乃木坂46 井上和 評判記

「シーンの消長を問う存在」
井上和、平成17年生、乃木坂46の第五期生であり、15代目センター。
シーンの消長を問う存在として、ファンからは期待感を、同業者からは羨望の眼差しを、作り手からは重責を、一身に浴びている。一握りの少女だけが経験するその緊張感に浸された横顔は、きわめて雄々しいものだ。緊張感に包まれれば包まれるほど、人は力強く飛翔するものだが、凡庸な人間であれば、そもそもその緊張感に負け成長を止めてしまう。井上和がどちらであるのか、問うまでもないだろう。
それはたとえば、自身がセンターを務める作品に向ける熱誠、とくに踊りにおける美しさを彫琢しつづける姿勢に明らかである。『絶望の一秒前』を初めてファンに提示してから今日に至るまで、音楽に向けた、解釈の能力、表現力においてその伸長を止めない。ステージ毎に「アイドル」の表情を変え、ファンに音楽の新たな一面を示しつづけている。自己のビジュアルにもたらされる情動がアイドルの物語化を叶えるという点では白石麻衣に並ぶ、エキゾチックなフィジカルが表現力をかきたてる点では門脇実優菜に比肩する逸材であり、これまでのアイドルでは併せ持つことができなかった資質を両立するという意味においてまさしく新時代の幕開けを告げる登場人物である。
『しあわせの保護色』を現代的事象のなかで語り直した『おひとりさま天国』においては、音楽をもって日常のエスプリを表現することで白石麻衣に備わることがなかった多様性の一つを、「白石麻衣」というテクストの上で獲得し、見事にアンガージュマンを担った。井上がアンガージュマンたり得るのは、「ガールズルール」という白石麻衣が背負ったカテゴリー、つまりアイドルを相対にして一般的な女子のしあわせを追求し音楽に語るという役目を継いでいるからである。白石と比べ際立つのは、乃木坂の輪に入ることで和らいだ緊張感の内にキュートな笑顔をかいま見るのは同じにしても、その並外れた美貌がもたらすであろう気さくさによって、井上は他者のパーソナルな部分に自然と寄りかかり虜にする点である。いよいよ、独走体勢をかためつつある。
総合評価 77点
アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物
(評価内訳)
ビジュアル 17点 ライブ表現 16点
演劇表現 15点 バラエティ 14点
情動感染 15点
乃木坂46 活動期間 2022年~