グループアイドルソング ランキング 2020

「2020年アイドル楽曲ランキング」
「2020年」の社会、日常生活を振り返った際、おそらく誰もがその回想の根幹に、あらゆる史料に大書されるであろう災禍「新型コロナウイルス感染症」があり、エンターテインメント産業、アイドルシーンもまた、いや当然、この災禍の記憶から逃れることはできなかった。とくに、会えるアイドル、という非日常と日常の境界線を不分明にした、アイドルとファンの距離感の毀損によって平成のアイドルシーンの主流を決定づけたAKBグループ、坂道シリーズにあっては、その両極の中心に行き交いすることのできない線が引かれ、ファンがアイドルから、あるいはアイドルがファンから決定的に隔てられ、困窮を極めた。
”彼女”たちの困窮は、数字によくあらわれている。2019年に作成した「グループアイドルソング ランキング 2019」においてランキング対象とした楽曲、つまり2019年に発売された楽曲数は113曲。一方、今年、2020年に発売された楽曲数は、数えると84曲(SKE48の『恋落ちフラグ』、乃木坂46の『僕は僕を好きになる』は発売日が2021年であるため除外)。いや、この種の統計を見るまでもない。シーンのもっともまぶしい場所に立つ乃木坂46から提出されたシングルがたったの一枚という事実に鑑みれば、それが如何に異常事態であったのか一目瞭然だろう。しかしまた、他者とのあたらしい距離感が生まれたことにより、音楽と孤独に向き合える時間が増えたのもたしかだ。たとえば、Al Greenの『How Can You Mend a Broken Heart』を聴きながらそれが乃木坂46の『悲しみの忘れ方』と遠く響き合っていることに気づけたのも、この孤独な時間のおかげである。そのような意味では、アイドルシーンは二つの自浄に遭遇しつつある、と云えるだろう。一つは、”会えない”アイドル化。もう一つは、ファンがこれまで以上に楽曲に対し真剣になる、という点である。
さて、ランキングを作るにあたっては、前回と同様、筆者が愛用するミュージックプレイヤーに記録された、各アイドルソングの再生回数に重きを置いた。上述したとおり、対象とする楽曲は、AKB48、SKE48、NMB48、HKT48、NGT48、STU48、乃木坂46、欅坂46(櫻坂46)、日向坂46の9つのアイドルグループから発売された84曲とする(2020年、吉本坂46からは1曲も提供されていなかった)。短い批評を記し、順位付けするにあたり、対象の楽曲をもう一度聴き返し、ミュージックビデオが付された楽曲についてはそれもチェックした。当然、CDの発売日の都合上、再生回数だけではフェアにはかれない部分がどうしてもでてくる。よって再生回数をそのまま安易に順位へと当てはめるようなまねはしていない。また、今回も批評を作る際、「この楽曲は季節の記憶となり得るか」という視点を意識した。純粋に音楽を聴く、という姿勢を作る、構えたとき、再聴への希求があるのか、将来、季節の移り変わりを告げる風が鼻をかすめたとき、この楽曲を想い出すだろうか、という点をもっともつよく意識した。
また、これは思いつき、遊びにすぎないが、楽曲を聴き返す際に、各シングルのジャケットを眺める時間が多くなり、ジャケットの”デキ”にもそれなりに差があるものだな、とあらためておもった。そういえば、私自身、若い頃は、お気に入りのレコードのジャケットを部屋の壁に飾ったりしたものだ。CDのジャケットにもそのような”使いみち”、魅力があるはずだ。というわけで当記事の見出し部分に、もっとも”デキ”が良いと感じたシングルのジャケット画像を引用することにした。『しあわせの保護色』のジャケット写真を考えた作り手が、どこまで「新型コロナウイルス感染症」を意識したのか、想像するしかないのだが、この作品は「2020年」をよくあらわせている、と感じた。時代に映されたグループアイドルの活写、という意味において”古典的”と評価できる作品に仕上がっている。
グループアイドルソングランキング 84位~71位
84位 奇跡という名のストーリー / STU48
タイトルが……。
83位 ソーユートコあるよね? / SKE48
混迷をきわめている。一体、これからどこに向かって走るつもりなのか。
82位 イケナイコト / NMB48
色彩をテーマにしたうえで楽曲を演じるアイドルの持つ色使いの豊かさに言及し、失敗している。
81位 どうして雨だと言ったんだろう? / 日向坂46
「思考停止」しているのは作り手自身ではないか、と心配になる。
80位 Who are you ? / SKE48
『いきなりパンチライン』の焼き増し。つまり失敗品を自己模倣している。
79位 我が友よ 全力で走っているか? / NMB48
夢への視点に工夫がある。工夫はあるが、嫌味にきこえる。自己を奮い立たせるための牧歌として準備したのならば、安易。
78位 ダンシングハイ / NMB48
印象に残らない。
77位 青春念仏 / NMB48
もうすこし真面目になるべき。
76位 恋の根拠 / SKE48
若手アイドルで構成された楽曲。できないことはやらない、という姿勢に一貫するのは潔い。しかしそれは裏を返せば、楽曲を作ることによってそこに物語が生まれる、という可能性のすべてを放棄していることにほかならない。もっと醜態を見せるべき。
75位 涯 / NMB48
おなじみの、長距離バスに乗って帰郷するお話。
74位 Be happy / NMB48
『サイレントマジョリティー』的な反動を、悪ふざけしながら模範としている。
73位 告白の空砲 / NMB48
ファンに聴かせる水準に達していない。
72位 My fans / 日向坂46
新しい切り口を考えた結果、イメージの破綻を招いている。
71位 ファンタスティック3色パン / 乃木坂46
