STU48 甲斐心愛 評判記

STU48

甲斐心愛(C)STU48/インスタグラム

「季節の記憶」

甲斐心愛、平成15年生、STU48の第一期生。
オープニングメンバーでありながら「次世代」を担う若手アイドル、という位置に立つ。ただ、甲斐心愛の場合、能力的な成長への期待、というよりも、ピュアな少女がアイドルシーンのなかにあって、一体何に影響されどのようなアイドルへと変貌を遂げるのか、と”考えるおもしろさ”をアイドルの本領としているようだ。また、甲斐心愛の物語をなぞることはSTU48の成長を追体験することになる、かつて自分が”推した”アイドルの物語=季節の記憶を甲斐心愛の横顔に見る、という役目も背負っている。たとえば、彼女の踊りに平均を凌ぐ魅力を感じるのは、STU48というアイドルグループが「踊り」に対し並みなみならぬ熱誠をもっているからである。
この少女の変化・成長には注目せざるを得ない情況にグループのファンは置かれているわけだ。

現代の日本人女性の心体の早熟さには驚かされることが多々ある。特にアイドルを志す女性は顕著で、少女が大人の世界で、当たり前のように大人と並んで立ち、大人と同じように立ち振る舞っている。非日常を日常として生きなければならない境遇が少女たちを成熟させるのだろう。だから、アイドルが身を置く文芸の世界にあって、自由奔放に揺く甲斐心愛の「無邪気」が、14歳の女の子ならば当たり前にもっている「無邪気」が特別なものに映る、というのは、ある種の逆転現象でもあり、喪失が映す儚さのひとつとも呼べる。
古今東西、アイドルの存在理由の大部分を占めるのがファンとの成長共有である。ピュアで屈託をまったく抱えない笑顔をみせる少女が成熟した大人の女性へと「変身」する、その過程を惜しげもなく露出するのではないか、という期待感に包まれる甲斐心愛は、成長共有のコンテンツに豊穣を与える要件の多くをすでに充たした人物と呼べるため、「甲斐心愛」の成長とは、アイドル本人のみならず、グループの成長を象徴する物語になるのではないか、とどうしても期待してしまうのだ。

活力に満ちた小柄な身体が成長期を経て、一変し、モデルのようなスラッとした体型になるかもしれない。広末涼子のようなショートのヘアスタイルが、ある日、ロングのヘアスタイルになっているかもしれない。身体の変化とは精神の変化である。少女は、今日笑ったのと同じ場面ではもう笑わなくなるのかもしれないし、イノセントに泣き顔をみせることも少なくなるはずだ。心に重い闇を抱える時期もあるかもしれない。少女が自我を獲得していく過程でどうのような隘路の壁にぶつかり、その壁をどのようにして貫くのか。そこから引き返す勇気をみせるのか、側壁を掘る奇抜さをみせるのか。あるいは、壁の前で呆然と立ち尽くすのか。名は体を現す、と言う。仲間が自分のことを想って涙したと伝えられ、心が愛に満ちて、自身も落涙する。「心愛」という名はアイドル人生を正しい方向へと導くしるしとなるのではないか。

「現実っていうのは二つ同時にありえないんだよ」と言ったのだが、二階堂は当たり前のように、「知ってるよ」と言った。僕はつづけて言った。
「未来の可能性はどんどん枝分かれしてるけど、現実はその一本の道にしかたどらないんだよ。可能性がいくつあっても、一つを選んだらもう他はなくなるんだよ…しかもだなあ、原因と結果は一対一対応してないんだよ。結果っていうのはじつは出たとこ勝負なんだよ。たとえば机の上にあったコップが落ちたとしても、そのコップが割れるとはかぎらないだろ?コップが机の上から落ちても、割れる現実もあるし割れない現実もあるー」
「知ってるよ」
「現実世界で起きることっていうのは、想定される世界にあるいくつもの可能性が切り捨てられて、たった一つが残ったものなんだよ。…」
「でも現実は一つだけど解釈は一つじゃないんだよね」

保坂和志「季節の記憶」

少女は我々の想像を遥かに超えるスピードで成長をする。ある日、昨日とはまったく異なる表情をみせる瞬間がかならず訪れる。少女が現実的な壁に直面し、それを乗り越える為に選択していく一つずつの答え。その累積が、やがて一本の道となる。その道を歩く姿を見守る姿勢こそ、ファンとアイドルの成長共有である。やろうとおもえば出来たけど、やらなかったこと。やりたいとおもったけど、やれなかったこと。アイドルの「成長」とは可能性を一つずつ切り捨てていく作業でもある。希望や夢が”割れた現実”と”割れなかった現実”。ファンにはその結果に対応する柔軟さと”起きなかった夢へ”の忘却が求められる。

 

総合評価 57点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 13点

演劇表現 8点 バラエティ 13点

情動感染 13点

STU48 活動期間 2017年~

 

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