SKE48 松下唯 評判記

「儚い原色の夢」
松下唯、昭和63年生、SKE48の第一期生。
ライブパフォーマンス、とくに歌唱力に秀でたアイドル。真っ直ぐに透き通った、澄み切ったヴォイスの持ち主であり、センターポジションを務めた『万華鏡』においては、たとえば、乃木坂46の中元日芽香の風姿を先駆けるような、ちいさな身体を精一杯ひろげて歌いはじめる、歌い出しの、たったひとつのワンフレーズ、それだけで幻想の世界へと引きずり込まれるような、譲ることのない輝きを放っており、尽きない可能性を感じた。
ステージの上で歌い舞うことにアイドルの熱誠のすべてを傾けているかに見えた当時のSKE48にあっても、松下のライブパフォーマンス、その実力は衆目の一致するところであり、プロデューサーの秋元康をはじめ、作り手、同業者、そしてファンの多くを唸らせ、大きな期待感で包んだ。ただ、そのグループの特色のなかで輝くという実感の強さが、松下を結果的に「アイドル」から引き剥がしてしまったようでもある。
『強き者よ』でメジャーデビューを飾ってから半年後、セカンドシングル発売の一ヶ月前に、足首の怪我によって戦線離脱する。治療・リハビリのために半年間の休業がアナウンスされる。しかし、半年を経ても、一年を過ぎても、足の怪我が完治することはなかった。踊ることにアイドルの存在理由を見出しつつあった当時のSKE48のなかにあって、ダンスにハンデを抱えながら活動することの焦燥感は、想像に難くない。
才能を見込まれた人物が、実質10ヶ月程度の活動でその物語の幕を閉じることになった、という展開をして、夭折のアイドル、と形容できるかもしれない。怪我さえなければ……、といった感慨は、プロのアスリートに向けて頻繁に発せられる、上滑りした陳腐な表現だが、松下唯にも、同様の表現を、抑えきれず用いてしまう。怪我さえなければ、おそらくこのひとは、SKE48の主要メンバーとして、活躍したことだろう。
とはいえ、現実には、松井珠理奈、松井玲奈、矢神久美、森紗雪、高井つき奈、と無限大の可能性を秘めた同期の少女たちを前にして、順位闘争への言い訳が用意できた、といったファンチャントも少なからずシーンに降ったようだ。だが、それは、きっと、誤解だろう。このひとは、とにかく幻想への憧憬が強い、夢追い人、である。アイデンティティの挫折を経験したくらいで現実感覚に縛られるようなアイドルではない。
松下唯の魅力とは、夢に対する行動力、と云えるだろうか。アニメ・漫画好きが高じてアニメ声優そのものに憧れを抱き、将来の、ほんとうの夢・目標とし行動するアイドルのストーリーは、今日では、めずらしい物語ではなくなったが、そうした少女たちの”はしり”が、この松下唯である。AKB48の佐藤亜美菜と共に現役のグループアイドルでありながら夢にみるアニメ声優を実際に体験するなど、夢や目標を言葉にしそれを叶えようと行動する、という現実を突き抜けるような、理想への献身を提示し、ファンに興奮やスリルをあたえるところにこのひとの魅力があり、その行動力ゆえに、早期の「卒業」を決断したのだろう。
総合評価 61点
アイドルとして活力を与える人物
(評価内訳)
ビジュアル 12点 ライブ表現 15点
演劇表現 11点 バラエティ 10点
情動感染 13点
SKE48 活動期間 2008年~2011年