STU48 吉崎凜子 評判記
「後悔なんかあるわけない」
吉崎凜子、平成14年生、STU48の第二期生。
乃木坂46の相楽伊織によく似ている。ビジュアルだけでなく、アイドルの空気感も似通ったところがある。より正確に云えば、デビュー当時、相楽伊織に似ているとファンのあいだで話題になった早川聖来に似ている、と表現すべきだろうか。どこどこのだれだれに似ている、という話題にどうしても囚われてしまう意味では、この人もまた、新世代のアイドル、と呼ぶべき登場人物だろう。
とはいえ、同期の多くのアイドルと異なり、吉崎凜子の場合、すでにファンとある種の成長共有を運命的に遂げており、次世代を担うべき少女たちのなかにあって、強い存在感を放っている。
ファンが吉崎凜子のことを初めて知ったのはSTU48・第一期生オーディションであり、公開最終審査の末に落選、つまり、このさきもう二度とこの少女と出会うことはないだろう、という予感に満ちた、別れの寂しさを彼女のことを応援していたファンに与えたのが、吉崎凜子というアイドルの物語の序章だった。
約2年の時を経て、ファンは吉崎と再会を果たす。第二期受験生としてもう一度アイドルシーンにその姿を現した彼女を発見した際のファンの興奮がどれだけおおきなものであったか、想像に難くない。少女が「アイドル」へと変身することそのものが「成長」に映り、物語化されるという点において吉崎は今日的なアイドルの魅力の引き出しに一役買っている。無邪気さはそのままに大人びたルックスをもっての再登場には、鑑賞者の心をたしかに動転させる力が宿っていた。
ただ、結局それだけだった。アイドルの扉をひらくまでの過程が、その経緯だけがアイドルのキャリアのなかで描き出した唯一のスリル・興奮であり、話題を集めた唯一の瞬間であり、以降、SNSに端を発したスキャンダル、醜聞を別にすれば、アイドルファンのあいだで話題に挙がる場面はまったくなく、尻すぼみになって行く。こうしたストーリー展開を描くのもまた今日的なアイドルの性(さが)であり、吉崎もその類型に堕している。
吉崎凜子の失敗、早川聖来の成功、その明暗を分けたのは、STUと乃木坂という境遇、またその境遇を手繰り寄せる生まれ持った才能、これは無視できないが、両者をもっとも隔てるのは、現実の先にある幻想を常に見ようともだえ苦しんできた早川に対し、幻想の先に常に現実を見据えてきた、現実をどうしたって捨てきれない吉崎のアクチュアルな意思にある、と云えるだろうか。
立身出世を叶えようとする姿勢の弱さ、また、演技あるいは表現行為の一切に苦手意識を持ち、日常の芝居を諦めてしまうのは、ただ単に自分がアイドルとして売れないことを悟っているから、にすぎない。この点もまた現在AKBグループに所属する多くの若手アイドルに共通する話題かもしれない。生田絵梨花や齋藤飛鳥に憧れはするけれど、自分がそうなれるとは露程も思っていない。
生田絵梨花や齋藤飛鳥に直に触れた人間の方がその遠さを実感するはずだが、早川はそうした境遇にあってもなお自己を奮い立たせてきた。吉崎にはその資質がなかった、ようだ。絶対に手が届かないと思えるものを欲する無謀さと、そこへにじみ出る後悔、屈託とは無縁なのだ、彼女たちは。
その硬さ、純粋さによって、精神的な領域においてきわめて限定された場所にたてこもっているような、ひとつの思い込みに根ざして生きているようなアイドルに見える点はたしかにユニークであり、STUのなかにあっては目を引く人材におもう。そのとおりに、グループの命運をかけた『花は誰のもの？』において見事に「選抜」のイスを勝ち取ったが、志の低さゆえか特筆に値する物語を持たない。
総合評価 46点
辛うじてアイドルになっている人物
（評価内訳）
ビジュアル 9点 ライブ表現 8点
演劇表現 5点 バラエティ 12点
情動感染 12点
STU48 活動期間 2019年～
