AKB48 中西里菜 評判記

「この夜の片隅で」
中西里菜、昭和63年生、AKB48の第一期生。
インディーズデビュー作「桜の花びらたち」から「僕の太陽」まで、7作品連続で表題曲の歌唱メンバーに選抜され、AKB48の転換点となった「大声ダイヤモンド」への参加を最後にグループを去る。まさしくAKB48の黎明期を支えたアイドルの一人であり、現代アイドルの泡沫を描いた後日の物語を含め、AKB48の通史に否応なく絡みついてくる群雄である。
「Baby! Baby! Baby!」で共に踊る前田敦子、大島優子、高橋みなみ、小嶋陽菜、河西智美、小野恵令奈、渡辺麻友、そして中西里菜と、驚くのは、2008年に制作され、カメラの前で披露された楽曲であるのにもかかわらず、平成が終わり、令和が始まった現在、あらためて鑑賞するも、そこに保存されているアイドルの姿形がまったく色あせていない点だ。中西里菜の場合、耽美的だが、トレンドに迎合した美がまねく経年劣化がなく、卒業から10年以上経った今もなお美しく、どれだけ眺めてもその姿形が映す感興は損なわれない。
作詞家・秋元康が編み上げる、音楽の内に広がる詩的世界、その世界の主人公になりきる、あるいは、自己投影の果てにそれが自分の過去であり、未来であると妄執する力をもつ少女のみ、アイドルとしての美の保存を可能とするのではないか。そしてそれがおそらく、トップアイドルと呼ばれる人間のそなえる資質のかけら、つまり才能の証しになるのだろう。
中西里菜が劇場でみせた踊りとは、自身の感情ではなく、楽曲に込められたであろう詩情を少女なりに解釈し、それをこころの揺きではなく、身体の動きで伝達しようと試みる、身振り手振りの大げさな、芝居じみて無邪気なダンスであった。だが、たしかに、それは詩的世界の登場人物に自己を重ね、自分ではない別の何者かになりきろうと懸命に踊るけなげなアイドルを映していた。
曲がりくねった道は、何ひとつ偉大なものに導いてくれないものですよ。忍耐とあきらめこそ、あなたのような境遇に置かれた若者の美徳にならなくてはいけません。
バルザック / ゴリオ爺さん
このような母性愛(小言)が、夢に突き進もうとする、都会のまぶしい場所に暮らす若者のこころにどれだけ届くのか、わからない。ファンの前でなみだを流すことは禁忌だと、当たり前のように捉え、現実の背後に覗く妥協や屈託の押し付けを意識的に看過する中西の姿勢は、夢に対する偏執を抽出し、周囲へ誇示させた。夢を手繰り寄せようともだえる行為は、夢ではなく、夢を希求している自己の姿そのものをこころの寄す処にしてしまう。この、こころの弱さが、身体の脆弱さにつながり、やがてそれが夢追い人の没落、希望の破砕として描かれた。
総合評価 63点
アイドルとして活力を与える人物
(評価内訳)
ビジュアル 14点 ライブ表現 15点
演劇表現 8点 バラエティ 12点
情動感染 14点
AKB48 活動期間 2005年~2008年