観への交流・参加意欲が高いように見える。そうした意欲がグループに所属するアイドルをあらためてガイドした『3-2』において一気に壺にハマった感がある。アイドルの佇まいが、乃木坂46欅坂46(櫻坂46)を主流とするシーンのトレンドと合致しており、”トップアイドル”への入り口に立った感がある。


ダンスが上手い現役アイドル 15
筒井あやめ

筒井あやめ(C)モデルプレス

筒井あやめ、乃木坂46の第4期生。
日常の中でどうしても拾うことができなかったアイドルの素顔が、ステージの上であっさりと発見されるという、「アイドル」の正統を継ぐ人物。ステージ上では、音楽のなかでは、喜怒哀楽の結構したアイドルであり、なおかつ、そうした表現力の下にしっかりとしたダンス技術、アイドルとしての矜持が敷かれているところに驚かされる。『僕の衝動』をセンターに立ち演じた際には、日常から遠く離れたアイドルの表情を前に、グループの多くのファンが魅了された。


ダンスが上手い現役アイドル 14
川越紗彩

川越紗彩(C)日刊スポーツ

川越紗彩、NGT48の第2期生。
ステージ映え、この一点においては乃木坂46の齋藤飛鳥とならび、他の追随を許さないアイドルに見える。舞台に立つと、より美しく、より強く、より儚く見える。与えられた楽曲を演じるアイドルのその横顔には確かなモチーフがあり、たとえば『後悔ばっかり』を踊る彼女の表情・仕草を眺めれば、音楽とアイドルが互いに引き立て合っていることに気がつく。グループアイドルとしての人気・知名度の低さを置き去りにするように、スポットライトに照らされた川越紗彩には悪風を断ち切るだけの魅力が宿っているようにおもう。


ダンスが上手い現役アイドル 13
小坂菜緒

小坂菜緒(C)クランクイン!

小坂菜緒、日向坂46の第2期生。
ダンステクニックの拙さ、アイドルを演じる少女の弱さ、屈託、行き詰まりのすべてがステージ上でつくる踊りに集約されアイドルの強さ=成長の物語になるという、今日のアイドルの有り様、威光を簡明に教える、シーンを代表する存在。彼女が蒼の衣装をまとって踊る『青春の馬』を眺め、抑えきれず抱く興奮があるならば、それはそのままアイドル・小坂菜緒のイメージに連なる、と云えるだろう。


ダンスが上手い現役アイドル 12
林美澪

林美澪 写真中央(C)J CASTニュース

林美澪、SKE48の第10期生。
桑原みずき松井珠理奈等SKE48の立ち上げメンバーを筆頭にして育まれたグループの特質を正面から引き受けつつ、その枠を自ら壊そうとするような衝動性の高い踊りを編み上げる。ノスタルジーのなかに未来を見出す、という意味で、作詞家・秋元康の憧憬と響き合っている。テクニックも文句無しで、大衆的イメージを借りるならば、スーパーアイドル、と形容できる人物。乃木坂46の相対として映されるべき数少ない存在。


ダンスが上手い現役アイドル 11
藤吉夏鈴

藤吉夏鈴(C)MTV JAPAN

藤吉夏鈴、櫻坂46の第2期生。
思弁の内に宿したポエジーを「ダンス」として演じ表現する。このひとの踊りはあくまでも「演技」である。「ダンス」を「演技」の中に埋もらせてしまうそのアイドルの有り様もまた、今日のアイドルシーンの主流、いや、イコンと云えるだろうか。であれば、ダンスでは表現できなかったもの、を探るしかないのだが、『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』で描いた笑顔=カタルシスにその回答があるようにおもう。


ダンスが上手い現役アイドル 10
柏木由紀

柏木由紀(C)オリコンニュース

柏木由紀、AKB48の第3期生。
グループアイドルとしてのストーリー展開、その唖然とさせられる冗長さに転じて持つヌエ的イメージが、たとえば夢の泡沫にまぶされた、芸能界における絢爛をちりばめた妖美さとなって「踊り」に現れている。彼女がこれだけ長くシーンの第一線に立てるのも、要は「ダンス」が飛び抜けて上手いからだろう。「ダンス」が上手ければ、やはりそのアイドルは売れるのだ。


