2021年もっとも読まれたアイドル批評

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「ゆっくりと、穏やかに変わりつつあるアイドルシーン」

さて、2021年も残すところあと2週間。今回も「1年でもっとも読まれたアイドル」を抽出してみました。集計期間は2021年の1月1日から12月12日まで。当サイト内におけるアクセス数トップ10(アイドル批評に限る)となります。集計にあたり、グーグルアナリティクスを利用しました。まだ12月の中旬であり、駆け足での集計になってしまいましたが、今月はHKT48のアルバムにはじまり、乃木坂46のベストアルバム、NGT48の新シングルの発売がひかえており、これもまた毎年アップしている『アイドルソングランキング』の作成を考慮すると、ちょっと時間がとれないかもしれない、と、この段階での集計に踏みきりました。では、さっそくランキングを見ていきましょう。今回は、一人ずつ、アイドルを総評していきます。まずは10位から。


10 久保史緒里  初公開日 2018/07/17 

今年もしっかりとランクインしました。『アイドルの値打ち』の立ち上げ日、つまりドメイン取得日が2018年の7月10日なので、サイト立ち上げ直後に書いた記事が3年経った今でもしっかりと読まれている、という結果を前にして、物書きとしてこれ以上の喜びはないと感じています。もちろん、久保史緒里というアイドルに尽きない魅力があり、それに引かれる読者がまだまだいる、という意味でもある。2016年にデビューして以降、流行り廃りのある厳しい世界で今でも変わらずに注目を集めつづけているのは、やはり、アイドルを演じる少女が果敢に成長しつづけているからでしょう。今年は、生田絵梨花の相対としての久保史緒里、という構図、アイドルとしての有り様がはっきりとファンの前に映し出された年でした。とくに『最後のTight Hug』のミュージックビデオにおける演技、アイドルの立ち居振る舞いには、久保史緒里の、乃木坂46としての境地ともいえる洗練さがあった。2022年に注目・期待するアイドルの一人です。

 

9山下美月  初公開日 2018/08/22

はじめてのランクイン。デビュー当時から「次世代」の主人公として目され、期待されるも、いまいち壺にはまらず、エースやセンターという話題に対し常に一歩後ろを歩むような、暗さのあるアイドルでしたが、今年、未来をつくる、と高らかに宣言した作り手によって制作された『僕は僕を好きになる』において、ようやくセンターに選ばれました。
なかなか素顔が見えない人物ですが、素顔の見えないひと、という印象をそのまま作品に落とし込み、高い演技力を身につけると共に、暗示に満ちた場所から移動をし、ジャーゴンなアイドルへと成長しました。

 

8賀喜遥香 初公開日 2021/04/06

今年もっとも飛翔したアイドル。平凡なひとりの少女が、ある日突然、真っ赤なカーペットを敷いたステージの上に引き上げられるというシンデレラストーリーを描いた『君に叱られた』において、その主人公に選ばれた。「夢」がある世界、ということをファンに知らしめ、グループアイドルの価値を底上げした。
現在公開しているアイドル評はこの『君に叱られた』発表以前のものです。再評価、加筆、これは今後避けられそうにない。
表現の分野において、ほんとうの自分をみずからさらけ出すことにまだまだ臆病になっているように見えますが、今後もグループの主人公として描かれ続ける以上、スキルに頼るのではなく、自分が今なにを伝えたいのか、それだけを目的とした表現行為、衝動に否応なく焦がれ、手をのばす日が来るのではないでしょうか。

 

7 齋藤冬優花 初公開日 2020/10/17

櫻坂46から唯一のランクイン。彼女の場合、検索サイトからの流入がほとんどのようです。タイトルに「不人気を極める」と書いていますから、彼女の悪評を、インターネット上で熱心に調べようとするアイドルファンが多い、ということなのでしょう。アイドルに通暁した私の知己によれば、記録ではなく記憶に残るタイプ、とのこと。アイドルの作り方、表現方法に平手友梨奈に近いものがある、という声も聞く。そういえば、去年まで2年続けてランクインした平手友梨奈が今年は姿を消し、その代わりに齋藤冬優花が姿を現した。このランクインは彼らの言葉を裏付ける結果と言えるかもしれません。

 

6齋藤飛鳥 初公開日 2018/11/29

一貫して、グループのエースとして強い存在感を放ち、グループの飛翔を支えています。
『全部 夢のまま』『君に叱られた』において、とびきりに高貴なアイドルとして画面に映された。アイドルに宿った貫禄を、そのまま演技に落とし込んでおり、グループアイドルの物語化に貢献しています。賀喜遥香、遠藤さくら、筒井あやめと、才能豊かな若手の台頭を前にしても、アイドルの存在感が一切揺るがない。頼もしい存在です。

 

5白石麻衣 初公開日 2018/07/18 

卒業から一年経っても、その人気はまだまだ健在、ということでしょうか。『僕のこと、知ってる?』から『しあわせの保護色』へと連なった、ほんとうの夢、ほんとうの自分はどこにあるのか、と迷子になる自我の模索劇を大胆に記したその物語の展開は、その後の乃木坂46の物語の作り方を決定づけたように感じます。『君の名は希望』に続く物語が本編として胎動するなかで、その主流を覆すような物語を、卒業への予感の内に打ち出した点に、このひとの魅力があるのでしょう。

