HKT48 指原莉乃 評価

指原莉乃 ©DWANGO

「功罪相半ばする圧倒的な才覚とエネルギー」 

”平成”最後の大物アイドルであり、渡辺麻友と並び、現代アイドル史に大書されるべき人物である。典型的な機会主義者に映るが、野心と虚栄心を結実させた俗悪と強運の持ち主と云える。
指原莉乃は前田敦子、大島優子の後に続く”女王”だが、先代のイデオロギーは継いでおらず、アイドルとしてよりも”バラエティタレント”としての存在感の方が大きい。後世に現代アイドル史を振り返った際、アイドル・指原莉乃の成功と孤立とは、AKB48の誕生によって形成されたアイドル=グループアイドルという概念の外郭をヒビ割り、アイドル=ソロアイドルへと時代を回帰させる転換点になった、と評価される可能性があったが、同時代に平手友梨奈、大園桃子が出現したことにより、ついえた。

指原莉乃の成功とは、彼女の”ウィット”に因るものだが、それ以上に、なによりも”時代”を味方にできた点がおおきい。『電車男』や『転生したらスライムだった件』などのライトノベルが文学者からも評価される理由は(作品そのものに文学的な価値があるとは言えないが)、インターネットの中で回転した文化を後世の人間が研究するうえで、標本的な価値を孕んでいる点にある。これらの作品は時代を反映し、象徴する読物と呼べるが、時代を先回りし迎え撃つ読物ではない。タイミングが違えば、アイデアを先に出されたら、世に出回ることがない類の作品であり、まさに、時代を味方にした、と云える。指原莉乃も”彼ら”と同じように、インターネットという筐体をジュークボックスにし、観者の情動を引き起こすことにアイドルとして”はじめて”成功したのである。情報に囲繞されたアイドルが、激しく降る情報の雨にどのように打たれ、それをどのように利用し立回ったのか、指原莉乃はその研究対象として価値のある物語を書いた、と賛辞をおくることができる。指原莉乃以降、恋愛スキャンダルという典型的な情動を招き、それをそのまま人気へと転換させたアイドルは存在しない。それは、”彼女たち”に指原莉乃が備え持つ俗悪さとウィットが不足しているからではなく、指原莉乃のような時代を味方にする”強運”を生まれ持っていないからである。そして、いつの時代でも、どの世界でも、時勢(運)を味方にできた人間は大衆に惚れられるものである。また、歴史に名を刻み込む統治者とは、いつの時代でも、どの世界でも、大衆に惚れられた、運の女神に愛される人間を敵に回すなどという愚かな選択は、絶対にしない。

指原莉乃のアイドルとしての実力と評価が、彼女が固執しオブセッションにすらなっているAKB48や、現在最も高い人気と資質を持つ乃木坂46に所属するアイドル等の足元にも及ばないことは、滑稽と云うよりも、悲劇と呼べるが、彼女の物語を読むことは”作家の値うち”を問うのではなく、”総理の値打ち”を問うことに近い。指原莉乃を職業としてのアイドルではなく、バラエティタレントとしてみた場合、アイドル史において指原莉乃を超える経歴をつくり出すグループアイドルが、今後、出現することは決してないだろう、とおもう。手にしたいものはすべて手にしてきたかのような、圧倒的に豪華なキャリアである。文句の付け所がない。世論に対する思考経験と実践は他のアイドルの追随をまったく許さない閾に到達しており、バラエティの評価基準を、笑い、ウィットという視点だけではなく、人間として、またはアイドルとしてのユーモア、喜怒哀楽、強靭さや傷つきやすさの露呈と定めているが、そのような基準を遥か後方に置き去りにしてしまうような迫力を把持する。現代アイドルのみならず、アイドルそのものの範疇からはみ出し、シーンの軌道を捻じ曲げてしまうような「功罪相半ばする圧倒的な才覚とエネルギー」の持ち主と云える。(*1)

しかし、シーンの動向を左右する影響力と立場(ノーブレス・オブリジェ)を有し、幸運の女神にも愛される指原莉乃が本当に欲しいと願うものは、この先も絶対に手に入らないのではないか、と私は想う。指原莉乃が心から欲するもの、それは『AKB48・指原莉乃』である。人は、季節の記憶=ノスタルジーの訪問に打ち勝つことは、できない。どれだけ孤独を飼いならした人物でも、家郷への訪問には、心を激しく揺さぶられる。アイドルを演じながら、=LOVE(イコールラブ)など、プロデューサーとして”働く”のは、それが彼女にとって喪失した家郷の再建築だからである。だが、どれほど強く郷愁を抱こうとも、指原莉乃はHKT48というアイドル界の片隅に骨を埋めるしかない事実は揺るがないだろう。そこに指原莉乃の孤独、孤立を感じてしまうのだ。もちろん、それは、外のだれよりも、彼女自身が深く理解しているはずだが。

 

総合評価 58点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 7点

演劇表現 4点 バラエティ 20点

情動感染 15点

AKB48~HKT48(STU48) 活動期間 2007年~2019年

引用:見出し、(*1) 福田和也「総理の値打ち」

評価点数の見方