欅坂46 アンビバレント 評価

楽曲, 欅坂46

(C)アンビバレントジャケット写真

「ずっと自分だけの世界に 引きこもっていたいのに」

≪両極の間に/道をさだめて人は走る。/たいまつが、あるいは燃える息が、/来て破壊する/昼と夜の/すべてこれらの二律背反を。/肉体はそれを死と呼び、/魂は後悔と呼ぶ。/しかしもしこう呼ぶことが正しいなら/喜びとはなになのか?≫

大江健三郎 / 揺れ動く〈ヴァシレーション〉燃えあがる緑の木 第二部

歌詞、楽曲、ミュージックビデオについて、

欅坂46の表題曲のなかで唯一、独立した楽曲に映る。センターポジションで踊るのは、もちろん、平手友梨奈。『アンビバレント』が提供された時点では、あるいはこの楽曲をひとつの映像として表現した時点では、いたずらに笑うのか、うつむき沈黙するのか、主人公を演じる少女の心はまだ揺れ動いていたようで、不気味、かつ、スリリング。やがて、二律背反を描いた楽曲を様々なステージの上で披露する、主人公になりきる少女が選択した結論、それは、「一人になりたい」、であった。この平手友梨奈の自己劇化を眺めた作詞家・秋元康が、その後、『黒い羊』-『10月のプールに飛び込んだ』、と迎合的に散文を記したことから、『アンビバレント』はその物語のプロローグと扱うことも可能だろう。

現代でアイドル=グループアイドルを演じる少女は、”大衆”という意味でのエンターテインメントと、創造という意味におけるアーティスティック、この両極の間でもだえ苦しむ運命にある。情報に囲繞され、ドラマツルギーと対峙し、日常を演じ、現実の自分とは別の、もうひとりの自分を作り上げる存在であるのにもかかわらず、成長の共有、つまり未成熟さを”売り”にしている所為だろうか、少女たちは芸術性から遠ざかった存在だと認定されている。
もしこの科白に疑問を抱くのならば、試しに自分の応援するアイドルについて、その魅力を真剣に、徹底的に、他者に向けて論じる自分の姿を想像してみてほしい。きっと、あなたはそこに”気恥ずかしさ”を抱いてしまった自己の横顔を発見するはずだ。アイドルにのめり込むファンがそうであるならば、かれら彼女らの鏡となる、アイドルを演じる少女自身が、現代のアイドルのあり方にどこか”気恥ずかしさ”を抱いていたとしても、それは当然の帰結と云えるわけである。青春の汗を流しアイドルを真剣に演じる一方で、グループアイドルの作り上げるあらゆるコンテンツに対し、それらはアーティスティックな分野からかけ離れたものだ、と定め、揶揄を投げつけてくる大衆を前にして、少女たちはそれを無視できず、アイドルを演じる行為を恥じている自分がいる、と心に秘めてしまうわけである。
このような二律背反が眼前に置かれたとき、自分とは別のなにものかになりきる、自分とは別のなにものかをそれが本来の自分だと妄執し表現する、という行為に打ち込んできた平手友梨奈が「一人になりたい」方を選択し、ステージの上で蹌蹌踉踉(そうそうろうろう)としたのも、当然の成り行きとするしかない。
もし、いや、仮に、平手友梨奈が相反する二つの感情のうち、「自分だけの世界に引きこもっていたい」と願う感情、つまりは芸術家としての、表現者としての、「孤独なまま生きていきたい」と渇望する姿勢の”表現”を試みた結果、それに囚われ、「青空」が見えない暗い部屋から帰還することができなくなってしまったのではないか、と窺うならば、たとえば、純文学小説を読み終えたあと、本を閉じ、視線をあげると、自分を囲んでいるものすべてがみすぼらしく感じてしまうあの瞬間とおなじように、自分の居る場所が、大衆向けのエンターテインメントを描く空間がひどく情けないものになりさがってしまったのではないか、と穿つならば、それはやはり、あまりにも陳腐であり、安易で凡庸な解釈にみえてしまう。だが、一方で、頭を振るも、しかしその解釈に疑問を差し込み否定するための動機の発見が困難だという事実に、私は、観賞者は直面するのである。
相反する感情を抱いたとしても、結局、人は一つの行動選択しかとれない。そしてその行動選択の積み重ね、集大として現在の自分が在る。この事実に遭遇し、可能性の死を確信し、取り返しがつかない過去への後悔を抱え込み、人は、彼女は絶望するのである。

『アンビバレント』でとくにおもしろいのは、「自分だけの世界に引きこもって」しまった平手友梨奈、圧倒的な主人公の欠落によって、元々物語のなかにいた末端的登場人物=他のアイドルが、物語の主人公となって再登場する”得失”を、つまり群像を描いている点である。突然、物語の主人公に置かれた少女たち、あるものは、いたずらに笑いかけ、あたらしい世界観をファンに植え付ける。あるものは、もし彼女がセンターだったら、というアナザーストーリーの働きかけによってファンを常に期待感で支配してきたにもかかわらず、いざセンターに立たされると凡庸が浮き彫りになり、ファンを落胆させてしまった。おそらく、平手友梨奈の代わりにセンターポジションに立ったほとんどの少女が、シーンに生き残ったものの、身も心も打ちひしがれ損なわれてしまった。しかし、この”絵”こそまさしく人間喜劇であり、グループアイドル特有の群像劇なのだ。
『アンビバレント』は、アイドルが踊ること、歌うことへの本物の批評空間を、シーンの中心に建築することに成功した、刮目すべき傑作である。(*1)

 

総合評価 81点

現代のアイドルシーンを象徴する作品

(評価内訳)

楽曲 16点 歌詞 16点

ボーカル 14点 ライブ・映像 19点

情動感染 16点

引用:見出し、(*1) 秋元康 / アンビバレント

歌唱メンバー:平手友梨奈、渡邉理佐、小林由依、織田奈那、齋藤冬優花、守屋茜、渡辺梨加、尾関梨香、米谷奈々未、石森虹花、佐藤詩織、上村莉菜、菅井友香、土生瑞穂、鈴本美愉、長濱ねる、小池美波、長沢菜々香

作詞:秋元康 作曲:浦島健太、TETTA 編曲:浦島健太、TETTA

 

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