HKT48 3-2 評判記

「知り合うのが少しだけ遅かっただけだ」
楽曲、ミュージックビデオについて、
かつてアイドルに向けた情熱を懐かしく思うのではなく、果たしてそれが本当に実りある時間だったのか、疑念を差し挟むべきなのではないか、といった思考経験にグループのファンを遭遇させる、過去と未来との間を旋回し疾走を描く楽曲に仕上がっている。もちろん、「意志」をまえにして過去との連なりを想起させる仕掛けや、タイトルを道標にして”残されたもの”といった構図を描出させようとする狙いには安易なところがあるようにも感じる。だが楽曲の上でリボンとこころを揺らすアイドルの表情は作り手の期待に反し清々しくみえる。すくなくとも、楽曲を演じる16人の少女の物語にほとんど興味を抱かない人間になにがしかの批評を作らせる原動力のようなものは宿している、と云えそうだ。
存在感ではやはり田中美久がずば抜けているようにみえる。日常の稚気を描くためのライバルの不在を、寂寥として映すのではなく、そういった情況を材料にして、なにか温度のつめたさのようなものを映し、それがアイドルのうつくしさに変換されてしまうのだから、並ではない。なかなか言語化するのにむずかしい表情を持っている。
新しくセンターポジションに立った運上弘菜、彼女の場合、多様性を欠如し、現状を打破するような力量を投げつけないものの、アイドルの成長や系譜の誕生といった話題の上に立つ楽曲に鑑みれば、楽曲の命題をクリアし、壺にはまったように思う。
もっとも心を惹かれたのが地頭江音々の演劇だ。彼女の演技はひどく芝居じみている。芝居じみているがゆえに、アイドルを演じる少女が「演劇」の扉をひらいた瞬間を目撃したと確信できる。私が知る限りでは、演劇の才を持った人間のはじめての演技とは、往々にして、彼女のように芝居じみている。文句なしに、今後に期待する若手アイドルと云える。
つまり、このようにアイドル一人ひとりの「様子」を眺めていると、「3-2」が次の時代を生き抜こうと闘う少女たちのガイドの役割を担う構成に成功している事実に気づき、なるほど、とうなずくことになる。
歌詞について、
とにかく移動しない「僕」、この図式は相変わらずで、しかも今作ではあれこれ引いたり割ったりした挙げ句、過去をまえに感傷に浸りさえしており、とにかくうんざりするものの、おもしろいのは、僕の存在は「三角」を解消するためではなく、「三角」を作るために置かれており、結果的に「僕」が対象に向けて能動的に移動している、という点だろう。このような観点からも、けして目新しくないアイドルグループに所属する、次の時代を担う少女たちをガイドする楽曲と眺めた際に、疵のない構成を遂げている、と評価できる。
総合評価 67点
再聴に値する作品
(評価内訳)
楽曲 13点 歌詞 14点
ボーカル 13点 ライブ・映像 14点
情動感染 13点
歌唱メンバー:運上弘菜、上島楓、神志那結衣、田島芽瑠、田中美久、地頭江音々、豊永阿紀、松岡菜摘、松岡はな、松本日向、水上凜巳花、村重杏奈、本村碧唯、森保まどか、山下エミリー、渡部愛加里
作詞:秋元康 作曲:杉山勝彦 編曲:杉山勝彦、谷地学