乃木坂46 ジャンピングジョーカーフラッシュ 評判記

のぎざか, 楽曲

(C)ジャンピングジョーカーフラッシュ ミュージックビデオ

「一緒に騒ぐだけで かけがえのない”とき”になる」

ミュージックビデオについて、

4期生楽曲。センターで踊るのは筒井あやめ。
「青春」の魅力をポレミックに見出し「殻を破れ」と勢い良くうたい、またそう唱えることでアイドルを演じる少女、とくにセンターで踊る少女の素顔をあばき出そうとするような意欲、詩情を提示した作詞家に対し、「アイドル」を泡に喩え物語るという大胆さをもって応えている。アイドルを桜の花びらに喩え物語ってきたのが作詞家・秋元康なのだが、泡=泡沫=夢=幻想=アイドル、と結びつけ表現する今映像作家にもまた作詞家と同等の熱誠を見る。泡を作る、というのは、平易に、アイドルを作る、という意味なのだろう。
錆びたコンパス』でも感じたことだが、この映像作家はアイドル・メンバーの素顔の笑顔を引き出すのが得意なのかもしれない。ひさしぶりにレコード屋に行って12インチ・シングルのジャケットの匂いを嗅いだような心地にさせるこのコミックな映像に触れると、自分がアイドルの眼前に立ちカメラを彼女たちに向けているような、そんな距離感を想わせる。アイドルが、思い出になる。視点運動の工夫、巧緻とでも云うべきか、脱臼された映像には冗長さがほとんどなく、飽きさせない。映像が、音楽と共にある、だけでなく、音楽を表現すると同時に演出しているようにも見える。
ミュージックビデオを演じ作るアイドルもまた音楽に対し豊富なスパイス、魅力を提示している。限りある経験の範囲内で楽曲を表現する筒井あやめの硬さ瑞々しさはもちろん、日常とは別のコケティッシュを描く佐藤璃果、邪推深い林瑠奈など、期、という括りではとても収まりきらない、乃木坂的香気を下敷きにした一つの独立したアイドルグループに見えてしまうくらいに、この15人のアイドルは、色彩豊か。終盤に描かれた、拳を突き上げる筒井あやめとそれに肩を寄せ合い笑う黒見明香の、ふたりの少女の躍動感には、色あせても絶対に消滅することがない青春の稚気が込められている。素晴らしいの一言。
なによりも引かれるのは、楽曲を演じるアイドル自身が、楽曲を演じた体験そのものが思い出になる、青春の1ページになる、という感情表現を示したことで、夏の青春ソングというテーマを満たすと同時にその青春の儚さがアイドル自身のストーリーとして、抑えきれず感傷を与える点だろうか。
ジャンピングジョーカーフラッシュと叫び、殻を破れと腕を振り上げるその「殻」が、「アイドル」そのものであってもまったく不思議ではないし、またそうであるべきなのかもしれない。もし”明日”突然、センターに立った筒井あやめが「アイドル」からの卒業を発表しても納得してしまうだけの達成感、青春の横溢が今作品には表現されているように見えるし、そうした可能性を想起させるだけの抒情が彼女の横顔、笑顔には宿っている。
総じて、今作『ジャンピングジョーカーフラッシュ』は、いつの間にか忘れてしまっていた、かつてはアイドルを前にして当たり前に見出し受容していた、アイドルの儚さ、を喚起させるだけの力を持った映像作品と云えるだろうか。

 

総合評価 73点

現在のアイドル楽曲として優れた作品

(評価内訳)

楽曲 13点 歌詞 14点

ボーカル 14点 ライブ・映像 16点

情動感染 16点

歌唱メンバー:遠藤さくら田村真佑賀喜遥香掛橋沙耶香金川紗耶北川悠理清宮レイ矢久保美緒林瑠奈、筒井あやめ、柴田柚菜、黒見明香、佐藤璃果、松尾美佑、弓木奈於

作詞:秋元康 作曲: Kuboty 編曲: Kuboty

 

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