STU48 片想いの入り口 評判記

「デジャヴュみたいな桜の木」
ボーカル、楽曲について、
一回性、再現の不可能性、叙情の暴走、構成力の高さが、今日で云う「アイドル」の、その存在感のもつ魅力、つまり未成熟であることがなによりも成長への可能性を持つという、その魅力を、鮮烈に描き出している。今後、この作品の到達点を超えられるのか、大きな命題となり、グループに重くのしかかるのではないか。大仰に云えば、アイドルの不完全さをひとつの神秘として表現してしまった。過去でも、未来でもなく、アイドルの現在のみを鮮明に映し出すことに成功している。異なる時間や日常を通過して書かれた短編小説を再構築し、つなぎ合わせ、語りなおした長編小説のように、たとえばSKE48「万華鏡」の再構築のようにも映る未曾有で不気味な未完成性=再現性の欠如を抱えた虚構が作られている。これを歌えるのは、ではなく、このような歌声を編めるのは、この4人のアイドルだけだろう。
歌詞について、
作詞家が真っ白な原稿用紙にペンをはしらす、その切っ先がどのような勢いをもっていたのか、想像させる。グラスに注いだウィスキーの存在を忘却するように、ノスタルジックな情景に取り憑かれ書き上げたような、熱量と逼迫を感じる。そういった時間の流れのなかで書かれた文章はほとんどの場合、夜が明けるとともに鮮度が失われ、恥が露出し、芥箱の中に丸めて放り込まれてしまうが、この楽曲は保存状態が素晴らしい。「デジャヴュみたいな桜の木」、この科白ひとつで楽曲そのものを文学として成立させてしまう手腕は、まさに称賛、驚嘆に値する。広大なメモリーの提示により、批評、検証の余地が尽きることはない。
総合評価 90点
アイドル史に銘記されるべき作品
(評価内訳)
楽曲 18点 歌詞 18点
ボーカル 20点 ライブ・映像 16点
情動感染 18点
歌唱メンバー:市岡愛弓、岩田陽菜、新谷野々花、峯吉愛梨沙
作詞:秋元康 作曲:飯田清澄 編曲:飯田清澄