グループアイドルソング ランキング 2020

特集

(C)しあわせの保護色

グループアイドルソングランキング 40位~31位

40位 恋なんかNo thank you! / NMB48
一定の水準に達するものの、アイドルの現実の「顔」を、楽曲の世界にそのまま持ち込んでおり、退屈。楽曲にふれることによってアイドルのあたらしい素顔を発見するという感興が奪われている。

39位 好きということは… / 日向坂46
書き出しは良い。良いが、作詞家・秋元康の場合、書き出しに写実らしき描写を覗くとき、往々にして、書き出し”だけ”が良い、となってしまうのはなぜだろう。

38 ただがむしゃらに / 日向坂46
『イマニミテイロ』のサイドストーリーのような印象。タイトルは良い。

37位 じゃあね。 / 乃木坂46
白石麻衣の卒業ソング。白石麻衣本人が作詞を手掛け、話題になった。

36位 この夏をジャムにしよう / 日向坂46
3期生楽曲。結晶化しつつあった上村ひなのの笑顔に瑞々しさが戻っている。

35位 約束の卵 2020 / 日向坂46
リテイク版。日向坂46に所属するアイドルがどのように物語を作るのか、その行程を丁寧に教えてくれる魅力的な楽曲だが、リテイク版のため、この順位にした。

34位 誰よりも高く跳べ! 2020 / 日向坂46
こちらもリテイク版。グループのアイデンティティ的作品。

33位 カレイドスコープ / 欅坂46
歌唱メンバーは考えられているが、同じようなテーマを持つ楽曲との差別化がまったく図られていない。楽曲のクオリティは高い。

32位 Deadline / 欅坂46
グループの境地をよくあらわしている。しかし、音楽を聴く、たのしむ、という純粋な姿勢を試みたとき、心を揺さぶるものがない。

31位 ジタバタ / AKB48
斜塔するグループ、その柱を自ら砕けと教えている。しかし作詞家の無垢さと作曲家の熱量がすれ違っているようにみえる。


グループアイドルソングランキング 30位~21位

30 青春の宝石 / SKE48
高柳明音の卒業ソング。アイドルの物語の冗長さに負けることなく、文句なしの実力を発揮している。AKB48から乃木坂46まで、近年発表された卒業ソングのなかでは、一番歌が上手い、と感じた。

29位 日向坂 / 日向坂46
タイトルどおり、グループのメモリー。ただしこの楽曲もまた、『イマニミテイロ』の焼き増しにすぎない。

28位 コンセントレーション / 欅坂46
アイドルの表現力が試される楽曲。しかし歌詞のなかに「集中」に対する誤った解釈が置かれており、それが楽曲を演じることに「集中」するアイドルを邪魔している。

27位 思い出せる恋をしよう / STU48 
世代交代への胎動を記した作品。この楽曲が平均を凌ぐ位置に来る、という点こそ、2020年が不作をきわめた年であることのもっとも明確な徴と云えるだろう。瀧野由美子の横顔にかげりを見る。

26位 Buddies / 櫻坂46
山﨑天の魅力を明快に打ち出す。しかしやや図式的か。

25位 君のため何ができるだろう / 日向坂46
「アイドル」に出会ったアイドルとファン、双方の視点を混淆しつつ、丹生明里というアイドルの横顔を通して、アイドルとファンの成長共有を歌っている。

24位 アザトカワイイ / 日向坂46
自己模倣により作品の価値を作り手自身が損なわせてしまった。「リハーサル動画」の提供によって持ち直した。

23位 離れていても / AKB48
コロナ禍における回答を、会話を探った、「コロナ」を記憶し、記録する作品。「ねえ」と問いかけられたとき、懐かしさをたしかに感じ、そのあとに山本彩が映し出され、なるほど、納得した。この”懐かしさ”に、収斂を迎えつつあるシーンを生き抜くためのヒントがあるのではないか。

22 最終の地下鉄に乗って / 櫻坂46
浅田次郎の出世作のタイトルをそのまま持ってくる点に、作詞家・秋元康のクリシェに対する無頓着を再認識させられ、呆れ返るばかりだが、その無頓着さのおかげか、作品にそれなりの造形がある。

21位 ナゼー / 日向坂46
テクノロジーによる語彙の制限、思惟の枠組みを突破しようとする少女の模索劇。


グループアイドルソングランキング 20位~11位

20位 シャーベットピンク/ NGT48
1年9ヶ月ぶりに発売された新シングルの表題曲。藤崎未夢を新センターに迎えたことからもわかる通り、グループの再出発がテーマになっている。テーマに縛られてしまった所為か、笑顔に固執があるように見える。すこし息苦しい。

19 無謀な夢は覚めることがない / STU48
タイトルが良い。楽曲も良い。映像作品もグループの過去の作品と並べれば間違いなく一番”デキ”が良い。しかしそのすべてがトレンドに迎合した模倣でしかなく、ファンにあまりウケなかった。

18位 3-2 / HKT48
13作目のシングルでありながら、アイドルガイドの役目をしっかりと果たしている。好印象。

17位 ゆっくりと咲く花 / 乃木坂46
乃木坂46・第二期生の集大成的な作品。しかしファンの眼前に広がる物語がどこまでも一本調子であり、倦みを抱く。

16位 世界中の隣人よ / 乃木坂46
コロナ禍におけるグループアイドルの希望の映し方の模索を記録した作品。結果的に、アイドルの素顔とされるものが間断なく映し出され、「コロナ」に対する回答としては文句なしの構成を実現している。

