STU48 無謀な夢は覚めることがない 評価

STU48, 楽曲

(C) 無謀な夢は覚めることがない ジャケット写真

「無謀な夢は覚めることがない」

歌詞、楽曲、ミュージックビデオについて、

雨に打たれながら自己の枠組みを蹴り上げ、物語を回転させるアイドル。彼女は現在歩む道を「業」ではなく「運命」だとつよく自覚している。しかし、自己の枠組みをつらぬき、予め決められた物語を転覆させようと抗う行為そのものが、すでに決定づけられていた光景だとは気付いていない。そこに現れる倒錯こそ、シーン全体が自己模倣に陥った事実のしるしであり、令和のはじまりを生きるグループアイドルの「現在(いま)」を映す鏡である。

抑揚を欠き、無表情で夢を唄う16人のアイドル。彼女たちの多くが『大好きな人』で描いた不吉な胎動を握りつぶし、その呼吸を止めてしまうような不気味さを映している。それはおそらく、夢や希望の前に置かれる現実感覚に打ちのめされた人間特有の屈託、そこを通過した者だけが見つける達成感をすでに抱きしめているからだろう。
砂浜で踊る、たしかに、これはアイドルからベストパフォーマンスを引き出すことを妨害している。しかし考えてみれば、人生とは往々にして、常になにものかに妨害される状態に終始しているものだ。もし”これこれこうだったら”ベストを尽くせたのに…、と我々はいつもなにかにとらわれて生きている。それをあらためて理解しなくてはいけない。砂浜で砂に足をとらわれながら踊りきる少女たちはきっとだれよりもそれを理解している。そして、このアイドルを演りきったという想い、充実感がアイドルに自身の踊りをベストパフォーマンスだと確信させるのだ。だから夕焼けのなかで手を繋ぐ16人のアイドルたちは、つよい懐かしさと鮮明な達成感を投げつけ、活力をあたえてくれる。

もっとも興味深いのは、自己の枠組みを蹴り上げて回転させたのがセンターポジションに立つ瀧野由美子だけという点である。海と空の中間に並べられた16個の「額縁」から予知する光景とは、もちろん、アイドルのそれぞれが自己の枠組を壊す瞬間だろう。しかしそれは描かれなかった。そこにある事情を窺うならば、それは作り手の心の弱さが作る誠実さの現れと云えるだろうか。
グループアイドルの境遇には、ミュージックビデオのなかで演じた役を、そのまま現実世界のアイドルの性格へとすりかえられる妄執の囲繞がある。ミュージックビデオのなかで、アイドルという絵を鑑賞するために用意された絵画の額縁を蹴り上げた瀧野由美子。当然、彼女はこの作品を機に自己の枠組みつらぬく物語を書くのだと、ファンから身勝手な妄執を貰うことになる。誠実な作り手であればあるほど、そこに生じる責任を看過しないはずだ。もし仮に16人のアイドル全員に絵画の額縁を回転させるシーンを描かせたとき、”彼”はそこに書かれ動き出したすべての物語の責任を負うことになる。誠実がつくる心の弱さがその責任を回避させたのかもしれない。だが、その過剰なアイドルへの配慮は、アイドルから夢に立ち向かうための覚悟や切迫を奪う結果にはならなかったようだ。むしろ自己の枠組みを”現実で”蹴り上げなかったアイドルたちには豊かな可能性への猶予があたえられたようにみえる。
一方で、逼迫を抱え込む状況に追い詰められたのはセンターの瀧野由美子である。デビューから4作品連続で単独センターを務めるのは、AKBグループでは初の快挙であり、現在のアイドルシーンを牽引する坂道シリーズの主人公、生駒里奈、平手友梨奈、小坂菜緒と並ぶ物語である。あたらしい、しかし郷愁的な主人公を描きつづける彼女がこの段階で現実を歪めるような仕草を作り、自己の枠組みを回転させたことの意味はおおきい。提示”してしまった”覚悟は、今後、経験するであろうアイドルとしての転換、挫折=無謀な夢からの覚醒を乗り切り、次の夢を掴むための原動力となるのではないか。そのような”きっかけ”の共有となる楽曲である以上、『無謀な夢は覚めることがない』はこれからも繰り返し聴かれる一枚となるはずだ。「再聴に値する作品」と評価するのが妥当と感じる。

 

総合評価 67点

再聴に値する作品

(評価内訳)

楽曲 13点 歌詞 13点

ボーカル 14点 ライブ・映像 14点

情動感染 13点

歌唱メンバー:石田千穂、石田みなみ、今村美月、岩田陽菜、大谷満理奈、岡田奈々、沖侑果、甲斐心愛、門脇実優菜、新谷野々花、瀧野由美子、田中皓子、中村 舞、福田朱里、矢野帆夏、薮下 楓

作詞:秋元康 作曲:ツキダタダシ 編曲:APAZZI

評価点数の見方