STU48 黒岩唯 評判記

STU48

黒岩唯(C)Scramble-Egg

「立つ鳥跡を濁さず」

黒岩唯、平成14年生、STU48の第一期生。
STU48のオープニングメンバーの一人として、14歳でアイドルの扉をひらき、15歳でグループを去る。アイドルとして過ごした時間は約7ヶ月、STUが本格デビューする前にその物語に幕を閉じている。当然、物語は無いに等しい。黒岩がファンのあいだで多少なりとも話題になったのは、トレードマークでもある「帽子」と、卒業発表(活動辞退の報告)の際に描いた立ち居振る舞いの2点のみ。ロマネスクの薄いのアイドルとするしかない。

卒業理由、その動機の一つとして、これからは笑顔で過ごしたい、と語ったその立ち居振る舞いをみてわかるとおり、立つ鳥跡を濁さず、と言うが、そうした清い精神性とはかけ離れた、本来的に明け透けな性格の持ち主であったようだ。しかし一方では、彼女が設定した「アイドル」にはやや過剰なもの、浅薄があったようにも感じる。あるいは、ファンとの最後の別れの際によりにもよって、これからは笑顔で過ごしたい、と語ってしまったのは、少女の性格に因るのではなく、アイドルを通して育まれたもの、STUの中で拾い入手したもの、の働きかけに因る、と言い換えられるかもしれない。
きっと、多くの少女が、アイドルを演じる日々を手に入れた際には、売れるためにあれこれ知恵を振り絞ってアイドルに設定を作るはずだが、黒岩も例にもれず、周りとは違う個性を持ったアイドルを作りたいというありふれた意識を持って、いかにもといった「アイドル」を準備している。
そうした少女たちに共通するのは、自身が用意したウソ、自己を偽って作り出した「アイドル」が、ファンへの献身のあらわれであると信じるその「アイドル」が肝心のファンにまったくウケず、ようやく手に入れた夢の生活にかげりを見たとき、裏切られた、と怒りを滲ませる点だろうか。

これからは笑顔で過ごしたい、という、アイドルとして過ごした日々のすべてから転向することを宣言する、つまり反動をファンとの別れの際にこらえきれず打ち出してしまうのは、ただ単に、アイドルとして売れなかった結果に対して若者らしく卑屈になっているにすぎない。

「アイドル」というウソの存在、言わば「偶像」を作る際に、それが自身の素顔を捻じ曲げる行為に等しいと勘違いし、屈託する少女をこれまでに数多く眺めてきた。
正義感が強く、真人間であればあるほど、夢を与えるというアイドルの存在理由を支えるものがウソを作る行為にほかならないという現実を前にして、矛盾に引き裂かれてしまう、ようだ。アイドルを作るという行為、つまりウソを作る行為とは、自分の知らない自分、自分の本当の姿を発見するための手段の一つなのだが、そうした行為に価値を見出だせないうちは、ファンを魅了する「アイドル」を作り上げる、アイドルを物語化し語る、これはやはり至難の業になるのだろう。アイドルが笑顔を作る、これは自分をごまかす行為などではなく、むしろ自分の素顔をファンに伝えるための手段でもあるのだが。

アイドルグループの黎明期とは往々にして、夢見る少女たちを一列に並べ才能の選別をおこなう喧騒に包まれた時期をも意味するのだが、その過酷な境遇からの最初の脱落者という意味では、黒岩唯は忘れがたい登場人物の一人、と云えるかもしれない。とくにSTU48は順位闘争の場の熾烈なグループ、アイドルとしての華があっても、STU48という船の乗員にふさわしい能力を備えていなければその存在を認められないという、異例のペースで足早にメンバーが卒業をしていく異様な相をしたアイドルグループであるから、その第一号である黒岩にはなかなか情報としての価値がある。もちろん、価値があるのは情報だけではない。
グループを早々に去ったメンバーの、アイドル時代の物語をあらためて追いかけるとき、そこに目撃するのは夢にやぶれた”彼女”の笑顔だけではない。そこには、今日なお夢を追いかけつづけている、グループの中心メンバーにまで成長した、凛々しい現役メンバーの、彼女たちがまだ初々しかった頃の無垢な笑顔を再発見できる。瀧野由美子石田千穂など、今日のシーンにおいて貫禄ある佇まいを作るアイドルにもヴァルネラブルな時代がたしかにあったのだ、という郷愁を抱かせてくれる。
黒岩唯のような、早期辞退者の物語ゆえに、そこにはアイドルグループを立ち上げたばかりの頃の、瑞々しい少女たちの横顔が色褪せることなく保存されている。そうした意味においてもグループを早々に去った登場人物には特別な価値を見出してしまうし、積極的に見出すべきだろう。

 

総合評価 37点

アイドルの水準に達していない人物

(評価内訳)

ビジュアル 11点 ライブ表現 7点

演劇表現 6点 バラエティ 6点

情動感染 7点

STU48 活動期間 2017年~2017年