NGT48 太野彩香 評判記

NGT48

太野彩香(C)日刊スポーツ

「大衆に裁かれる」

太野彩香、平成9年生、NGT48の第一期生。
『山口真帆 暴行被害事件』を機に大衆感情のなかでトラジック・ヒロインとなった山口真帆と対をなす存在として、常に名前を挙げられたメンバーである。事件を境目にして「アイドル」のテーマが「成長」ではなく「自己回復」になった、令和のアイドルシーンにおいて最もネガティブな情報に囲繞された登場人物だと、換言すべきかもしれない。大衆に活力を付す、という命題の上を歩くであろうアイドルが、ほかでもないその大衆自身から、アイドルを卒業するその日まで、石を投げつけられ、裁かれた。
グループアイドルとしてのキャリアならば、文句の付けどころがない。現役の5年間、参加したすべてのシングルで表題作の歌唱メンバーに選ばれている。デビューから卒業まで「選抜」のイスに座す者は、数えるほどしかいない。シーン全体を見渡しても、上位5%に入るのではないか。非凡な何かを備えもつ、ということだ。
太野の非凡さを言葉に表わすならば、それは、ファンとアイドルの距離感の曖昧さ、となるだろうか。太野は、結果的にふたつの意味で、ファンとの距離感を曖昧にしている。ひとつは、前述したとおり、アイドル=偶像でありながら現実的な憎悪をファンから買ってしまった、という点。
ふたつめは――これはひとつめの動機を裏付けるものにもなるが――グループアイドルにおける序列闘争、順位闘争を勝ち抜くための手段として、アイドルとファンのあいだに引かれるべき境界線を自らの意志で不分明にした点に尽きる。その行動は、あくまでもアイドルとしての人気を勝ち取るための行動であり、そこに太野の素顔などひとつも描き出されていない。この点をまず見落としてはならないが、太野のストーリーに価値を見出すとすれば、アイドルという常識の通用しない世界で、しかし清廉潔白であることを強く過剰に求められてしまう倒錯した状況に置かれることで、やがて行動選択を致命的に誤ってしまう、いや、ほとんど宿命的に道を外してしまう凡庸な少女たちの嘆きを、より具体的なかたちをもって体現した、という帰結の点になるだろう。

「わたしは……わたしが言いたいのは……あなただったら何をしましたか?」
それはハンナの側からの真剣な問いだった。彼女はほかに何をすべきだったのか、何ができたのか、わからなかった。そして、何もかも知っているように見える裁判長に、彼だったらどうしたのかと尋ねたのだった。…
彼は答えなければならなかった。その質問を無視したり、非難するようなコメントや拒絶的な反問でやり過ごすわけにはいかなかった。…
「この世には、関わり合いになってはいけない事柄があり、命の危険がない限り、遠ざけておくべき事柄もあるのです」
ハンナと自分自身を引き合いに出しながらそう言ったのなら、その発言で充分だっただろう。しかし、何をすべきだとかしてはいけないとか、どんな危険が伴うかなどで言を弄することは、ハンナの質問の真剣さに対して不当だった。自分のおかれた状況の中で何をすればよかったのかをハンナは知りたかったのであって、してはいけないことがあるなんてことではなかった。

B・シュリンク/朗読者(松永美穂 訳)

 

総合評価 56点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 10点

演劇表現 10点 バラエティ 10点

情動感染 14点

NGT48 活動期間 2015年~2020年