STU48 新谷野々花 評判記
「野に咲く花」
新谷野々花、平成16年生、STU48の第一期生。
『片想いの入り口』のオリジナルメンバーであり、市岡愛弓、岩田陽菜、峯吉愛梨沙と並びグループにおいて異色の存在感を把持している。とくに『片想いの入り口』の成功をアイドルの未成熟さの内に見出すならば、アイドルの魅力の大部分を幼稚さに占める新谷野々花は同曲の完成に高く貢献したと云えるだろう。
セカンドシングル『風を待つ』以降、STU48は、アイドルの魅力を最大限に引き出す手段として、グループ立ち上げ時から育んできた郷愁的イメージを転向し、あらためてダンスに注目した。
ステージの上での表現こそSTU48のアイデンティティであるとするその作り手の姿勢、グループのストーリー展開に説得力があるのは、今村美月、門脇実優菜をはじめとするダンス技術の巧者による働きかけのみではない。ステージの上で披露されるのはダンスだけではない。市岡愛弓、峯吉愛梨沙といった魅力にあふれた歌声を持つメンバーもまたSTU48のライブ表現力に貢献しており、そのなかでも特に新谷野々花の歌声の独特さ、奇妙さ、幼稚さ、未成熟さが編み出すバラッドのような歌唱表現は際立っており、グループに多様性を与えている。
新谷野々花の魅力はまず間違いなく「幼稚さ」にある。より正確に云えば、アイドルを眺めた際に抱くことになる、目の前で躍るアイドルがまぎれもなく幼稚であることの逡巡、つまりは少女が未成熟であること、未完成であることに魅力を見出さなければならない鑑賞者の心をくすぐるような、作家性にある。
今日のアイドルシーンにあっては、アイドルのほとんどが日々スマートフォンカメラの前に座りファンとの交流に励んでいる。義務、と表現しても差し支えない。インターネットを通じてファンの眼前に姿を現したアイドルとファンの交流のほぼすべてが、日常会話、に終始する。日常会話であるから、当然、カメラの前でアイドルが自身の日常を物語る際、それが一方的に最初から最後までスムーズに話される、ということは起こり得ない。アイドルは、ファンが画面に打ち込むチャットを横目に、ファンの意を汲みつつ自身の日常を物語る必要がある。そのような境遇に少女たちの多くは置かれている。
新谷野々花が頼もしく感じるのは、多くのアイドルが日常の垂れ流しに終始するなか、彼女はなんらかの企画・イベントを用意してくる点で、アイドルがなにかをやろうとしている、という気配を感じ取ったファンはアイドルの行動に口を挟むことなく、ただジッとアイドルを眺めることになる。よって彼女は自分の語りたいことをスムーズにファンに伝えることができる空間を手に入れている。ファンはアイドルを「鑑賞」することになる。
日常から離れた言葉、意識的に編まれた言葉を使いたい、と自然に考えるような「所作」を教育されたアイドルなのだとおもう。この、何者かの手によって教育されているように見える、という点こそアイドルを幼稚に見せるし、それを魅力的に感じさせるのが養われた作家性なのだ。そうした新谷の意識、なにか意味のある言葉を作らなくてはならないという自己への制約が少女らしい情動のなかで誤った発露を描いた場面もあったようだ。
ただ、結局、幼稚さという未完成の可能性を示したこの少女もまた、アイドルとしての花を咲かすことができず、進学を機に現実の世界へと帰還して行った。そのユニークな歌唱表現、未熟さ、粗雑さ、つまり幼稚さが、幼稚ではないもの、自立した作品へと実ることは叶わなかった。
卒業発表の際に朗読されたメッセージは、少女にそぐわない仰々しさがあり、類型的で、定形を脱しないが、これもまた彼女の、あるいは彼女に親しい人間が彼女に与えた作家性によるのかもしれない。たとえばそこには、自分とは違う何者かが自分の意思とは無関係に「自分」として他者のなかで作り上げられていくことに向けた反動、しかしまたそれは自分自身にほかならないという動揺に醸し出される夢へのなごり、「文章を書いた人間」の夢への反動が込められているように感じられた。
総合評価 51点
問題なくアイドルと呼べる人物
(評価内訳)
ビジュアル 9点 ライブ表現 12点
演劇表現 6点 バラエティ 12点
情動感染 12点
STU48 活動期間 2017年~2020年
2023/04/06 編集しました(初出 2020/08/13)