ダンスが上手い現役アイドル 9
斉藤真木子

斉藤真木子(C)オリコンニュース

斉藤真木子、SKE48の第2期生。
ダンスの技巧に注目されがちだが、特筆すべきなのは、ダンス技術の高さ、その確かな足取りによって、アイドルの物語を、ステージ上で踊るアイドルの動きを眺めることで辿れる点だろう。しかも斉藤真木子のダンスは、その軸のしっかりとしたアイドルの踊りを眺めることがアイドル個人の物語・性格を読むことになると同時にSKE48というアイドルグループの理解につながるという、ひとつの境地に達しており、そのリアリティの濃さに動揺させられる。


ダンスが上手い現役アイドル 8
今村美月

今村美月(C)ミュージックヴォイス

今村美月、STU48の第1期生。
私の知己によれば、門脇実優菜無き今、アイドルシーンにおける”ダンスの上手”とは、今村美月にほかならない、と言う。たしかに、ファンを悲憤慷慨させ続けるグループの動向、ストーリー展開にあって、ステージの上からファンに自身のエネルギーを投げ与えようとするそのアイドルとしての姿勢、熱誠を目の当たりにすれば、説得力があるかもしれない。このひとの踊りは、身体のしなやかさを鷹揚さにして映し出すような、アイドルを大きく美しく見せるような、技巧と活力に満ちている。


ダンスが上手い現役アイドル 7
遠藤さくら

遠藤さくら(C)actresspress

遠藤さくら、乃木坂46の第4期生。
このひとの踊りもまた、演技、である。まず「役」があり、ステージの上でそれを演じることがイコール踊りになる。『ごめんねFingers crossed』におけるライブ表現、アイドルの表情のすべてが、同作品のミュージックビデオのなかで描いた登場人物の表情と一致するのは、踊りをつくる行為とは自分ではない何者かを演じることにほかならないというソフィスティケートされた意識の狭さを有するからである。なによりもおもしろいのは、そうした「演技」を通して、自身の日常生活のなかで埋没し忘れ去ったものを「役」の内に見出し拾い上げていく興奮を、アイドルの魅力に変えてファンに伝えている点である。


ダンスが上手い現役アイドル 6
森田ひかる

森田ひかる(C)オリコンニュース

森田ひかる、櫻坂46の第2期生。
主人公が不在した物語の主人公を演じるという倒錯にアイドルとしてのレゾンデートルの大部分を占められているようで、当然、そうした有り様は「ダンス」にもよく現れている。アイドルグループの立ち上げメンバーではないメンバー、つまり次世代と呼ばれるアイドルのなかでは群を抜く存在感=表現力の持ち主で、とくに、踊りの内に一度ひそめた高揚感の発露の仕方には舌を巻くものがある。『BAN』で見せる笑顔には、言葉通り、不意打ちを喰らう。坂道シリーズにあっては、技巧と表現力、言い換えれば、ダンスとビジュアルを高い次元で拮抗させる、稀有な存在。


ダンスが上手い現役アイドル 5
石田千穂

石田千穂(C)オリコンニュース

石田千穂、STU48の第1期生。
巧みである。巧妙、と云うべきか。どれだけ幼稚で粗雑な楽曲・振り付けであっても、このひとが踊れば、様になる。意識の冴え渡った、ナルシシズムに満ちたアイドルで、身体の隅々、表情の端々に注意を打ち込んでいる。もちろんそうした「注意」を可能にするのは、経験と体験に裏打ちされた技術を持つからだろう。ライブステージを演劇の舞台にすり替える、シーンの移動力に対し、このひとの場合、ミュージックビデオで演じ踊った経験を、次のステージに活かすという純度の高いアイドル作りを貫いている。『独り言で語るくらいなら』におけるダンスと演技の入り混じった表現行為へのチャレンジが、『花は誰のもの?』で活かされ、楽曲のクオリティを底上げしている。


