SKE48 一色嶺奈 評価

SKE48

一色嶺奈(C)日刊スポーツ/BIGLOBE

「揺れ動く」

一色嶺奈、平成14年生、SKE48のドラフト2期生。
バイトAKB参加者であり、その群像・短編に登場した少女のなかで、もっとも高い可能性をもったアイドル。
1万時間の法則という言葉がある。”何かを極める”までに1万時間を要する、ではなく、”その職業でとりあえず、何とか食えるようになるまでの時間”が1万時間なのだとおもっている。もちろん、無為に消化した時間はカウントされない。肝心なのは、24時間、常に自身が身を置く世界についてを思考をめぐらせているかどうか。作業に没頭する時間は1日の内、8時間もあれば良いだろう。3年余りで到達できる。
職業アイドルとして、文芸という虚構に足を踏み入れた一色嶺奈。彼女もまたこの”1万時間”に到達した一人ではないか、と想像する。もちろん、ちいさなブレイクスルーにも遭遇したはずだ。この期間はアイドルを演じる行為へのモチベーションを維持しやすく、意識せずに、次の境域への扉を順にひらくことができる。しかし、現代アイドルシーンのなかにあっては、この到達点を”アイドルの成長”と扱うことは稀である。アイドルを演じる少女には、長編小説のような、厚みのある物語が求められる時代になってしまったからだ。

書き出しの一行を終えた1枚目の原稿用紙の余白を、自身の画くアイドルの伸びしろを埋めるようにして文字を書き連ねたさきには、何もない、真っ白な原稿用紙が立ち現れる。その光景は、物語を書くということを、アイドルを演じるということを、職業として、生業として意識してしまった人間を絶望させるだろう。
ほとんどの場合、この絶望感が隘路の入り口となる。そこは出口が入り口につながっている迷路だ。隘路をどのように突破するのか、行止りの壁を壊すのか、引き返す勇気をみせるのか、少女たちは岐路に立たされる。つまり、アイドルとしての資質を試される、ということだ。成長と確信したものが成長だとは受け入れられず、さらに同等以上の成長物語を求められる、という状況に少女は置かれる。それは、少女が、一色嶺奈が、アイドルとして、ではなく、ひとりの人間として、アイデンティティの確立を迫られる試練とも呼べるかもしれない。かつて一色のピュアと同質の資質を抱えていた北川綾巴は、岐路の先で”耽美”を手に入れ、驚きと落胆をファンにあたえた。北川がそうであったように、アイドルが真っ暗闇のトンネルの中で一体何を手にするのか、一色嶺奈もきわめてスリリングな展開を、期待と不安を物語っている。
この不安=不安定感に彼女が演じるアイドルの魅力あるいは本領がある、と云うべきだろうか。とにかく彼女は常に揺れ動いている。

一色嶺奈のアイドルとしての実力を問うならば、それはステージの上で作る踊りの鮮烈さにある。
うつむきを形づくるピュアの結晶、堅牢なイノセンス、といった彼女の内向は、舞台ステージ裏の暗がりを通過すると雄々しい表情に変質している。それが幼さの面影を残すビジュアルと止揚し、異彩を放つのだ。儚さにたどり着く喪失への展開性ならば、向田茉夏村山彩希西野七瀬に比肩する。まさしく、現代のアイドルシーンにおいて、センターポジションへの業を背負う登場人物の一人に映る。しかし、この逸材もSKE48という特殊な境遇にあっては、頭角を現すまで、並々ならぬ屈託を強いられるようだ。
ファンの眼前で踊る彼女は、風に吹かれて揺れる焚き火の炎のように表情が様々に変わる。「それは誰にでも簡単にできること」ではない。しかし、変わるのは表情や姿形だけでは済まされないのかもしれない。それを眺めるファンの気持ちが変わるように、彼女の内奥でもなにかが揺れ動いてい”た”のかもしれない。

そのとき順子は、焚き火の炎を見ていて、そこに何かをふと感じることになった。何か深いものだった。気持ちのかたまりとでも言えばいいのだろうか。観念と呼ぶにはあまりにも生々しく、現実的な重みを持ったものだった。それは彼女の体のなかをゆっくりと駆け抜け、懐かしいような、胸をしめつけるような、不思議な感触だけを残してどこかに消えていった。

村上春樹「アイロンのある風景」

 

総合評価 67点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 13点 ライブ表現 16点

演劇表現 8点 バラエティ 14点

情動感染 16点

SKE48 活動期間 2014年~2018年

   

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