NGT48 太野彩香 評価

NGT48

太野彩香(C)日刊スポーツ

「何も持ってない掌開いてみせろ」

太野彩香、平成9年生、NGT48の第一期生。
18歳でアイドルの扉をひらく。23歳で次の夢のために卒業を決心する。アイドルとして過ごした時間は5年。その間に発表したすべての表題曲の歌唱メンバーに選抜されており、物語の長さ、質、ともに文句のつけどころがない。『山口真帆暴行被害事件』を機に、物語の中盤から終盤にかけアイドルのテーマが「成長」ではなく「自己回復」になった点もグループのアイデンティティを象徴しており、比類のない、特別な存在感を投げつける。おそらく、太野は令和のアイドルシーンにおいて、もっともネガティブな情報に囲繞されたアイドルであり、日常を演じることのむずかしさ、厄介さ、その屈託を考えるうえでも貴重な登場人物に映る。また、常識が通用しない場所で、しかし常識をつよく求められるといった倒錯した状況に置かれつつある少女たちが、今後どのように生きるべきか、どのようにアイドルを演じるべきか、という問いに太野の物語は直面させる。

太野のアイドルとしての特徴あるいは瑕疵を問うならば、やはり、素顔に対する徹底した防衛力にあるだろう。彼女は、自分のなかでもっともかけがえのないものをけして他者には提示しない、いや、どうしたって提示できないタイプの女性にみえる。
太野が、もしくは、NGT48が宿命的に描いたファンとの距離感の喪失とは、一見するとこれはファンとの親密性の濃さ、換言すれば、素顔の提出と捉えられる。しかしそれは致命的な誤りだろう。
ファンとの距離感が壊れ、アイドルとファンの境界線が曖昧になる。これは素顔の交換などではなく、アイドルを演じる少女からすれば素顔の隠蔽にほかならない。ファンとの境界線の曖昧化は、人気を獲得するために準備される手法のなかでもっとも有効性の高い、即効性のある策であり、ともすれば、今日のシーンにおいてもっともアイドルらしい振る舞いと呼べるかもしれない。彼女たちは、SF映画に出てくるサイボーグのように徹底的にアイドルを演じているわけだから。熾烈な順位闘争の場におかれた少女が、あたえられた境遇を生き抜くために準備した戦略のなかに、素顔が入り込む余地など、すでにのこされていないのだ。つまり、アイドルとファンのあいだに引かれた線を曖昧にする少女とは、実はもっともファンから遠ざかった存在と云えるだろう。

このようなアイドルの作り方に向けそれに値打ちをつけるとするならば、結局、「凡庸」とするしかないのもまた事実である。人気を獲得するための奔走が、ファンとの距離感の喪失であった、というのは、要は正攻法ではライバルに勝てないという自白でしかない。つまり凡庸と評するほかない。また、これは説明するまでもないが、ファンとの距離感が壊れ、アイドルとファンの境界線が曖昧になることと、アイドルを演じる少女が日常と非日常の境界線を不分明にし、自身の素顔をさらけ出す行為とでは、まったく意味が異なる。太野彩香が前者に与するならば、後者に与するのが西野七瀬であり、生田絵梨花と云えるだろう。
人気を獲得するためにアイドルとしてのプライドを捨て、ファンとの距離感を曖昧にし、常に素顔を隠蔽する太野の嘘とは、日常生活者にとっての嘘となんら変わりがない。そのウソは、アイドルを演じる少女の素顔=真実を伝えるために用意されたウソではない。つまり、なんらかの幻想を映し出す、フィクションを作る、という意味でのウソではなく、単に自分の素顔を、大切に抱きしめているほんとうの傷みを、真実を守るためのウソでしかない。そのような傷みを観客の眼前にさらけ出してしまえる、ある種の大胆さを把持するアイドルこそ「豊穣」であり、そこにのりこえることのできない障壁を見出してしまう人物は、やはり凡庸とするしかない。
もちろん、荻野由佳のようにあらゆる絶望の前に徹底して沈黙する物語も「豊穣」と呼べるが、太野の場合、そのような解釈に鑑賞者が到達するよりも早くアイドルの世界に別れを告げているため、荻野に対し抱いたような複雑な感興は降ってこない。
問題なのは、アイドルを演じるほとんどの少女が、才能によって突き動かされるまえに、安易な戦略に走り、自滅してしまうことだろう。未熟な彼女たちにとって、眼の前に置かれる選択肢はあまりにも少ない。そしてだれも、そこには置かれていない、正しい道を教えてくれはしない。かつて、高橋みなみが、「(自分のまわりに立つ)大人にめぐまれた」といった趣旨の発言をしたことがあるが、それも現在のシーンにあっては皮肉にしかきこえない。”じゃあ、あのとき、わたしはどうすればよかったのですか?”、”あなただったらどうしましたか?”という切迫した問いかけに答えきれる大人が現在のシーンにはひとりも居ないのだから。

「わたしは……わたしが言いたいのは……あなただったら何をしましたか?」
それはハンナの側からの真剣な問いだった。彼女はほかに何をすべきだったのか、何ができたのか、わからなかった。そして、何もかも知っているように見える裁判長に、彼だったらどうしたのかと尋ねたのだった。…
彼は答えなければならなかった。その質問を無視したり、非難するようなコメントや拒絶的な反問でやり過ごすわけにはいかなかった。…
「この世には、関わり合いになってはいけない事柄があり、命の危険がない限り、遠ざけておくべき事柄もあるのです」
ハンナと自分自身を引き合いに出しながらそう言ったのなら、その発言で充分だっただろう。しかし、何をすべきだとかしてはいけないとか、どんな危険が伴うかなどで言を弄することは、ハンナの質問の真剣さに対して不当だった。自分のおかれた状況の中で何をすればよかったのかをハンナは知りたかったのであって、してはいけないことがあるなんてことではなかった。

B・シュリンク/朗読者(松永美穂 訳)

 

総合評価 54点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 10点 ライブ表現 10点

演劇表現 10点 バラエティ 10点

情動感染 14点

NGT48 活動期間 2015年~2020年

引用:見出し、秋元康/絶望の後で

 

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