STU48 磯貝花音 評判記

STU48

磯貝花音(C)音楽ナタリー

「ダークネス」

磯貝花音、平成12年生、STU48の第一期生。
アイドルとしての人気・知名度の低さに反して、平成と令和の境界線を踏み越えたグループアイドルのなかでは特筆に値するライブ表現力を有している。舞台・ステージの上でなんらかの物語を語ろうとする意識の荒さ、つまり「芝居」を作る姿勢は同世代のアイドルたちと一線を画している。
ビジュアルも良い。ローマの伝記に印された挿絵のような色彩を持ったアイドルで、物事の核心にまっすぐ踏み込むシンメトリックな瞳、鋭い指、長い黒髪…、と個性にあふれる。スポットライトを浴びると、それらが竜のように滑らかに力強く動きだす。その力強さ、その大仰で芝居じみた表情、動作をして、鑑賞者の脳裏に、なにか忘れがたいもの、を刻み込む。火傷の痕のように時おり疼いては音楽のなかで彼女の横顔を思い出させる、そのような踊りをこの人は、磯貝花音というアイドルは編み上げる。
そうした磯貝の特性の萌芽が現れたのがAKB劇場にて披露した『制服レジスタンス』であり、その果実が実った瞬間がSTU48のメジャーデビューシングル『暗闇』である。これまでに多くのステージで披露されてきた同作品において、磯貝はグループのだれよりもその音楽・詩情に合致した痕跡を印している。言葉の前にあるはずがない感情が、しかし言葉の前にあるように感じられてしまう、という、たとえば寒さを運んでくる雨のような気配、正しいことを言ったはずなのに、自分のまわりから大事なものが決定的に遠ざかっていく予感、寂寥をステージの上で描き出す磯貝の表現は、門脇実優菜と並び『誰のことを一番 愛してる?』『Darkness』など、暗闇の系譜を作る一連の作品の価値を押し上げると同時に、STU48の価値をも引き上げており、瀧野由美子岩田陽菜石田千穂等とは異質の主人公感を打ち出している。

しかるにSTU48のセンターに立つどころか、この人もまた雑多な情報に囲繞され「アイドル」を、「夢」を挫折してしまう平凡な少女の一人に組み込まれ、常に他人事だと考えていた通俗なるものが、自分にとって実はもっとも身近な存在であったことの現実を目の当たりにして、早々に幻想から覚めてしまった。
アイドル活動中、参加した4作品のシングルの内、表題作の歌唱メンバーに選抜されたのは3作品(『暗闇』『風を待つ』『大好きな人』)。唯一選抜から漏れた4枚目シングル『無謀な夢は覚めることがない』にしても事前の休業がなければ歌唱メンバーに選ばれていただろう。しかしいずれにしても『暗闇』で打ち出された磯貝の個性が次に活かされるような場面は、磯貝がアイドルとして過ごした日々のなかでは一度も起こらなかった。たとえば石田千穂がグループのエースであることを決定づけた『独り言で語るくらいなら』のような、踊りと演劇のどちらも同時に要求し拮抗させる作品と出会うことなく磯貝はアイドルの物語の幕を下ろしている。
卒業に際し、躍ることと、またそれを眺めるファンの歓声を頼りにして自己と「アイドル」を日々繋いできた、と述懐しているとおり、この人もまたSTU48のアイデンティティを象徴するメンバーの一人であり、たしかな才能・魅力をそなえているのに、多くのアイドルファンのあいだで話題に挙がることはない、ほとんど、だれにも知られていない、という暗闇に鎖される点もまたSTU然としている。

 

総合評価 66点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 16点

演劇表現 10点 バラエティ 13点

情動感染 14点

STU48 活動期間 2017年~2020年

2023/03/28  編集しました(初出 2019/09/15)