グループアイドルソング ランキング 2022

特集

(C)ここにはないもの ジャケット写真

グループアイドルソングランキング 50位~41位

50位 マジか / AKB48
タイトルどおり、若者の気分を歌っている。ある程度、感覚の瑞々しさがある。

49位 好きになってみた / 乃木坂46
「僕」を「わたし」に置き換えただけ。当然、これまで通り主人公は一歩も前に踏み出さない。「わたし」である必要がまったくない。「僕」を「わたし」に変えるのであれば、「僕」では持ち得ない視点が描かれて然るべきだろう。どちらでもかまわないという状況は、つまり「わたし」が生きていないという状況を指してしまう。

48位 私の時計 / SKE48
林美澪のソロ。アイドルを演じる少女の日常の視点に降りようと試行錯誤する、作詞家・秋元康の奮闘の劇。やはり、アイドルに接近することでようやく、「僕」の視点から抜け出ることをこの作家は叶えるのではないか。

47位 銭湯ラプソディー / 乃木坂46
『さゆりんご軍団』を想起させるような、好奇心に憑かれたような詩情。田村真佑のボーカルが心地良い。

46位 やさしさの重さ / NGT48
若者らしさに溢れた、恋愛における日常の葛藤を記している。しかし本当に「若者」とはここまで紋切り型に純粋なのだろうか。想像の産物にしか見えない。

45位 摩擦係数 / 櫻坂46
自己模倣に倒れ込んでおり、詩情における啓蒙が枯渇している。そうした枯渇が、作詞家の眼前に立つアイドルに魅力がないことを裏付けてしまっているかに思えるのは、皮肉的か。

44位 17分間 / 乃木坂46
標準的なアイドルポップス、といった印象。

43位 永遠のゴールドラッシュ / 吉本坂46
柔軟性ある夢の屈託を描いている。

42位 価値あるもの / 乃木坂46
乃木坂のアイドルが「乃木坂46」の魅力を歌で伝えようと試みた結果、アイドル、楽曲、そのどちらも本来の魅力を減衰させてしまった。ありていに云えば、狙いすぎている。

41位 絶対インスピレーション / SKE48
言葉よりも先に感知するものがあるはすだという錯覚が、結局、恋愛に向けられてしまうのは、アイドルの所以、なのだろうか。とはいえ、この楽曲を踊るアイドルたちの大腿筋を見れば、多くのアイドルが戦々恐々するのではないか。


グループアイドルソングランキング 40位~31位

40位 恋と愛のその間には / NMB48
タイトル、詩情の陳腐さに辟易するが、そうした陳腐さを作品として立ち上がらせてしまうアイドルの踊りのダイナミズムには引かれるものがある。NMB48最後の希望と目されていた梅山恋和が今作品をもってアイドルから卒業した。

39位 そして人間は無力と思い知る / STU48
アイドルにそぐわない楽曲、というよりも、ただただ退屈な歌、に感じるが、峯吉愛梨沙の歌声を存分に味わえるだけでも価値のある一曲と云える。

38位 月と星が踊るMidnight / 日向坂46
緑と青の止揚、という楽曲のコンセプト、テーマ、色づかいには他のグループにはない独自なものを感受するが、結局それが折衷でしかありえない、という感慨に落ち込んでしまうのはなぜだろう。

37位 Actually… / 乃木坂46
役名:平手友梨奈、主演:中西アルノ、という、他人のそら似を材料にして過去の天才とのフュージョンを狙った意欲作。そうしたイメージは音楽の外側に大きな破壊力をもたらしたが、音楽そのものを問うならば、魅力の乏しさを隠しきれない。

36位 ブルーベリー&ラズベリー / 日向坂46
4期生楽曲。似てるような全然似てない僕たち、という詩情に明かされるように、統一感と個性をあわせもつ少女が集合した。若手だが、すでにそれなりに踊れる。近年デビューした若手のなかではこの「4期」がもっともダンスセンスが高いようにおもう。特筆すべきは、映像作品において描き出された渡辺莉奈の横顔だろう。これまでのアイドルシーンでは見られなかった神秘性、息を呑むような、ネージュの煌めきが宿っており、大きな可能性を打ち出している。

35位 届かなくたって… / 乃木坂46
アンダー楽曲。ミュージックビデオにおいて、アイドルを順々にクローズアップしていくその導入部分は素晴らしいの一言。

34位 夢を見る筋肉 / 乃木坂46
真っ当に音楽を楽しんでいる。

33位 Sugar night / AKB48
本田仁美=K-POPという構図の作り方にどうしようもない安易さを感じるが、音楽、映像、アイドルのライブ表現、いすれも平均を凌ぐものがある。

32位 笑ってサヨナラ / 吉本坂46
アイドルとしても、アイドルソングとしても、それなりに結構している。アイドルの枠を押し拡げようとするその構えは崩されていない。

31位 ゴーフルと君 / 日向坂46
今回は、ゴーフルという焼き菓子に着想を得て青春を回想して行く。日常の些細な記憶に支えられた、日常の無意識の出来事を、恋愛の力を借りつつ、一味違うものとして表現している。


