乃木坂46 ~Do my best~じゃ意味はない 評判記

「~Do my best~じゃ意味はない」
歌詞、楽曲について、
活力を得る、というのは想像する以上に難しい。これが活力です、と説明され、トレーに載せて目の前に差し出されても素直に受け取れるはずもなく、それを受け取るためには”素直の状態”を準備する必要がある。アイドルの成長へ自己を投影する行為はその素直さへ近づくためのひとつの方法であり、アイドルが作るコンテンツのひとつの魅力と云えるだろう。『~Do my best~じゃ意味はない』も活力を命題に置いているが、今作に限って云えば詩情が空回りしている印象を受ける。
『何度目の青空か?』から『期待していない自分』への移動と重なるように、『~Do my best~じゃ意味はない』が『風船は生きている』からの転換であると確信させるのは、活力を与えるための外連、対立命題的な手法の存在が看過できないからだろう。『何度目の青空か?』で描いた「空」=希望を裏切るように『期待していない自分』において「僕」は「青空のせいじゃない」、「雨空は悪くない」と云う*1。一方、『風船は生きている』から『~Do my best~じゃ意味はない』においても、「つらい時には休んだっていいじゃないか*2」という科白から「結果出さなきゃ意味ない*3」と、転換を書いている。もちろん、これを作詞家の転向などという的はずれな話題に展開するつもりはない。作家にそういった整合を求めるのはあまりにも浅薄である。
『期待していない自分』と『~Do my best~じゃ意味はない』が『何度目の青空か?』や『風船は生きている』に反動する詩でありながら、その訴えについては4作ともまったく変わらない理由は、後の2作品で描かれる”頑張っても結果を出さなければ意味がない”というメッセージや”負け犬”や”言い訳”、この表現を痛烈に映さない(活力を与える、という命題に対する)企みの明確化があり、どのような文句を置いたとしてもそれは結局、(前2作と本質的には変わらない)甘えや優しさの裏返しと捉えるよりほかないからである。最終的には、”だからとにかく頑張ろう”に帰結し、観者の活力になるように仕向けられている、と云ったら乱暴だが、しかし、『~Do my best~じゃ意味はない』が結果的には試みられた活力の付与に届かず、自己啓発の範疇を出ない矛盾を抱えるのは、この帰結の存在に因るのだろう。
こうした感慨を、楽曲を演じるアイドルに無理やり重ねるならば、今作品は山崎怜奈的な力強い前進を描いている、描いてしまっている、と云えるだろうか。つまり、”アンダー”の具える深刻さが投げつける嘆きによって生まれる生臭い共闘や救済が綺麗に排除されており、表題曲の歌唱メンバーに選抜されなかったアイドル、一度も選抜メンバーに成ったことがないアイドル、”選抜”と”アンダー”を何度も行き交いするアイドル、一度だけ憧れの舞台に立った経験のある人物、かつては”選抜”の常連だった人物、それぞれの登場人物たちへ投影が行われるときに滲み出す本物の素顔、アンダーメンバーを身勝手に自身の寄す処とする妄執=本当の活力を得るチャンスを空振りさせている。むしろ、この普遍を捨てた詩的世界は、アイドルにのみ向けられた箱庭であり、センターに立つ岩本蓮加をはじめ、若手アイドルの背中を押す楽曲へと意図的ではないのに、意図的に仕上げているように映る。平易に表現すれば、活力に対する意識が観測者効果的な矛盾をつくってしまった、と云えるだろうか。現在の乃木坂46の”アンダー”に流れる空気感(”アンダー”が作る物語に対する前時代的な希求の否定)への迎合の現れと換言することも可能かもしれない。
ミュージックビデオについて、
『滑走路』のミュージックビデオとおなじ作り手(ビジュアルプロダクション)による作品との触れ込み通り、たしかにアイドルを演じる少女の「潜在能力」を包む外郭の存在をミストシャワーといったあえて人工的な”水滴”で表現するケレンや、シックな色使いとその連なりが作る浮遊感、映像全体の構成”感”に『滑走路』をつよく想起させるものがある。なによりも『滑走路』と同様に、アイドルをうつくしく撮れている。デオドラントな安っぽさは相変わらず隠せていないものの、『~Do my best~じゃ意味はない』では乃木坂46の”菖蒲”への仕掛けや表題曲『夜明けまで強がらなくてもいい』へ連関させる為の想いが込められているようで、前作と比較するとアイドルに対する批評性が備わっており、乃木坂46に触れたことにより作り手側が次第にアイドルにのめり込んできたのではないか、と想像させる。
『滑走路』、『~Do my best~じゃ意味はない』と文句なしのクオリティを実現した点からも次作への期待を抱かざるを得ない存在と云えるが、前作と今作の間に作風や手法といった話題では「言い訳」の効かない安易な自己模倣への胎動があり、その不安が実らないことを祈るばかりである。*4
総合評価 60点
再聴に値する作品
(評価内訳)
楽曲 13点 歌詞 8点
ボーカル 13点 ライブ・映像 14点
情動感染 12点
歌唱メンバー:伊藤純奈、伊藤理々杏、岩本蓮加、寺田蘭世、中田花奈、中村麗乃、樋口日奈、向井葉月、山崎怜奈、吉田綾乃クリスティー、渡辺みり愛、和田まあや、阪口珠美、佐々木琴子、佐藤楓、鈴木絢音
作詞:秋元康 作曲:浦島健太、APAZZI 編曲:浦島健太、APAZZI
引用:*1秋元康/期待していない自分
*2秋元康/風船は生きている
*3*4秋元康/~Do my best~じゃ意味はない