STU48 門田桃奈 評判記

STU48

門田桃奈(C)STU48公式サイト

「毒にも薬にもならぬ」

門田桃奈、平成11年生、STU48の第一期生。
アイドルとして活動した期間は約2年。語るには十分の長さをもつが、いまいち存在感に欠ける。収集した細部の情報と、断片的な記憶をつなぎあわせた際に、それがフィクションへと転化するような、幻想的希求に乏しい。おそらくこの点が、門田桃奈というアイドルのウィークポイントになるのだろう。
公開オーディション当時、5番手の人気だった。グループ初のオリジナル楽曲であり、山と海に囲まれた土地の魅力を少女特有の初々しさのなかで歌った『瀬戸内の声』において見事に歌唱メンバーに選ばれている。
しかしその後のグループのストーリー展開を眺めれば一目瞭然で、ほかのなによりもファンの声量を優先し構成したであろう『瀬戸内の声』で「選抜」に抜擢されたメンバーのほとんどが、その後、序列闘争の場において敗北を喫し、シーンから早々に姿を消している。大成したのは、瀧野由美子、岩田陽菜、福田朱里の3名のみ。同作品はグループの初期構想の失敗を浮き彫りにしている。
『瀬戸内の声』で抜擢されたメンバーは右のとおり。磯貝花音、市岡愛弓、岩田陽菜、尾﨑舞美、門田桃奈、瀧野由美子、谷口茉妃菜、張織慧、土路生優里、福田朱里、藤原あずさ、三島遥香森香穂、薮下楓。
この14名の少女の内、メジャーデビューシングル『暗闇』の歌唱メンバーに選抜されたのは磯貝花音市岡愛弓岩田陽菜瀧野由美子土路生優里福田朱里藤原あずさ薮下楓の8名。セカンドシングル『風を待つ』ではここから藤原あずさが脱落する。船上劇場の完成に向けめまぐるしく変わるグループの様相がそのまま「選抜」構成に反映されているかのように見え、当時、ファンの心を不安と動揺で支配した。
もちろん、それはアイドルを演じる少女も変わらない。船上劇場の公演の幕が開いた2019年は、ドラフト3期生の溝口亜以子を皮切りに10名のメンバーが矢継ぎ早にファンへ「卒業」の報告をしている。門田桃奈もこの2019年にアイドルからの卒業を決心している。『瀬戸内の声』で「選抜」に抜擢された14名の内、実に8人のメンバーがメジャーデビュー後2年足らずでアイドルの物語に幕を閉じることになった。
渦中、サードシングル『大好きな人』では、いわゆる「全員選抜」の布陣を敷き、作り手が芸術に対する妥協を図ったように見えたが、人心の理解に乏しいその策をして、メンバーの卒業を加速させてしまった。作り手の理想にかなわず、ライバルとの競争に負け、今の自分では「選抜」という華やかな舞台に手が届かないことを自覚しうなだれる少女に対し、その「選抜」を無条件で差し出すこと以上の愚かさがほかにあるだろうか。だれもが手に入れる、ということは、だれもが失う、ということを意味する。「選抜」の価値が、暴落してしまった。とはいえ、門田桃奈本人の言によれば、彼女が卒業を作り手に申し出たのは、次回作が「全員選抜」を敷いたシングルであると伝えられる以前であり、彼女に限って云えば、「全員選抜」という「選抜」の価値の転落に歩調を合わせた卒業ではなかったようだ。
おもしろいのは、『瀬戸内の声』において「選抜」のイスを手に入れ、メジャーデビューを機にその「選抜」のイスから転げ落ちてしまったメンバーのほとんどが公開オーディション当時、ファンから注目を集めたメンバーであり、なおかつ、『暗闇』以降アンダーメンバーとして活動することになった彼女たちは、人気の面においてまったく結果が振るわなかった、という点にある。当然、門田桃奈もここに含まれる。
彼女たちに、門田桃奈に注目したファンは、一体、どこに行ってしまったのだろうか。
『暗闇』以後、より正確に云えば、けやき坂46の独立以後、セカンドシングル『風を待つ』を制作するにあたり、作り手が急遽打ち出したグループの方針、躍ることでアイドルの魅力を編み出し観客に伝えようとするそのSTU48の意志、色遣いに則したメンバーがそのとおりに「選抜」に登用されていくのだが、ファンもまたそのとおり、ステージの上で存在感を示すアイドルに引かれていった、ということなのだろうか。

たしかにその意味では門田桃奈という人はきわめて心細いアイドルに見える。奮迅の徒となりステージの上で荒々しく躍るライバルたちに比して、門田桃奈のダンスは飛白の迫力に欠けており、能動性に乏しい。
この人の魅力は、一見しただけで誰もがイメージするであろう、しおらしさ、つまりビジュアルにあるはずだが、その控えめで、内省的な佇まいがステージの上では仇となってしまったようで、スポットライトを浴び躍る門田桃奈は、ただただ、覇気のない、毒にも薬にもならないアイドルにしか見えなかった。
アイドルはつねに笑顔でいなければならない、というのは誤った認識、きわめて浅薄なアイドル観ではあるが、自信に満ち溢れた笑顔を描き出すアイドルを眺めそこから活力を得るファンが多いのもまた揺るぎない事実だろう。ステージの上で、音楽のなかで自信なさげにうつむいているように見えるアイドルから、もし、なんらかの力を得るのだとすれば、それはそのアイドルの内に、余人にはないもの、がそなわっているからだろう。門田桃奈にはそのような資質はそなわっていなかったようだ。

卒業後、愛媛発ガールズバンド「きみとバンド」の専属マネージャーとして働く。

 

総合評価 40点

辛うじてアイドルになっている人物

(評価内訳)

ビジュアル 8点 ライブ表現 7点

演劇表現 9点 バラエティ 10点

情動感染 6点

STU48 活動期間 2017年~2019年