 

4遠藤さくら 初公開日 2021/02/09

おそらく、現在、アイドルとしてもっとも高い資質を有し、なおかつ、「アイドル」からもっとも遠ざかった人物。未成熟、未完成を売りにする、という「凡庸」としての魅力を湛える、ではなく、なにもかもが粗雑であるのにもかかわらず、こころの内に秘めた想いを表現しようと果敢に行動し、そのとおり表現してしまえるという、いわゆる「天才」の枠に入る登場人物がこの遠藤さくらなのだと思います。
人は、なにかを表現しようと試みるとき、往々にして、その手段としての技術の獲得に奔走し、元々こころにあったもの、こころに誓ったものを見失ってしまう。しかし鑑賞者にしてみれば、眼の前に立つ表現者がなにを言いたいのか、それが肝心なのであって、その表現方法なんてものはなんだって構わないわけです。稚拙であろうと、独りよがりで難解であろうと、そこに”他者に向け伝えたいこと”が込められていればそれで構わない。これを理解できない人間を「大衆」と呼ぶのですが、遠藤さくらという人物はその枠組から完全に外れた場所に、アイドルとして姿を現したその日から、独り、立っているように感じます。

 

3西野七瀬 初公開日 2018/07/20

卒業から3年経とうとしていますが、彼女に対する関心、興味は途絶えないようです。アイドルの次のステージとしての「女優」という意味では、シーンの消長を問う存在なのでしょう、きっと。卒業後、テレビドラマ、映画、舞台と、数多くの「役」を演じ、アイドル時代以上の成長、飛翔を描いているようです。西野七瀬のようなアイドルになりたい、西野七瀬のようなキャリアに憧れる、と打ち明ける少女を頻繁に見かけますが、そうした憧憬を抱く少女は今後も絶えずアイドルシーンの上に登場することでしょう。

 

2生田絵梨花 初公開日 2018/07/25

『君の名は希望』から『サヨナラの意味』に至る物語の続編、後日の話を描いたであろう『最後のTight Hug』を歌うことによって、アイドルからの別れを告げた。『君の名は希望』あるいは『何度目の青空か?』と歩調を共にするようにアイドルを育んできた少女が、その結末を描いた作品でセンターに立ち「アイドル」を卒業したという展開は文句なし。先日披露された「MTV Unplugged」ではアイドルとしての集大成を描きファンを魅了した。当サイトでもっとも高い評価を付したアイドルです。

 

1大園桃子 初公開日 2018/07/27

2021年にもっとも読まれたアイドル評は大園桃子となりました。これはある程度、予想できた結果と言えるかもしれません。2018年、記事公開後、大園桃子のページは『アイドルの値打ち』のフラグシップのような役割を担っていて、検索サイトからの流入も、また固定の読者によるアクセスも、彼女が一番多い。そんな彼女が、今年、アイドルから卒業したわけですから、この結果も当然の結実と言えるのでしょう。
彼女もまた、白石麻衣、西野七瀬とおなじように、これからもファンのこころの深い場所を占めつづけるのだろうし、『全部 夢のまま』『ごめんねFingers crossed』といったアイドルとの別れの予感とその決心を描いた楽曲の片隅にポツンと立つ彼女を発見するたびに、ファンはその世界に帰還し、アイドルの素顔を再発見し、ふたたび「大園桃子」というひとの魅力に囚われることでしょう。

 

あとがき、
『アイドルの値打ちは』まだまだ小さなサイトであるし、主要アイドルをすべて批評したわけではない。たとえば森田ひかるをまだ批評していない。けれど、以下に記したランキングの推移には、シーンの特質とそこから少しずつ脱しようとする、「アイドル」の移り変わりが反映されているようにおもう。人気アイドルに対する、尽きない関心つまりノスタルジーを認めつつ、しかし、ゆっくりと、穏やかに、新しいアイドルにシーンがまぶされつつある、という「移動」が。

2019年のランキング
1位 大園桃子
2位 西野七瀬
3位 与田祐希
4位 平手友梨奈
5位 久保史緒里
6位 佐々木琴子
7位 白石麻衣
8位 生田絵梨花
9位 齋藤飛鳥
10位 星野みなみ

2020年のランキング
1位 西野七瀬
2位 大園桃子
3位 白石麻衣
4位 生田絵梨花
5位 平手友梨奈
6位 星野みなみ
7位 佐々木琴子
8位 久保史緒里
9位 丹生明里
10位 齋藤飛鳥

2021年のランキング
1位 大園桃子
2位 生田絵梨花
3位 西野七瀬
4位 遠藤さくら
5位 白石麻衣
6位 齋藤飛鳥
7位 齋藤冬優花
8位 賀喜遥香
9位 山下美月
10位 久保史緒里


2021/12/13 楠木