乃木坂46 山下美月 評判記

乃木坂46

山下美月(C)乃木坂46公式サイト

「ジャーゴン・アイドル」

山下美月、平成11年生、乃木坂46の第三期生であり、11代目センター。
ジャーゴンなアイドル、と見做すべきだろうか。とりわけ既存のアイドル観のなかで――AKB的アイドル観のなかで、ということになるが――、そのカテゴリーを世にひねくれたアイデアをもって裏切っていくことで自分が王道を下敷きにして歩むアイドルだと誇示するところなどが、ジャーゴンに満ちている。
初めて表題作のセンターに立った『僕は僕を好きになる』においては、そのケレンに空回ったアイドルの横顔を作品の内にみごとに象嵌してみせ、モティーフを確立した。センターへの当為をそなえた人物であることを、多くの同業者、多くのファンに知らしめた。けれど『人は夢を二度見る』を前後して、そうした輝きは昔日のものとなっている。ジャーゴンを振る舞うことで鉄壁の演技を身に着けたが、一方ではアイドルを演じることのアイデアの枯渇に著しく、使い古した笑顔の錬成を繰り返す所為で、場面対応の欠いた、代わり映えしない、同じ顔をしたアイドルを最終的には描き出してしまうという皮肉を招いている。
そうした弱点は、言葉・文章によく現れている。24歳にしては、言葉に魅力がない。10代の頃と比べても、用いる言葉に変化がない。この点は久保史緒里とよく似ている。しかしあくまでも言葉・文章をひとつの演技としてロマンチックに誇張して見せる手腕をもつ久保に比して、山下にあるのは「アイドル」を演じきろうとする意識の荒さのみであり、ゆえにアイドルのまま大人になってしまった人間特有の、人間性の貧しさをじかにさらけ出してしまう。しかも当の本人はその醜態にまるで気がついていない。これでは、乃木坂のみならず、現在のアイドルシーン全体を代表した存在だとするその評価も皮肉にしか聞こえない。おなじくシーンを代表する柏木由紀と並び、「アイドル」がある種の幼稚さに支えられていることを体現した登場人物だと云えるだろう。
チャンスは平等だと歌い踊り、「山下美月」が王道のアイドルであることを示し、自身の卒業を飾ったが、ジャーゴンであることが禍したのか、はたまたエロチシズムをもってファンを魅了してきたことの代償なのか、王道から乃木坂らしさを垂直に問い糺したその志の高さが大衆に理解されなかったこともまた、皮肉か。

 

総合評価 64点

アイドルとして活力を与える人物

(評価内訳)

ビジュアル 15点 ライブ表現 10点

演劇表現 14点 バラエティ 13点

情動感染 12点

乃木坂46 活動期間 2016年~2024年