グループアイドルソングランキング 30位~21位

30位 ヤラカソウ / AKB48
秋元康的啓蒙と活力の横溢した作品。アイドルを演じる少女を前にした際に自己の内からにじみ出てくる無垢さのようなもの、を純粋に印している。

29位 夢中人 / NMB48
渋谷凪咲のために書き下ろしたという。ただアイドルの性格をノートに写すのではなく、音楽の中ではその「夢中人」がアイドル自身であり、また鑑賞者自身でもありえるという登場人物の編み方には舌を巻く。

28位 船から降りた僕たちは… / STU48
身も蓋もないタイトルだが、音楽の意匠、またそれを歌うアイドルたちの笑顔と屈託にはなかなかの情感がある。

27位 飛行機雲ができる理由 / 日向坂46
空、飛行機雲との距離感を想うことがアイドルとの距離感を奏でるところなどは表題曲『僕なんか』と遠く響き合っている。距離=切なさ、という感性を細やかに表現できている。

26位 これから / 乃木坂46
齋藤飛鳥の卒業ソング。桜井玲香以降の、卒業作品の有り様・手法を踏襲している。メメント・モリの結晶としてダンスが現れるところにはやはり好感を誘われるし、同時にその表現力に説得させられもする。

25位 向日葵の水彩画 / HKT48
かつて恋をした「君」の書きかけの向日葵の水彩画を、これから成長をしていくであろう未完成のアイドルの横顔に喩え、歌っているのだろうか。ただ、そうした「比喩」に向けた解釈よりも、詩情が備えるノスタルジーそのものに魅力があるようにおもう。

24位 好きなんて… / NGT48
本間日陽のソロ。アイドルのメイプルな気分が恋愛のニュアンスを上手に包み込んでいる。

23位 生まれ変わっても / SKE48
大場美奈の卒業ソング。平成のアイドルシーンの全盛期=激動期を生き抜いたトップアイドルのメモワールの中でアイドルを演じた少女の個性が縦横に語られて行く。

22位 片想いのままじゃ終われない / NGT48
「CloudyCloudy」の第二作。「アイドル」に充実しきっている。とくに小熊倫実のダンス・表情が素晴らしい。


21位 忘れないといいな / 乃木坂46
北野日奈子の卒業作品。きわめて個人的な感傷=思い出を引き出しつつ、現在と過去の交錯を描き出す過程でアイドル自身が過去の自分、無邪気だった、あるいは無邪気を演じていた自分をふたたび映像の内で演じるという光景には、こころを揺さぶられる。


グループアイドルソングランキング 20位~11位

20位 知らないうちに愛されていた / 日向坂46
自己否定に浸ることは過剰な自己肯定にほかならないという、身勝手に過去を想うことの残酷さがアイドルの笑顔にあばかれる。なによりも、タイトルが素晴らしい。

19位 心にFlower / SKE48
『あの頃の君を見つけた』の詩情を継ぎつつ、過去のアイドルに向けた悔悟を、新しいアイドルへの啓蒙として語り直してしまうところなどは、アイドルを自身の言葉の力によって物語化する作詞家・秋元康の巧緻を存分に味わえる作品となっている。

18位 私の歩き方 / SKE48
須田亜香里の卒業ソング。富んだストラテジーによって成功を収めたアイドルの結晶が「踊り」であった点にはなかなかの感興がある。アイドルの意識がこれ以上なく澄んでいて、それが表情、踊りによく現れている。アイドルの卒業作品のなかでは一頭抜くかに思われる。

17位 バンドエイド剥がすような別れ方 / 乃木坂46
リグレットという永遠に消えない感情をグループアイドルに囚われることの、いわばナルシシズムへと昇華した力作。

16位 なぜ、僕は立ち上がるのか? / NMB48
夢とか、活力とか、絶対に退廃しないもの、を支えにして、歌を編んでいる。相対的に、作詞家の、詩作を通して自己を育むことのモチベーションに触れることが可能。そうした熱誠に直に触れるからか、川上千尋はこの楽曲を踊っているときが一番輝いて見える。

15位 キスをちょうだい / NGT48
3期生楽曲。成熟してしまったらそれはもはやアイドルではない、というアイドルシーンの通念に囚われ評価するならば、最高度の瑞々しさを放っている。このグループは研究生楽曲の質がとにかく高い。今作もその期待に見事に応えている。

14位 昨日よりも今日 今日よりも明日 / NGT48
グループのアイデンティティを言葉にかえて歌う。アイドルの備えるストーリーが無垢なものに説得力を付すという意味では、グループアイドルの価値を知らしめる作品と云える。

13位 条件反射で泣けて来る / 櫻坂46
過去にしかレールが敷かれていないという生活の救いのなさを、衝動という、だれにでも起こり得る、再現性の高い現象として歌っている点に感心させられる。なによりも、スピーカーから流れ出るそのユーモラスな音楽に魅了される。

12位 Time bomb / NMB48
これもまた、言葉に対し持った強い意識、を恋愛に帰結させている。ただ今作に限って云えばその散文性が音楽の魅力を増幅させているように感じる。自我の濫費を許されたアイドルの歌声にも惹かれる。