15位 後悔ばっかり / NGT48
未成熟なアイドルの横顔を丁寧に保存できている。歌詞には、個人的体験に照らし合わせて考えさせる、という希求がある。

14位 青春各駅停車 / STU48
メロディーとそれに乗るアイドルの歌声は力強く、かつ、爽やか。再聴への希求がたしかにある。しかし歌詞には生彩がほとんどない。「列車」でありながら”一方的な揺れ”がない。

13位 毎日がBrand new day / 乃木坂46
明日は今日なのかもしれない、というグループアイドルの屈託を克明に記している。しかし、命題の暗さ、あるいは楽曲を演じるアイドルの暗さゆえか、再生ボタンを押すまでに乗り越えなければならない障壁がある。

12位 Route 246 / 乃木坂46
作曲に小室哲哉を起用し話題になった。”いつかの場所から歩き出せばいい”。この、作詞家・秋元康から小室哲哉に向けた活力が、乃木坂46のその後の物語につよく介入しており、物語の作り方、という点においてきわめてスリリングな展開を描いている。

11位 I see… / 乃木坂46
”SMAP感”がある、と大衆から注目を浴びた。しかしその図式に囚われるのは「隘路」だろう。もっとも評価すべきは、アイドルに向け、素顔をさらけ出せ、と啓蒙する作詞家の詩情であり、自己模倣の対象にするのは”SMAP感”などではないはずだ。


グループアイドルソングランキング 10位~1位

10 Nobody’s fault / 櫻坂46
櫻坂46のデビューシングル。過去を語り継ぐ決意と共に、まったくあたらしい物語を書こうとする胎動の手触りをたしかに触る。ミュージックビデオのイントロダクションは素晴らしいの一言。

9 サヨナラ Stay with me / 乃木坂46
流れる音楽の中にアイドルたちが日常風景として描く稚気を目撃できる。特別な存在感を把持する楽曲。

8位 誰がその鐘を鳴らすのか? / 欅坂46
欅坂46のラストシングル。小林由依の横顔から始まった一つのアイドルグループの物語が、小林由依のモノローグによって閉じられた。

7位 なぜ 恋をして来なかったんだろう? / 櫻坂46
言葉の真の意味で”アイドルの発見”がある。会心の作。

6位 アナスターシャ / 乃木坂46
佐々木琴子を第二期生の群像の深部に置いた、最初で最後の楽曲。ほんとうの夢をつかむために、上空に舞い上がり、やがて消失した少女の横顔は、グループの歴史において誰よりも儚く、うつくしい。

5位 しあわせの保護色 / 乃木坂46
ダイアナ・ロスを白石麻衣の物語に引くという大胆な試みによってアイドルとそのファンの成熟度をはかろうとした、令和のアイドルシーンを予見する意欲作。アイドルとそのファンを常に子供扱いしてきた作詞家・秋元康が、白石麻衣を象徴とする「アイドルの成熟」に向け、ある種の問いを投げかけた。もし作詞家の問いかけにファンが応答することができたのならば、今作品とおなじ水準まで成熟した楽曲を、今後も提示してくれることだろう。

4位 10月のプールに飛び込んだ / 欅坂46
永遠に完結しない未完成の長編小説のような、散文的魅力に溢れる。

3位 絶望の後で / NGT48
日常を演じるという行為のむずかしさ、深刻さを訴えかけている。アイドルでありつづけることは、果たして生きることに値するのか、その葛藤を、嘆きを、他でもないアイドルを演じる少女自身から問いかけられる。なによりも、アイドルのライブ表現に圧倒される。

2 青春の馬 / 日向坂46
アイドルを演じる少女の屈託、その在り処が指し示され、ファンは、脱却することができない献身を自覚し、否応なく夢への活力に到達する。詩情、楽曲、ミュージックビデオ、ライブ表現、すべて最高水準。現代のアイドルシーンを象徴する作品。

1 僕らの春夏秋冬 / STU48
”あの頃好きだった”アイドルの横顔を、あたらしい時代を生きる少女の横顔に重ねさせつつ、その少女がやはり幻想の世界から去っていってしまったとき、花が散ってしまったとき、同時にこの歌ももう一度郷愁を作ることになる。グループアイドルの描く系譜図、その魅力に囚われざるをえないファンにきわめて甘美な歓心を抱かせる傑作。


あとがき
俯瞰するまでもなく、「2020年」は不作の年になった、と云えるだろう。前年と比較してみても、とにかく質が低い。「会えるアイドル」が「会えないアイドル」となった今、シーンが小さくなった今、やはり生き残るのは楽曲で勝負できる「アイドル」のはずだ。もちろん、質の高い作品とは、安易に商品としての完成度の高さを求めたものを指すのではない。グループアイドルの提供する楽曲の”質”の高さとは、アイドルを演じる少女が楽曲を演じる過程において、楽曲に付され記された「僕」になりきり、アイドルの物語に「成長」が描かれることだろう。そのような意味では、日向坂46の『青春の馬』は白眉に映る。夢への活力を歌うアイドル自身が楽曲にはげまされ、屈託から這い出し、もう一度、笑顔を作ろうと試みる。それを眺めるファンが活力を得る、という構図こそ、言葉の最良の意味で、楽曲で勝負している、と云えるはずだ。
楽曲の質の低下が招くものに、ファンの故郷への帰還がある。あたらしい物語に倦みを抱くファンは、かつて自分の心を激しく揺さぶった楽曲世界へ、思い出の世界への没入を開始してしまう。一度でもその郷愁の心地良さに浸ってしまったら、あたらしい物語を読むことが億劫になってしまうものだ。

2020/12/12 楠木

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