NMB48 市川美織 評価

市川美織(C)田中利行/1996-2019 HINODE PUBLISHING co., ltd

「フレッシュレモン」

小顔の持ち主なのかどうかという観点のみがルックスの優劣をはかる定規とされる、なんとも滑稽な風潮が我が国にはあるようだが、その茶番に従ってアイドルの序列を決めるならば、市川美織の”妖精感”に優るアイドルは存在しない。
ちいさな躰から放つ煌めきが宙を舞い少女の足跡の上に降り積もって行く、その光景が内向からの脱出にイメージされ、色褪せない風姿が記録される。確固たる哲学と理念を感じる少女の踊り。ただリズムに合わせての動きではなく、演劇と呼べる揺きを市川美織は舞台装置の上で作る。彼女の動作には、ひとつひとつ意味があり、登場人物の視点、つまりストーリーがある。それは、後に欅坂46がアイデンティティとする”歌唱と演劇のすり替え”を先駆けていたようにおもう。市川美織は間違いなく、現代アイドル史においてトップクラスの表現力の持ち主と云えるだろう。

演技力については、兼任や移籍という境遇の振り回し、第九期生との交錯、対峙、紆余曲折の通過を経ても、自身が作り上げた架空の登場人物を最後まで「楽天的」に演りきったという点は称賛に値する。アイドルを演じる少女は自我を獲得する過程で、良くも悪くも変化してしまうものだが、市川には物事を”長い距離感”で捉える資質が備わっており、彼女は架空の世界の家郷を喪失しても、航路から逸れることなく、「過去に捕らわれずに未来に眼を向け」そのまま前進することを可能とした。市川の持つ距離感や「バランス感覚」とは、天から授かる、生まれ持った才ではない。それは幼少期からの教育と生活環境に拠ってのみ備わる資質である。(*1)

それゆえか、母の愛情を満身に浴びて育つ。
生涯を通じて彼を特徴づけたことの一つは、絶望的な状態になっても機嫌の良さを失わなかった点であった。
楽天的でいられたのも、ゆるぎない自信があったからだ。幼時に母の愛情に恵まれて育てば、人は自然に、自信に裏打ちされたバランス感覚も会得する。
そして、過去に捕らわれずに未来に眼を向ける積極性も、知らず知らずのうちに身につけてくる。

塩野七生「ユリウス・カエサル -ルビコン以前-」

市川美織がインタビュー時に語った母親とのエピソードから、私はこの一文を想起した。「絶望的な状態になっても機嫌の良さを失わなかった」市川美織の笑顔とは、ファンに活力を、夢を与える豊穣な物語を描く原動力となった。彼女の作ったアイドルを読むことは実りのある特別な時間の共有と呼べた。ちいさな躰から溢れでてしまう感情を、エピソードを拾い集めることで、ファンとアイドルが妙な一体感を獲得するのだから稀有な人物と云えるだろう。ただし”フレッシュレモン”に固執する、縋る、よすがにする、というのは終わりのない自己模倣として隘路への入口を開いてしまい、境遇がもたらす苦悩や苦闘、受動という困難に打ち勝つ物語の提供こそ叶ったが、自身が演じるアイドルの枠組みを押し広げるような能動的な場面は一度も描いておらず、自己超克という難題をクリアすることは叶わなかった。(*2)

 

総合評価 74点

アイドルとして豊穣な物語を提供できる人物

(評価内訳)

ビジュアル 16点 ライブ表現 16点

演劇表現 14点 バラエティ 15点

情動感染 13点

NMB48、AKB48 活動期間 2010年~2018年

引用:(*1) (*2)「」塩野七生「ユリウス・カエサル -ルビコン以前-」

評価点数の見方