けやき坂46 渡邉美穂 評価

けやき坂46

 

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「新たな物語の、新たな主人公」


郷愁的でバランス感覚の良い姿形、節操のあるショートヘアスタイル、彼女が走り出すと意思が反映したようにその髪がおおきく揺れる。無感動は置き去りにされる。「正統派アイドル」という枠組みならば、現代アイドル史のなかで最高到達点と云える。

群像劇が消失した現在のアイドルシーンにおいて、ファンが渇望するのは「主人公」の誕生である(それは時代の要請を無視した声でもある)。渡邉美穂というアイドルは、「主人公」への純度が極めて高い人物である。齊藤京子、佐々木美玲、柿崎芽実、加藤史帆丹生明里によって群像劇の復活、奇跡への胎動を感じさせる『けやき坂46』において、主人公を想わせる渡邉美穂の存在は異端児にさえみえる。松井珠理奈生駒里奈が異端児として、異物として、ファンに不快感をあたえるのは彼女たちが「主人公」という業を背負っているからである。渡邉美穂からは未だ彼女たちのような強烈なイデオロギーを感じることはないが、独善的な瞳や自発的能動性のたかい立ち居振る舞いから、その片鱗をうかがうことはできる。やはり異端児だろう。アイドル史において正統派アイドルとよばれるべき人物が、現代のアイドルシーンのなかにあっては異端と映ってしまう。しかも、彼女が所属するグループに丹生明里という群像劇を復活させるための、時代の要請に応えるアイドルの出現と同時発生してしまった…。まさに、文学と云える。

渡邉美穂は、限界的な状況を日常化し、現実の敗北を覚らせる生田絵梨花と、教養小説としての生駒里奈を止揚させたハイブリッドなアイドルに映る。彼女は他のアイドルをターミナルキャラクターへと導く脅威となるだろう。しかし、その古典的な生存競争、縄張り争い(アイドルとして本来あるべきすがた)がグループを深化させるのだと、私は想う。

「君はいろいろ悔悟の種を抱え込むことになる」ミスタ・ジョンは以前ニックに言った。
「それは人生最高の経験と言っていい。悔悟するかしないかはいつも自分で決められる。とにかく肝腎なのは、そういうものを抱え込むことだ」
「僕、悪いことなんかしたくありません」ニックはそのとき言った。
「私だって君にしてほしくはない」ミスタ・ジョンはそのとき言った。
「だが君は生きていて、いろんなことをしでかすことになるんだ。嘘をついたり、盗んだりするなよ。誰だって嘘をつかなくちゃいけない。でもこの人だけには嘘をつかないっていう人を選びたまえ」
「あなたを選びます」
「いいとも。どんなことがあっても私に嘘をつくなよ。私も君に嘘をつかないから」
「がんばります」ニックはそのとき言った。
「そういうことじゃない」ミスタ・ジョンは言った。「心からそうしなくちゃいけないんだ」

(ヘミングウェイ「最後の原野」)

このきわめて外的な、感情を抑制した「現実」の描写は、避けられない不吉な予感として胎動をする。「文学」という存在は、我々を先回りして迎え撃つ。その運命から逃れることは不可能である。これからさき、ファンが眺めることになるのは、ピュアさやイノセントの領域から抜け出した、渡邉美穂が作り上げる虚構の、そこにある暗さや深さ、俗物的な情動、エモーショナルな嘆きや戸惑いだろう。その光景はファンにとっては、ひどく不愉快なものかもしれない。しかし、それがアイドルのみならず、ファン自身の自己超克を促すような力だと自覚することになる。アイドルの、成長共有というコンテンツに光が差すのを目の当たりにすることになるのだから。

 

総合評価 81点

近代アイドル史に名を残す人物

(評価内訳)

ビジュアル 19点 ライブ表現 14点

演劇表現 13点 バラエティ 17点

情動感染 18点

けやき坂46 活動期間 2017年~

評価点数の見方