11位 Wonderful Love / AKB48
17期生楽曲。未熟な少女の内にある魅力を上手に掬い取り、音楽の魅力に絡めている。


グループアイドルソングランキング 10位~1位

10位 アトノマツリ / 乃木坂46
あるアイドルにとって、仲間のアイドルがいついかなるときもアイドルであり得るという、神秘性の保持、乃木坂46がなぜここまでの飛翔を描きつづけることができるのか、その一端に触れる。

9位 ここにはないもの / 乃木坂46
特別な別れを特別なものにせず、笑顔の日常のなかに落とし込もうとする、活力に満ち溢れたサヨナラの歌。

8位 絶望の一秒前 / 乃木坂46
楽曲のイントロがそのまま、あたらしく乃木坂の門をくぐった少女たちのイントロダクションにされるという、ナラトロジーへの憧憬を叶えた傑作。フィクションの内側であらためて現実を思い知るというその緊張感の高さをして、今後、この楽曲を超える作品をつくれるのか、現実をはるかに凌ぐ困難にこの11人の少女たちは直面するのではないか。

7位 好きというのはロックだぜ! / 乃木坂46
センターの賀喜遥香が過去にブログに記した一文をそのまま楽曲の書き出し部分に引用するという、作詞家の大胆さ、ある種の無頓着さに、まず驚かされる。ゆえに今作品の見どころとは、乃木坂46のカノン=希望の語り直し、にあるのではなく、希望という情報を支えにして一人のアイドルを語ろうとする作詞家の想像力、にあるのではないか。散文、換言すれば小説への憧憬のなかでアイドルを物語ろうとするその作詞家の姿勢には、強く「希望」を描くことができる。

6位 ジャンピングジョーカーフラッシュ / 乃木坂46
アイドルを青春の代替品として捉えるのではなく、アイドルを青春の犠牲の上に立つ夢として捉えるのでもなく、アイドルを演じる時間、音楽を演じるその瞬間が青春になるのだ、という、現在のアイドルの有り様を上手に映し出している。青の時代を駆けることの達成感が、そのまま楽曲の達成感へと、すり替えられる。

5位 花は誰のもの? / STU48
音楽の力、を表現した。音楽の魅力を伝えようとするアイドル自身が、音楽の力によって前を向く、成長していく、という光景には胸躍るものがある。アイドルでなければできないこと、歌えないこと、言えないこと、をしっかりと演っている。STU48一世一代の傑作を想わせると同時に、『暗闇』で引いた線からようやく、一歩、強く前に踏み出せた感がある。

4位 渡り鳥たちに空は見えない / NGT48
かつて途方も無い絶望に落ち込んだ少女たちが渡り鳥に変身して空を飛ぶという実体としてのイメージの中で、音楽的カタルシス、アイドル的カタルシス、そのどちらにも遭遇させられる。

3位 僕なんか / 日向坂46
自己否定に傾倒するアイドルを前にした作り手が、その仮面の厚さに屈服するように、アイドルの備えもつ魅力を探り当てることができなかったと自白している点には、興趣をそそられる。小坂菜緒は、今日では数多く存在する自己否定を軸にアイドルを編む少女たちの象徴、いや、境地と呼べるかもしれない。

2位 僕が手を叩く方へ / 乃木坂46
乃木坂46の過去と未来に挟撃されてきた第3期生の集大成的作品。演劇の風に吹かれアイドルとしての魅力を喪失していく少女の魅力と、そうした魅力が拒絶されるのではなく許容されてしまう虚しさを前にした少女の孤独感を音楽が支え励ますような、アイドルが映像・音楽と共に在る、共に呼吸することができる、というグループアイドル的香気に満ちた問題作。ミュージックビデオにおいて、アイドルの笑顔が順々に映される場面があるが、こうした、「アイドル」にやつされた人間特有の笑顔、儚さをカメラの前で作れてしまうのは、後にも先にも、乃木坂の3期、だけだろう。白眉、と云うほかにない。

1位 五月雨よ / 櫻坂46
桜が散ることに向ける情感、たとえば、あるアイドルグループが少しずつ、しかし確実に移り変わっていくことの、その瞬間を五月雨の内に見る、という、日常の機微をけして見逃さない、詩人としてのその力量に圧倒される。なによりも、絶対に変わってしまうもの、のなかで、季節の儚さのなかで慟哭するアイドルの横顔、そのうつくしさに言い様もなく引かれる。


あとがき、
これまでは、記事の見出し画像にレコードジャケットを引用してきたけれど、今回は趣向を変え、今年制作されたミュージックビデオのなかでもっとも印象に残ったシーンを選んでみた。理由は、すでに本文のなかで述べた。ミュージックビデオのみを頼りにして音楽を読み、批評し、評価することなどだれにもできないが、もはやミュージックビデオなしで音楽を語り妄想を育むこともまた今日ではむずかしくなってきた、ように感じている。あるいはそれはアイドルに限った話題なのかもしれないが。

2022/12/31  楠木かなえ