STU48 大谷満理奈 評判記

STU48

大谷満理奈(C)ミュージックヴォイス

「アブストラクト・アイドル」

大谷満理奈、平成16年生、STU48の第一期生。
絵本・童話の世界に登場するキャラクターのように、寓意的・寓話的な顔立ちをしている。今村美月峯吉愛梨沙等と同じくアクターズスクール広島出身者であり、期待通りの才能、実力を備えている。まだ13歳だったデビュー当時は、夢見る少女らしい屈託を一種のパラノイアとしてステージの上に差し出す風変わりなアイドルだったが、選抜メンバーとして活躍するようになってからは、より正確に云えば『無謀な夢は覚めることがない』を演じて以降は、そうした非凡さ、奇行さは鳴りを潜め、作為的な
笑顔を編むようになった。彼女にしてみれば、自分のことを、不思議な人、と表現する人こそ、不思議な人、であったようだ。
この人は情誼に厚い。
若く、情誼に厚い分、口に出す言葉の多くは思弁そのもの、心に湧き出た感情そのもの、である場合がほとんどで、生気に満ち思わず耽読させるが、共感できる部分をあまり持たない。古物店の錆びたシャッター扉のように、心を力強く開閉し、熱烈な言葉を吐き出すためか、ファンを唖然とさせる場面も多々あった。またアイドル自身も、言葉を吐き出した直後に、しくじった、というような顔をよく見せた。
総じて、良くも悪くも、意図的にしろ、偶発的にしろ、グループアイドルを演じる時間のなかで、その様々な場面で素顔がよく現れる登場人物、と呼べるだろうか。

アクターズスクール広島出身者であることの帰結なのか、あるいはSTU48というアイドルグループの一員であることの結実なのか、その両方なのか、わからないが、大谷もまたダンスを得物とするアイドルであり、その実力は現在のシーンにあってトップクラスの水準に達している。
テクニックはもちろんのこと、表現力についても文句なしの実力者で、とくに表情の弾力性を作り出す身体のバランス感覚の鋭敏さはグループにおいて一二を争う。手脚の距離感が絶妙で、華奢であり鋭い。ステージ上ではそれが弓の弦のようにしなり、アブストラクトな圧倒をつくる。スポットライトを浴びた際に出現する姿形の鮮烈さは群を抜く。踊ることへの意識の強さ、アイドルとダンスという話題に対する解釈の幅広さとは裏腹に、演奏中、唐突に緊張の糸が切れ、ステージの上でアイドルの魂が離脱してしまったかのように粗雑な踊りを披露する場面も少なからずあったが、それがアイドルのキャラクターとして受容され、彼女のことをより魅力的に感じさせるのだから、余人にはないもの、を持っているのかもしれない。
寓話的な顔立ち、ライブ表現力の高さ、ネガティブ・暗さのなかに陽気さをわだかまるという点においては、今日のアイドルシーンにおける主人公像にあてはまるアイドルであり、ゆえにセンターポジションへの憧憬を画くのに障壁を作らない。たとえばその佇まいは、第一期生でありながら第二世代のエース候補として「次世代」の役割を担った乃木坂46齋藤飛鳥を彷彿させ、高い期待感を抱かせた。

 

総合評価 60点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 14点

演劇表現 10点 バラエティ 12点

情動感染 12点

STU48 活動期間 2017年~2021年

2023/03/26  編集しました(初出 2019/10/10)