STU48 尾﨑舞美 評判記

STU48

尾﨑舞美(C)Scramble-Egg

「一夜漬け・アイドル」

尾﨑舞美、平成12年生、STU48の第一期生。
16歳でデビューし、17歳で卒業する(活動辞退)。参加したシングルはメジャーデビュー作『暗闇』のみ。略歴を見て分かるとおり、いわゆる点綴に逸れてしまったメンバー。
長身で、かつ土着的な香気をもったアイドルで、その意味では乃木坂46の趣を備えつつ瀬戸内のイメージにも合う。STU立ち上げ当時の作り手の憧憬に合致する人物だったのかもしれない。
事実、尾﨑はグループ初のオリジナル楽曲『瀬戸内の声』で見事に歌唱メンバーに選抜され、グループアイドルとして好調なスタートを切っている。とはいえその3ヶ月後に発表されたメジャーデビューシングルの「選抜」の中に彼女の姿はなく、序列闘争の場において早くも敗北を喫することになるのだが。

少女にしては大人びたそのビジュアルがかもし出す雰囲気とは裏腹に、この人は笑うと、喋り出すとすこぶる快活で、嫌味がない。瀧野由美子のことをロマンチストと形容するなど、大胆な発想力もある。けれど第一印象を裏切るその様子が、逆説的に、容貌を前にして抱いたイメージへと強く帰結させるようにも感じる。おそらくこの人は本来的に精神の脆弱な人で、笑顔のほとんどが付け元気に鎖されているように見える。

尾﨑舞美は一夜漬けができるアイドルだ。一夜漬け、と言うと、その場しのぎの、自分の将来になんら貢献しない間に合せの打開策を意味するが、グループアイドルに限って云えば、とくにアンダーメンバーにすれば、アイドルを成り立たせるための必要不可欠な行動・チャレンジを意味する。
選抜メンバーが公演に出られない事態に見舞われたとき、急遽その穴を埋めるのがアンダーメンバーの役目なのだが、その性質上、アンダーメンバーに出演依頼がなされるのは公演日直前である場合がほとんどで、アンダーメンバーは代わりを務めることになったポジションの振り付けを一夜漬けで覚えなくてはならない。「アンダー」が「選抜」よりも上質に踊れる、経験に裏打ちされた、競争心につかれた美しい踊りを編む所以がここにある。

もちろん、アンダーであれば誰でも踊れるようになるのかと問えば、そんなわけもなく、楽曲ごとに、異なるポジションの振り付けを頭と身体に叩き込まなければならない日々に耐えきれずに脱落してしまうメンバーも数多く存在する。裏を返せば、アンダーとしての役割を問題なくこなしてしまうメンバーは作り手から身勝手にも信頼されるということでもある。尾﨑舞美もその一人であったようだ。
なんだかんだいって結果を出す人、この要望に応えるのはむずかしいだろうな、と予感するなかで、しっかりと応えてくれる人は、信頼される。ダンス経験の豊富な、実力の確かな選抜メンバーのなかに突然放り込まれる事態に直面してもなお、一夜漬けのダンスレッスンに励み、それを乗り越えてきた尾﨑舞美のことを高く評価した作り手は、瀬戸内7県ツアーの山口公演にて、センターである瀧野由美子の代打に彼女を選んだ。その際には瀧野由美子が尾﨑の家を訪ね、ダンスのアドバイスをしたという(こうしたエピソードは立ち上がったばかりのアイドルグループならではのエピソードにおもう。グループの歴史から早々に姿を消した少女の横顔をあらためて眺めることで、現役のメンバーの、逞しく成長したアイドルの、まだまだ瑞々しい姿を発見するという経験は、彼女たちの価値を教えてくれる)。その甲斐あってか、尾﨑はツアーをなんとか乗り切った。

とは言っても、そうした日々がこれからも続くのだろうという予感、誰かの代わりを務めるために、オーディションで初めて踊った頃から一つも変わらず、レッスン着に身を包んだまま、鏡の前で日々レッスンに励まなければならないであろう予感、とりわけ一夜漬けという労苦はやはり無視できない屈託となって、尾﨑の夢の重りとなったようだ。一夜漬けをする、課題を乗り越える。一夜漬けをする、作り手の要求に応えきる、という緊張感に支えられた暮らしは、その糸が一度でも切れてしまえば、もう二度とおなじ努力ができなくなってしまうものだ。堰が切れてしまえば、もう二度と、昔のようには頑張れない。
尾﨑舞美にほかのアイドルとは違うところ、なにか変わったところ、変わった記録を探るとすれば、メジャーデビュー後、最初の卒業メンバーである点に端を発するエピソードになるだろうか。劇場を持たないSTUがAKB48の劇場に出張公演した最初の日、尾﨑はファンの眼前に進み出て、活動辞退の報告をした。おもしろいのは、それがその年、AKB劇場で発表された卒業(活動辞退)報告の一人目であった点で、顔と名前の一致しないアイドルが突然目の前で活動辞退の報告をするという奇妙な光景に、ファンは唖然とした。

卒業理由については、具体的には語られていない。本人の曖昧な言によれば、あたらしいことをやりたい、であり、かねてからスカウトされていた芸能事務所への移籍が決定打となったようだ。
卒業後、現在は「シコクパンク」という男女4人組のユーチューバーとして活動している。ガリンペイロの若者のごとく一攫千金を夢見て、とてもかくても幸福をつかもうと手を伸ばしている。すでにアイドル時代よりも長く活動しているから、アイドルであった頃の彼女を語るよりも、ユーチューバーである彼女のことを語るほうが、その横顔にあるいは接近できるのかもしれない。 

 

総合評価 54点

問題なくアイドルと呼べる人物

(評価内訳)

ビジュアル 12点 ライブ表現 11点

演劇表現 8点 バラエティ 12点

情動感染 11点

STU48 活動期間 2017年~2018年