映画『映像研には手を出すな!』の主題歌。「3色パン」という小道具にこだわる姿勢は面白いとおもうものの、楽曲自体は散漫で再聴への希求を欠く。
グループアイドルソングランキング 70位~61位
70位 青春はブラスバンド / NMB48
こういった「イノセンス」に甘えた詩情を作品として成立させる、それは結局、楽曲を演じるアイドルの力量次第なのだろうか。
69位 嫌いなのかもしれない / NGT48
追憶という体裁のもと、若いアイドルがけなげに楽曲の上で踊っている。
68位 あの日から僕は変わった / STU48
問いかける行為が自暴自棄にみえる。
67位 愛する人 / AKB48
こういった大仰なテーマを歌にするとき、普遍さの獲得がなによりも重要になるが、今作品においては感傷的にすぎ、むしろ滑稽に映る。
66位 一瞬のスリル / STU48
スリルを語っているのに、ひどく倦怠している。
65位 短日植物 / STU48
アイドル自身が用意してしまったケレン=美意識が、むしろ作品をつくることへの美意識の欠如をさらけ出してしまっている。さらけ出すべきものは、やはり「素顔」だろう。
64位 一番好きな花 / NMB48
吉田朱里のソロ楽曲。
63位 イミフ / NMB48
こういう”思いつき”は、作品化する前に、一晩寝かすべき。
62位 瀬戸内の妹 / STU48
作詞家の、言葉に対する美意識の欠如、無頓着には呆れるばかり。
61位 好きになってごめんなさい / NMB48
作り手からアイドルに向け、演劇へのつよい要求がなされなかったのか、肝心の粘り強さがない。
グループアイドルソングランキング 60位~51位
60位 See Through / 日向坂46
超能力を授かってしまった少女が、奇跡が当たり前の出来事になってしまった少女が、恋愛という奇跡に恋い焦がれる。どこかで見たことのある物語が書かれ、それをアイドルに歌わせている。
59位 砂塵 / 欅坂46
歌詞、アイドルの表現、いずれも稚拙。
58位 ソンナコトナイヨ / 日向坂46
『キュン』『ドレミソラシド』の系譜に連なる作品。アイドルの笑顔が終始硬直している。
57位 How about you? / HKT48
テーマが散漫で、なにを伝えたいのか、はっきりしない。
56位 青春の出口 / HKT48
これもイマイチ。この歌をうたうことで、一体なにを伝えようとしているのか、みえてこない。
55位 NO WAR in the future 2020 / 日向坂46
リテイク版。とにかく安っぽい。
54位 アイラブ豚まん / NMB48
遊びがある。しかし『白米様』と比べると叙情の暴走が弱い。
53位 おしゃべりジュークボックス / HKT48
地頭江音々の作る「笑顔」を存分にたのしめる。でも、それだけ。
52位 キスの花びら / HKT48
楽曲そのものは魅力に乏しいものの、今作品の「僕」を、『おしゃべりジュークボックス』で主人公にキスをした「僕」のその後のストーリーだと妄執できるならば、それなりの物語が立ち現れる。
51位 半信半疑 / 櫻坂46
いつもの「反抗」を、今度は恋愛を土台にして歌っている。枠組みの中にさらに狭い枠組みを作る、この点は自虐的でおもしろい。
グループアイドルソングランキング 50位~41位
50位 だってだってだって / NMB48
演劇を通し、自身が演じた「役」、つまり物語の登場人物が恋した相手を、現実世界において愛してしまうという現実と仮想の行き交いが招く錯綜を描いている。しかもこれを演じるのは、日常を演じるアイドルなのだから、なおのこと興味深い。梅山恋和の可憐さにも注目。
49位 君のいない世界 / SKE48
イントロは素晴らしい。アニメーション作品に使用されるBGMのような導入的心地良さ。
48位 ブルームーンキス / 櫻坂46
とにかく移動しない「僕」。行動をしない「僕」の動機のようなものが語られている、と好意的に解釈できるのならば、この楽曲を懐に手繰り寄せることができるかもしれない。
47位 渚のイメージ / SKE48
あたらしくアイドルへの扉をひらいた少女たちの、夢への希望を、ひとつの群像劇として濃やかに描けている。しかし同様のシチュエーションに立った、NGT48の『今日は負けでもいい』が描出した名残惜しさ、アイドルの泡沫には遠く及ばない。
46位 ストレートな純情 / SKE48
おそらく、現時点で、ダンスパフォーマンスがもっとも優れているグループがSKE48であり、その事実を今作品が証している。
45位 失恋、ありがとう / AKB48
新センターに山内瑞葵を迎えた、次の時代への胎動を描かいた作品。新主人公の新鮮さは充分に伝わってくるものの、作品そのものは退屈。もし「失恋」をグループの再起動、端境期の喩えとして語っているのだとしたら……。
44位 窓を開けなくても / 日向坂46
一つのアイデアだけで一曲書き切ってみせた、ただそれだけにみえる。ミュージックビデオも特筆に値しない。
43位 また会える日まで/AKB48
AKB48の第一期生・峯岸みなみの卒業ソング。仲間との別れ、というよりもすでに過去に別れている同志との再会を描いている。だから彼女が、卒業ソングを歌った身でありながら未だグループに在籍していることにも、矛盾は生まれない。
42位 Plastic regret / 櫻坂46
妬心を後悔の一種として歌っている。あるいはそのリグレットのなかに嫉妬があることに気づけない感情の狭さのようなものを語っている。
41位 思い出マイフレンド / AKB48
紋切り型な逃避行を書いている。しかし、逃避が希望を探す旅ではなく言葉通り現実逃避でしかないとはっきりと示すことに果たしてどのような意味があるのだろうか。小熊倫実は綺麗に撮れている。
→ 次項に続く