欅坂46 もう森へ帰ろうか? 評価

楽曲, 欅坂46

(C)ガラスを割れ!ジャケット写真

「僕たちのユートピアは 現実逃避だった」

«登場する人々は、この谷に生まれ育ち、一度は多様な世界である谷間の外にでるが、やがてふたたび源としての谷に帰ってきます。谷間に流れる川は、本来の地形にあわせて流れると同時に、登場人物たちの動きからすれば、逆に流れてもいます。仮想された地形には逆勾配があるのです。「流出」の勾配と同時に、「帰還」の勾配があります。なぜ、逆の勾配が発生するのでしょうか。「四国の谷の森」に、この谷に生まれた人々が死を迎えると、魂は樹木の根から空に向かって昇っていくからです。森には、人々を帰還させる力がある。そのように「場所に力がある」のです。»

大江健三郎 / 揺れ動く〈ヴァシレーション〉燃えあがる緑の木 第二部

楽曲、作詞、ミュージックビデオについて、

欅坂46名義で発表された楽曲のなかでもきわめて独特な魅力を描き出しており、楽曲、ミュージックビデオ、ライブ表現、そして作詞と、そのすべてが白眉に映る。
作詞家・秋元康が記す詩、その得物とは、アイドルを演じる少女を鏡にした、夢への活力である。アイドルを演じる少女を啓蒙する行為が、アイドルファンに、大衆に活力を与えることになる、という構図に一貫している。アイドルに成ったばかりの少女へ向ける歌、アイドルを卒業する”彼女”の横顔をスケッチした歌、いずれも根幹にあるものは変わらない。夢への活力である。
もちろん、分析的な話をすれば、AKB48から連なるアイドルグループから排出された、シングル表題曲、カップリング曲からアルバムまで、隅々まで見渡せば、様々な、情況の異なる詩的世界が提示されているはずだが。肝心なのは、ファンから愛される、完成度の高い楽曲に限って云えば、そのほぼすべてが、夢への活力、これを題材にしている、という点にある。
『もう森へ帰ろうか?』がスリリングに感じるのは、楽曲として文句なしのクオリティを実現し、なおかつ、作詞家・秋元康から新鮮な詩的世界が差し出され、夢への活力、ではなく、夢の死を描出するからである。
この楽曲が不気味に映るのは、『風に吹かれても』の失敗に直面したグループが、自分たちが生まれた場所=『サイレントマジョリティー』の枠組みに回帰しようとする胎動を描いているからではなく、そこにアイドルの「死」が描かれているからである。アイドルの「死」とは、説明するまでもなく「卒業」を指し、夢を叶えるために幻想の世界=ユートピアにたどり着いたのに、しかし結局そこには夢の「死」があった。仮に、アイドルとして「死」ぬことが「森」へ帰ることならば、つまりすでに彼女たちにとって夢のさきにほんとうの夢を見るという世界が、希望が奪われている、ということである。アイドルとしての成功や失敗が導くもの、それが、次の、ほんとうの夢への架け橋を作るのではなく、故郷への「帰還」である、と記されている。だから、少女たちは、夢の上に築かれた物のすべてを、現実逃避だった、と捉えることしかできないのだ。アイドルの扉をひらいたひとりの少女。この「仮想」に足を踏み入れた登場人物が、しかしその夢の世界に幻滅し、森=自己を育ませた場所、つまり自己においてもっとも無垢な場所に帰ろうとする。これはグループアイドルにとっては強烈な自己否定に映るかもしれない。アイドルを演じる少女がこの楽曲の主人公になりきろうと試みる、それは皮肉の結晶でしかない。しかしまた、自己否定こそ自己の枠組みを貫くためのもっとも明確な原動力になり得るのだ、ということを教えてもいる。
しかも、作詞家・秋元康からすれば、これはあくまでもアイドルとそのファンに向けた祝詞であるのだから、やはり興味が尽きない。今作品で示した詩が、結果的に、令和がはじまった現在のシーンの核心にある問題を、いや、おそらくは今後しばらくのあいだシーンの話題の中心に置かれるであろう問題を、すでに迎え撃っているのだから。

 

総合評価 85点

現代のアイドルシーンを象徴する作品

(評価内訳)

楽曲 17点 歌詞 17点

ボーカル 17点 ライブ・映像 17点

情動感染 17点

引用:見出し  秋元康 / もう森へ帰ろうか?

歌唱メンバー:石森虹花、今泉佑唯、上村莉菜、尾関梨香、織田奈那、小池美波、小林由依、齋藤冬優花、佐藤詩織、志田愛佳、菅井友香、鈴本美愉、長沢菜々香、長濱ねる、土生瑞穂、原田葵、平手友梨奈、守屋茜、米谷奈々未、渡辺梨加、渡邉理佐

作詞: 秋元康 作曲:河原健介 編曲:河原健介

 

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