ダンスが上手い現役アイドル 4
清司麗菜

清司麗菜(C)モデルプレス

清司麗菜、NGT48の第1期生。
ステージに立つと、アイドルの表情が一変する。『絶望の後で』のライブパフォーマンスにおいて、あの「絶望」をスポットライトの下でもう一度自身の胸の内に手繰り寄せようとするその表情、そのたったひとつのシーンに限れば、これまでに披露された数々のグループアイドルの表現のなかで間違いなく白眉と云えるだろう。自己を表現するために音楽があるのか、楽曲を表現するためにアイドルがあるのか、という問いと、音楽を通してアイドルがどのように育まれるのか、という関心にこたえ得るアイドルであり、まずアイドルがあり次に音楽がある、という凝り固まった状況に一石を投じているかに見える。


ダンスが上手い現役アイドル 3
齋藤飛鳥

齋藤飛鳥(C)モデルプレス

齋藤飛鳥、乃木坂46の第1期生。
ダンステクニック、演技力のふたつを最高水準に一致させたその踊りは「グループアイドル」の最高傑作と云えるだろう。踊ることで、音楽に身を委ねることで、これだけ高貴に見えるアイドルは、ほかに知らない。『命は美しい』で表題作の「選抜」に復帰してから『Sing Out!』を演じグループの真のエースになるまで、乃木坂46の飛翔を、踊ることによって支え続けてきたスピンオフ=外伝的主人公であり、どの作品を眺めても、どのステージを眺めても、一定の水準を軽く超えた踊りを編んでいる。乃木坂は踊れない、といったファンチャントをよく耳にするが、乃木坂46の齋藤飛鳥より踊れるアイドルは、数えるほどしかいない。


ダンスが上手い現役アイドル 2
本間日陽

(C)本間日陽インスタグラム公式アカウント

本間日陽、NGT48の第1期生。
『絶望の後で』という、おそらくは作詞家・秋元康にもっとも緊張感を強いた作品のセンターに立ち、かつ、それを「絶望」の内側と外側の両方に与つつ表現した。その踊りの内には、詩作という超越的立場を取り「絶望」を語る作詞家の私情に向けた、アイドルを演じる少女の個人的解釈を見出すことが可能である。夢の中に現実があるのか、現実の中に夢があるのか、問いかけ詠う作詞家・秋元康の代弁者として踊りながらも、その詩情に流されることに逆らおうとしているかに見えるアイドルの眼差し、表情には尽きない興趣がある。


ダンスが上手い現役アイドル 1
村山彩希

村山彩希(C)オリコンニュース

村山彩希、AKB48の第13期生。
踊ることに拘り、そのとおりに、踊ることによってアイドルを物語ろうとする、いや、物語ることを可能とする、冠絶した実力の持ち主。浩瀚(こうかん)されたアイドルの日常に「アイドル」の魅力の大部分がある、と呼号するシーンにあって、このひとは踊ることに頼って、一行一行、アイドルの物語を書き足し、道を切り開いてきた。作詞家・秋元康の編む音楽を自身の可能性として語り直すようなそのダンスは、ダイナミックであり繊細である、と表現するほかにない。乃木坂46のブレイクを前に、唐突に「踊り」にアイドルのアイデンティティ、活路を見出し、ダンスに傾倒した作品づくりに励み自ら衰弱していく現在のAKB48を眺め、落胆し、恥知らずだ、と嘲笑ってしまうのは、かつてフレームアップされた村山彩希の存在感を前にそのすべてが付け焼き刃にしか見えないためだろう。ゆえに、村山の踊り、存在感には、才能を持たない平凡なアイドルに「アイドル」であることを諦めさせる厳しさ、淘汰がある、と云えるかもしれない。


2022/07/08 楠木かなえ
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